上 下
1 / 556

第1話 無職ニートとツンデレな妹

しおりを挟む
 俺の名前は鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳。
 とある会社に務めていた俺は、やり手で尊敬していた上司に捨て駒にされ、全ての失敗の責任を押し付けられ会社をクビになった。
 そして上司は出世した。
 俺は世の中に絶望した。
 そして何もする気力がなくなり、自宅に引きこもる所詮無職ニートになった。


「全ては私の判断を無視した彼の独断が起こした失態です、よって全ての責務は彼にあります」

「なっ!?」

「なるほど、それでは彼に全ての責任を取って貰ってクビと云う事になるね」

「うう…」

 これは俺が会社の査問委員会に掛けられてクビを宣告させられた時の出来事の夢…。
 会社をクビになってから半年も経つが未だに夢に出てきてうなされるのである。
 うう…息が苦しい…誰か…俺を…助けてくれ…。


「お兄ちゃん…お兄ちゃん!」

 遠くで誰かが呼んでいる。
 俺を心配する声。
 俺は声の聞こえる方向に手を伸ばした。
 意識が覚醒し、俺は悪夢から目を覚ました。

「…はあッ!?」

 俺は大きく息を吐くように声を出してベッドから飛び起きた。汗でぐっしょりだ。
 この悪夢を見るのはこれで何十回目だろうか。
 何度見ても馴れるものではない。
 そしてここがあの恐ろしい査問委員会が行われた寒く狭苦しい会社の一室では無く、温かい自分の家の自室であることに俺は胸を撫でおろし、心から安堵した。

「…はいお兄、タオル。汗すごいから拭いたら?」

 俺の妹、鳴鐘 優羽花(なるがね ゆうか)は素っ気ない態度で俺にタオルを差し出した。

「ありがとう、優羽花。俺がまたうなされていたのを心配してくれたんだな」

「べ、別に! あたしはお兄の心配なんかしてないし! タオルだってたまたま持っていただけだし!」

 そう言って彼女は頬を赤らめながらそっぽを向いた。
 優羽花は優しい子なのだが、何故か俺に対しては素直にその優しさを出そうとはしない。
 アニメや漫画の言葉で言うのならいわゆるツンデレなのであろう。
 …まあそのデレというものが具体的にどういったものなのか俺は見たことは無いのだが。
 今日の俺は素直じゃない彼女にちょっとだけ意地悪をしたくなって次の言葉をかけた。

「…そうか? 俺は夢のなかで優羽花が”お兄ちゃん! ”って呼んで心配していたのが聞こえたぞ。
お前は小さいころ俺の後ろからお兄ちゃんお兄ちゃん言っていつもついて回っていたもんなあ…。
でも俺は久しぶりにお兄ちゃんって呼ばれて結構嬉しかったぞ」

「はあ!? あたしお兄ちゃんなんて言わないし! 16歳にもなってお兄ちゃんなんて言う訳ないし!
妹にお兄ちゃんなんて言われて嬉しいなんてキモいし! ば、馬鹿じゃないの!」

 優羽花は顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら激怒した。
 うむ、予想通りの反応に思わず吹き出しそうになった。

「何ニヤニヤしてるのよお! 本当キモい! 馬鹿お兄! 朝ごはんの準備出来ているからね! 冷めちゃうから早く食べてよね!」

 優羽花はそう言って床に置いてあったクッションを俺に向かって投げつけると部屋から出ていった。
 だが彼女のこの行動も俺にとっては予想通りの反応である。

 俺は優羽花は投げたクッションを床に置くと掛け布団を畳んだ。
 そして自分の部屋を出て階段を降り、一階にある食堂へと向かう。
 食卓のテーブルの椅子には既に優羽花が着席して、俺を待ってくれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

処理中です...