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第10話 赤い夕陽と誓いと転移の光
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夕日が空を大地を赤く染める。
地ノ宮神社の境内は小高い丘の上にある。
その境内の裏から見下ろす、夕日に赤く染められた町の姿は日常と非日常を併せ持った光景であった。
「綺麗…」
優羽花(ゆうか)はその光景に感激の言葉を漏らす。
「そうですね…今日の夕日の赤色はいつもよりも鮮やかだと思います」
静里菜(せりな)が優羽花の言葉に答える。
「ふう…今日は久しぶりに一日中身体を動かしたなあ…とりあえず全ての”型”を試してみたけどやはり技にキレがない、これは時間をかけて取り戻すしかないかあ…静里菜、神社の境内の裏を鍛錬の場に使わせて貰ってありがとうな」
「ふふっ、これぐらいお安い御用ですよ。婿殿(むこどの)が久しぶりにやる気になったってお父さんも喜んでましたし」
「ちょっと待ちなさい静里菜! 今聞き捨てならない言葉が聞こえた様な気がしたのだけど?」
「気のせいですよ優羽花」
「家族を巻き込んで既成事実(きせいじじつ)みたいにするのは、ぎ妹同盟(ぎまいどうめい)に違反するってあたしは言いたいの! ちょっと静里菜聞いてるの! こっち向きなさいよ!」
優羽花はすごい剣幕で問い詰めるが静里菜は涼しげな顔で聞き流している。
口喧嘩で優羽花が静里菜に勝てた試しを俺は知らない。
「優羽花、静里菜。こんな時間まで俺の身体の鍛錬に付き合わせてもらってありがとうな」
「…あたしは暇だっただけだし! べ、別にお兄のちょっぴり格好いい姿を久しぶりに見たかった訳じゃないんだからね!」
「わたしはこの神社に勤める巫女ですから何の問題もありません。兄さんの使う地ノ宮流気士術(ちのみやりゅうきしじゅつ)の型を久しぶりに見れてこちらこそ目の保養でしたよ」
「うーん、ちょっと買いかぶりじゃないかあ? 俺は師匠…静里菜の親父さんに比べたらまだまだだし、ずっと引き籠りだったから技のキレも無くて見ごたえなかったろう?」
「…そんなことないわよ! お兄は誰よりも凄いんだからね!」
「そんなことはありません、兄さんはいつだってすごいです」
「…ありがとう」
俺は二人の妹に感謝を述べた。
いつも妹たちには元気付けられている。
俺は勤めていた会社の尊敬する上司に裏切られ全ての過失を押しつけられ会社をクビになった。
そしてその上司は出世した。
これが社会の実情だった。
俺は絶望した。
全てが虚しくなって何のやる気も起きなくなって引き籠りになった。
でも妹たちはそんな俺を見捨てずにずっと気に掛けてくれた。
素っ気なく見えて本当は優しい優羽花。
いつもにこやかに俺に接してくれる静里菜。
この世の中は悪意ばかりなのかもしれない。
絶望ばかりなのかもしれない。
でもこの二人の妹の優しさは確かにここに在る。
優羽花。
静里菜。
俺のかけがえのない大切な可愛い妹たち。
「優羽花、静里菜。
今まで呆けていて悪かった。
不甲斐ない兄をどうか許してくれ。
いつも俺を気に掛けてくれてありがとう。
もう俺は大丈夫だ。
俺はもう一度頑張ろうと思う。
たとえこのセカイが悪意と絶望だらけのセカイだったとしても、俺の心は二度と折れたりはしない。
そしてこれからは、頼れる兄になって、二人を俺に護らせて欲しい」
俺は優羽花と静里菜に向けてそう言うと両手を差しのべた。
「…はい、兄さん」
静里菜は、はにかみながら俺の左手にその白菊の様にたおやかな手を乗せてうなづいた。
優羽花は頬を赤らめながらそわそわしていたが、意を決したかのように俺の右手にその向日葵の様に活気に満ちた手を勢いよく乗せる。
「…ちゃんと、護ってよね」
「ああ、約束する。俺は大切な妹たちをずっと護るよ」
その時、三人の兄妹の背後の赤い夕陽がひと際赤く輝いた。
その赤い閃光はその場の全てを飲み込んで、そしてその光が消えたとき、其処には誰も居なくなっていた。
地ノ宮神社の境内は小高い丘の上にある。
その境内の裏から見下ろす、夕日に赤く染められた町の姿は日常と非日常を併せ持った光景であった。
「綺麗…」
優羽花(ゆうか)はその光景に感激の言葉を漏らす。
「そうですね…今日の夕日の赤色はいつもよりも鮮やかだと思います」
静里菜(せりな)が優羽花の言葉に答える。
「ふう…今日は久しぶりに一日中身体を動かしたなあ…とりあえず全ての”型”を試してみたけどやはり技にキレがない、これは時間をかけて取り戻すしかないかあ…静里菜、神社の境内の裏を鍛錬の場に使わせて貰ってありがとうな」
「ふふっ、これぐらいお安い御用ですよ。婿殿(むこどの)が久しぶりにやる気になったってお父さんも喜んでましたし」
「ちょっと待ちなさい静里菜! 今聞き捨てならない言葉が聞こえた様な気がしたのだけど?」
「気のせいですよ優羽花」
「家族を巻き込んで既成事実(きせいじじつ)みたいにするのは、ぎ妹同盟(ぎまいどうめい)に違反するってあたしは言いたいの! ちょっと静里菜聞いてるの! こっち向きなさいよ!」
優羽花はすごい剣幕で問い詰めるが静里菜は涼しげな顔で聞き流している。
口喧嘩で優羽花が静里菜に勝てた試しを俺は知らない。
「優羽花、静里菜。こんな時間まで俺の身体の鍛錬に付き合わせてもらってありがとうな」
「…あたしは暇だっただけだし! べ、別にお兄のちょっぴり格好いい姿を久しぶりに見たかった訳じゃないんだからね!」
「わたしはこの神社に勤める巫女ですから何の問題もありません。兄さんの使う地ノ宮流気士術(ちのみやりゅうきしじゅつ)の型を久しぶりに見れてこちらこそ目の保養でしたよ」
「うーん、ちょっと買いかぶりじゃないかあ? 俺は師匠…静里菜の親父さんに比べたらまだまだだし、ずっと引き籠りだったから技のキレも無くて見ごたえなかったろう?」
「…そんなことないわよ! お兄は誰よりも凄いんだからね!」
「そんなことはありません、兄さんはいつだってすごいです」
「…ありがとう」
俺は二人の妹に感謝を述べた。
いつも妹たちには元気付けられている。
俺は勤めていた会社の尊敬する上司に裏切られ全ての過失を押しつけられ会社をクビになった。
そしてその上司は出世した。
これが社会の実情だった。
俺は絶望した。
全てが虚しくなって何のやる気も起きなくなって引き籠りになった。
でも妹たちはそんな俺を見捨てずにずっと気に掛けてくれた。
素っ気なく見えて本当は優しい優羽花。
いつもにこやかに俺に接してくれる静里菜。
この世の中は悪意ばかりなのかもしれない。
絶望ばかりなのかもしれない。
でもこの二人の妹の優しさは確かにここに在る。
優羽花。
静里菜。
俺のかけがえのない大切な可愛い妹たち。
「優羽花、静里菜。
今まで呆けていて悪かった。
不甲斐ない兄をどうか許してくれ。
いつも俺を気に掛けてくれてありがとう。
もう俺は大丈夫だ。
俺はもう一度頑張ろうと思う。
たとえこのセカイが悪意と絶望だらけのセカイだったとしても、俺の心は二度と折れたりはしない。
そしてこれからは、頼れる兄になって、二人を俺に護らせて欲しい」
俺は優羽花と静里菜に向けてそう言うと両手を差しのべた。
「…はい、兄さん」
静里菜は、はにかみながら俺の左手にその白菊の様にたおやかな手を乗せてうなづいた。
優羽花は頬を赤らめながらそわそわしていたが、意を決したかのように俺の右手にその向日葵の様に活気に満ちた手を勢いよく乗せる。
「…ちゃんと、護ってよね」
「ああ、約束する。俺は大切な妹たちをずっと護るよ」
その時、三人の兄妹の背後の赤い夕陽がひと際赤く輝いた。
その赤い閃光はその場の全てを飲み込んで、そしてその光が消えたとき、其処には誰も居なくなっていた。
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