BUG(バグ)~蟲の国ではすでに人間様は強者ではない~

こんぶおにぎり

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能力の発現

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「どいてろ!!」

扉から比津見が入ってきた。
凄まじいスピードで蟲にとどめを刺した。
蟲の体は見事半分にスパッと斬れており、小さな鳴き声をあげて死んでいった。

「大丈夫か?」

カッコよく登場し、そっと手を差し伸べてくれる。
智尋は手を取って起こしてもらった。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」

優しい言葉をかけられた智尋はとても安心した。
この時、比津見さんがキラキラと光り輝いて見えていた。
智尋は目の奥からあふれてくる涙がこぼれないよう、上を向いて止めた。

「ありがとうございます。比津見さん」

智尋はそのまま走り出し、修司のところへ行った。
食いちぎられた場所からは血が滴り落ちていて、これ以上放置すると出血多量で死んでしまいそうだ。
自分のシャツをビリッと破り止血を行う。
南が医療キットを持ってきた。

「おーおーこれはまたずいぶんとやられたね。それほど心配しなくてもいい。適合者なら大丈夫だ。くっつ
けていたら自然と治るよ。1週間程度で。大丈夫だからそんな顔するな智尋」

智尋の顔には心配だと出ていたようで、何度も大丈夫と言っている。
凄く手際が良く、スイスイと腕を縫い付けて包帯をグルグルと巻いた。

「それにしても、何でこんなにやられたんだい?ナイロの武器があればハエ型の蟲など大したことないだろう?」
「武器なんてありませんよ。素手で戦わされたんです」

南さんは目を大きく見開いており、あたりの蟲を観察して言った。

「なるほど。一匹は刃物で斬られているから比津見だね。この二匹は誰が倒したんだい?」
「修司です」
「そうかそうか。ハハハッ、痛みは生存本能を刺激するから、こいつは恐らく腕の力が強くなるぞ。それより、実験がうまくいったんだ。動物のDNAも安全に体の中に入れることが出来るようになったんだ。」

はしゃいでる姿は可愛い。
だけど、実験中とかの顔は想像したくない。絶対にだ。
彩香も比津見さんに起こしてもらっていたようだ。
しかし、肩を貸してもらわないと立っていられない状況だ。
腕もひびどころでは済んでいない可能性もありうる。

「よく死ななかったな~♪」

いけ好かない白髪野郎が降りてきたようだ。
秋姉とのどかも一緒だ。

「おにーちゃん大丈夫?」
「智尋くん大丈夫ですか?」

二人ともとても心配してくれる。
体の至る所をチェックされた。
勿論、肋骨が折れていることもバレた。
バレるとまた騒ぎ始める。

――このまま心配かけ続けるのはだめだ。
もっともっと強くなって、みんなを守れるようにならないといけない。
今回は修司の腕一本だけで済んだが、全員死んでしまう可能性だって十分にあり得る。

智尋は強く心に誓った。

「武器があるなら渡してくれよ」
「渡したらすぐに終わっちゃうからな♪」

少し怒りのこもった言い方になったが、一色は相変わらずである。

「おい、一色。適合者を減らすような真似はやめろ」

南がキレた。
普段温厚な先生がキレるときくらい怖い……

「わーたよ、南ちゃん♪」

やはり一色の態度に変化はなかった。
南は大きなため息をついた後、注射を打ってから帰るようにと指示した。
一色は笑いながら扉の奥へと消えていった。
智尋たちを閉じ込めた時のように……

「お前たちは私についてこい。こいつらの診察と他の奴には動物DNA入れてやるから。」

ついた場所は以前身体検査をしたところだ。
検査も終わり、注射も打ち終わった。

智尋は肋骨の骨が二本折られていた。
修司は腕意外には特に問題なし。
彩香は左腕の骨が折れていた。

すると、段々と胸のあたりが熱くなってくる。
服を脱いで確認してみると黒色の板のようなものが張り付いていた。

「なんだこれ!気持ち悪いぞ」

南は顎に手を当て、少し考える。

「これは…昆虫の外骨格かもな」
「外骨格……」

手で叩いてみるとコンコンッとい良い音が鳴った。
南はガサゴソと何かを探しており、注意深く見ていると、パンッと軽い音がする。
手に持っていたのはハンドガンで、脇の下から智尋に向かって打ったようだ。

「何するんですか!」
「驚いたぞ。君は蟲型で創造系の能力らしい。恐らく、アイメも蟲型の外骨格の能力持ちだろうが、自然体系だろうな」
「創造系ってなんとなくイメージできるんですが、自然体系って何ですか?」
「自然体系は体に蟲や動物の特徴が出るわけではないが、能力はしっかりと備わっているということだ。例えばゴリラの能力が発現した場合、腕がゴリラにならずともゴリラのパワーが与えられている感じだ。実際はゴリラよりも高いパワーが与えられるだろうがな。能力を使うときにゴリラの腕に変化するのなら変化系だ」

南は紙を取り出し、色々と書き出す。

  能力系統
・自然体系:元の体と同じまま。能力はある。
・変化系:体の一部が変化する。
・創造系:体の外部に出現できる。
・操作系:蟲を操る。希少

「簡単に書いてみたつもりだが、どうだ?特に、これが強いとかはない。使い方次第だろう」

南は説明を続けるが、智尋はしっかり聞いているとはいい難い状況だった。

「俺は、俺は攻撃力が欲しかったんだけどな……」

智尋の表情は何とも言えないものだった。
それは、智尋がみんなを守ることを誓ったからである。
しかしながら、南には溢れんばかりの喜びが満ちていた。

しばらくすると、彩香にも能力が発現し始めた。
左腕への熱さに苦痛の声を漏らすが、やがてそれも収まった。
特に変わった様子はないようである。

自然体系だろうか。

自然体系の場合は自分に何の能力が発現したのかが分かりにくく、発見するのに時間がかかる場合がある。
彩香が左手に力をグッといれると、長く鋭い爪が生えた。

「うわっ、これどーなってんの?」

ピョンピョンと跳ねながら驚いている。

「それは、見るからにネコの爪だな」

南は即座に答えた。
しかし、爪といっても非常に長く、鋭いものだった。
普通の爪ではない。

「あーしネコめっちゃ好きなんだよね。可愛いし」

彩香は非常に気に入ったようで、自分の爪をジーーと眺めていた。
修司はまだ眠っており、腕の縫い目も紫色になっていた。

「南さん。これ本当に大丈夫なんですか?」

智尋は心配になってきて尋ねる。

「ああ、食いちぎられてるから時間は必要だがな」

智尋はホッと胸を撫でおろした。
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