上 下
53 / 556

第53話 なお容疑者は意味不明の供述をして犯行を否認しており

しおりを挟む
「…あの、お兄様…」

 ポーラ姫は俺の手を握ったままじりじりとその身を近づいて来た。
 うん? 何か近く無いですか?
 あの、お姫様?
 俺は思わず後ずさったが。俺の背中に響くドン! という音と共に城の厚い壁が立ち塞がった。
 ポーラ姫は動きを停めた俺の胸の中にずいと入ってくる。
 えっ、これって噂に聞く壁ドンですか!?

「…ケイガお兄様…」

 金髪碧眼のお姫様はその瞳を潤ませながら俺の目を見上げた。
 あの、近い! 近いですよ!

「…どうぞ…」

 ポーラ姫はその吐息を感じる距離にまで俺の顔に寄ると、目を閉じてその可憐な唇を差し出した。
 またしても俺は驚きの余り固まって動けなくなった。

「…いい加減にしないかポーラあーー!!」

「きゃうン!」

 金髪碧眼の見た目完璧なお姫様は、その可憐な頬に添えられたミリィの大きな杖にぐぐいっと全力で押しのけられて、そのまま顔から地面に墜落、ずざああああ! と凄い勢いで地面を滑った。
 すごく…痛そうです…。
 しかし彼女は元気良くむくりと起き上がるとミリィに駆け寄って抗議の声を上げた。

「いきなり杖で力いっぱい押しのけるなんて酷いですわミリィお姉様!!」

「だから暴走している愚妹(ぐまい)を鎮めるのも姉の役目だって言っているだろうポーラ!
儀式は手を握るだけだって言ったよね! 何で口づけまでしようとするんだい!」

「ケイガお兄様はたくさんの妹たちのお相手をされてお疲れの様子でしたわ、そこでわたくしはお兄様を元気にして差し上げようと思いましたの。
古の時代から、乙女の口づけは勇ましい殿方の戦士に力を与えるのが定番ですわ。
ですから不肖ながらこのポーラは、お兄様に唇を捧げて少しでも元気になって頂きたいと思ったのです」

 ちょっと何言ってるのこのお姫様っ!?
 そんなことしたら俺のナニカも元気になってしまうでしょうがあああーー!!
 俺は心の中で絶叫した。
 正直いって今のは危なかった。
 もしミリィが居なかったらどうなっていたかわからない。
 俺は凄い剣幕でポーラ姫を叱りつけているハーフエルフの美少女に心の底から感謝した。

「…ふふっ、それっぽい事を言っている様だけど、論理が飛躍し過ぎているよ! 本音は兄君様と口づけしたかっただけだよねポーラぁ!!
姫騎士団(プリンセスナイツ)! ケイガ兄君様の妹の立場を著しく逸脱しようと企んだこのポーラ容疑者(18)を逮捕したまえ!」

「はっ、公爵様。
…姫様、残念です。
いくら我が剣を捧げる主(あるじ)とはいえ、私達ケイガ兄様の妹の中でひとりだけ抜け駆けしようとしたその罪、断じて見逃すことはできません」

「さあ姫様こちらへ」

「参りましょう姫様」

 シノブ団長に手を引かれ、イチョウとクレハに両脇をがっしりと固められたポーラ姫はこの場から連行されて行った。

「ちょ、ちょっと待ってください! これは何かの間違いですの! ポーラ何も悪くはありませんわ!
ちょっと唇が触れるだけ! ちょっと触れるだけのつもりだったんです!
ケイガお兄様! ユウカ様! わたくしは無実ですわ! どうか信じて下さい!」

「…ポーラさん、残念だけどあたしも全然擁護できないよ…ごめん」

「ああっ、お兄様助けて! ケイガお兄様あーー!!」

 ポーラ姫の悲痛な叫びが周囲に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...