GROUND ZERO

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Act.12 受け継がれぬ意思

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「腕、ある依頼を請けたんだ。つー事で、ちょっと出てくるぜ。なに、直ぐに戻るさ」
彼は私にそう言い残して、何時もの調子でふらっとマーケットへ買い物にでも出掛ける様に行ってしまった。
山猫とは長年一緒に暮らしているので、当然理解はしているのだが、請負人という稼業はひどく不安定な仕事だ。
依頼に決着がつかなければ、家を数日空けるだなんて事は何ら珍しくも無い。
まあ、彼の場合、その自分本位な性格が災いして、数分後には戻って来て部屋で寛いでいたなんて事も多々あったのだが…
ただ、今回ばかりはそれらのどのパターンにも当て嵌らない異様な事態だった。
彼が依頼を請けて、現場に出向いてから何の報せも無い。
そんな状態が続いてから、既に一ヶ月もの時間が経過していた。
それでも、山猫が私の元に戻って来る事は無かった。
私の頭の中である一つの結末が浮かび上がって来る。
それだけは、出来るだけ考えたく無い可能性だったが、心の片隅で何時かこんな日が来る様な気がしていた。
「ちゃんと帰って来なさい。私をうっかりコップを二つ用意してしまう様な寂しい女にはしたく無いでしょう?」
彼が物騒な依頼を請け負う度に、私は冗談と本気の入り混じった言葉を掛けていた。
ただ、彼はもう私の傍には居ない…そうだ。請負人、山猫は死んだのだ―

………

彼がその姿を消してから数週間が経過した頃。
私は碌に明かりも点けず、一歩も外に出ない生活を送っていた。
自身の心境との高低差を感じる、窓から差し込む強い陽射しに苛立った。
私は、雨が好きだ。
ただひたすら、篭っていた。
慣れ親しんだお気に入りの書物が取り揃えられている部屋、自分の世界にではない。
あまり入り浸った事の無い山猫の部屋でずっと過ごしていた。
部屋の主が居ようが居まいが、此処は何時も散らかっている。
何度か片付けなさいと促した事もあったのだが、次の日には良くなる所かもっと酷くなっている。大体そんな調子だった。
無数の書籍と紙媒体の切れ端が無造作に散らかっており、棚には世代ごとに対応した読み取り装置と電子記憶媒体が押し込められている。
また、部屋の所々には出土した小型の自動人形のボディや脚部が散乱していた。
彼が回収業者の熊に倣って出土品の修復を行おうとして引っ掻き回したのだろうか。
部品に掛かったまま、ぶら下がっている工具を見るにおそらく途中で諦めた様だ。
その雑多に散らかった空間で、私が数日に渡って何をしていたのかというと彼の真似事だ。
山猫は仕事が一段落ついた時に趣味なのか部屋の中でよく記憶の拾い読みをやっていた。
私は、彼が読み漁っていたメモリーを端から順に引っ張り出してなぞってみる事にした。
その内容を紐解くと、古代文明人達の歴史や文化、崩壊以前の世界に伝潘していた技術等、それらは様々な分野、多岐の方面へと渡っていた。
その逆、統一性等は一切見られず、一つ一つの情報はひどく断片的なもので、通して見ても彼自身がこの先どうしたかったのか等、最後まで分からなかった。
唯一判明したのは回収業者の熊とつるんで収集していたエロ画像フォルダから、彼の性癖が金髪の巨乳好きだという事が分かったくらいだ。
「…はぁ」
深い溜め息を吐く。
こうして幾多のメモリーと取っ組み合ってみせても、彼を掴む事は出来無かった。
この部屋全体に広がる深い記憶の海から、腕が引き揚げられたものは唯一つ。
一見、好き勝手をやっている様に見えた彼も、悩みながら生きてそして死んでいったという事実だけだった。
身に付けていた漆黒のマフラーから、微かに彼の残り香が漂う。
時間が経つにつれていずれ消えてしまうのであろうソレが、彼女の心を冷たく締め付けた。


………

マーケットから少し離れた場所で一人の請負人と、少女とが向かい合っている。
「ハッ…依頼と呼びつけられて来てみりゃあ、何だい?首攫いの所のスケじゃないか」
腕の目の前に立っているのは、殺しを専門稼業としている請負人、ワンホイール。
回収業者の熊のツテの更にそのツテを伝って、腕は書面を送り付け此処まで来て貰ったのだ。
「人生において、貴方と顔を突き合わせる回数を出来るだけ減らしたかったのだけれど…」
「アタシもだ。依頼主がお前様と知ってりゃあ断ってたさ…しかし、大量の〝殺し〟だと聞いたんだが相手は一体何モンだい?」
互いに皮肉の効いたやりとりを交わし合った後で、ワンホイールは話の全容を引き擦り出そうと、腕に問いを投げ掛ける。
その口調から彼女はこれから始まるであろう、大いなる戦いに喜々としている様だった。
「ああ、そうね。先ずは架空の依頼で貴方を呼びつけた事を謝っておくわ。ごめんなさい」
「…は?」
腕の口から発せられた返答は、彼女の期待を大きく裏切るものだった。
そんなワンホイールの事を置き去りにしたまま、彼女は畳み掛ける様に話を続ける。
「貴方って、殺しを専門稼業としているのでしょう?なら、今日は自分を殺してみる…と言うのはどうかしら?」
「…お嬢。お前、随分とこのアタシをナメてやしないかい?」
重ねて煽られたワンホイールは血管を浮き上がらせ、大剣を力強く握り締める。
義手がギチギチと軋む。その音から、彼女の怒りの度合いが伝わって来る。
「…した」
思いつめていたモノが零れる様に、腕から漏れる声。
「…ああ?何だって?良く聞こえないね、もっとハッキリ喋…」
「貴方が、あいつを殺した…ッ!」
様々な想いが降り積もり、決壊を起こした感情が彼女の声を張り上げる。
普段、自身の気持ちをそう露わにしない筈の腕が、声だけで突き殺すかの様にワンホイールへと言葉を向ける。
「…ッ!」
「あいつを、山猫を殺れるのは、貴方ぐらいよ…!」
彼女が纏っている常に冷静であろうとする一枚の皮膜。
それが、今の腕からはまるで感じられない。
「そういう事かい…来な。相手してやろうじゃないかッ!」
ワンホイールは何かを察して、先程の怒りの感情をつまらないものとして鎮めた。
それとはまた別の感情が、彼女を目の前の女との戦いへと駆り立てる。
腕の精神力に応じて収束した物質が、次々と戦う為の手段へと変換されていく。
彼女の能力によって生成された巨大な貫手が瓦礫の海を割って、その姿を現す。
そして、それは標的であるワンホイールを目指して真っ直ぐに伸びて行った。
「こういうモノを振り回していりゃあ、相手が小便チビり垂らして戦意喪失するとでも思っているのかい…お嬢様がよッ!」
彼女の貫手を目の当たりにしたワンホイールは臆す所か、立ち向かって来た。
「嘘…?」
仕様書に記載された生体兵器としての能力を考慮し、単純な数値だけで物事を考えるのであれば、腕には圧倒的な優位がある。
しかし、肝心の貫手はワンホイールに当たる所か掠りもしない。
戦い慣れている。命に触り慣れている彼女からしたら、冷静さを欠いた相手から繰り出される攻撃を捌くのは造作も無い事だった。
最短距離で自身へと向けられる殺意の塊である貫手を斬り飛ばしながら、ワンホイールが腕を目指して真正面から突っ込んで来る。
「…ッ!」
次第に縮まっていく二人の距離。
腕に残された時間は少ない。
此処が貫手を新たに生成してワンホイールへと繰り出せる、最後の機会―
(早く…能力を使わないと…でないと―でも…)
そして自身の間合いへと入り込むワンホイール。しかし、腕は躊躇ったままだ。
「悪ィな、お嬢!こいつで詰みだッ!」
腕の視界に押し付けられたのは振り下ろされる大剣では無かった。
「ぅあッ…!」
義手では無く、素手。彼女の生身である左手が腕の胸倉を掴んでいた。
「随分と、迷いがあったじゃないか」
「……」
締め上げてみせると、其処には彼女らしくない表情があった。
何時も一つに絞り込み、選んで来た腕が様々な感情が入り混じった顔をしていた。
「お前様の中にはアタシが首攫いを殺したって事にしたい自分と、それを否定している自分も居たんだろう?」
戦いの中で、戦いを通じて彼女の心中を捉えたワンホイールが言葉を掛ける。
「…だって!私が、死んだアイツにしてやれる事が…何も、何も無かった…!」
「ふざけるんじゃないよッ!事実を認めたくないのも分かるが、アタシの所為にしたくなるのも分かるが、お前の気持ちも分かるが、ふざけるんじゃないよッ!!」
「うっ…」
「アタシ達のやっている事、請負人ってのはそういう仕事だ!何時、誰にやり返されても文句なんか言えやしない。ブッ殺されちまうんだからなッ!それは、近くで奴を眺めていたお前にも良く分かってんだろッ!」
そう言い放って彼女は腕を放り捨てる。
ワンホイールの放つ感情と経験を乗せた言葉が、非情な現実を浮き彫りにし叩きつけた。
忌々しいくらいに良く晴れた空の下で、腕はまた、泣いた―

………

「…ガキの御守はアタシの仕事じゃない。首攫いを殺った奴が分かったら、今度は本当の依頼を出しな。そん時は、アタシが殺してやる」
そう言って、ワンホイールは腕の前から立ち去っていった。
私はまた、こうして山猫の部屋に戻って来ていた。これからどうすれば良いのだろう。
部屋に散乱した固形食料の包装が、大分山猫に寄りかかっていた生活を送っていたのだという事実を知らせる。
以前に一度だけ、彼に自分が今後どう生きたら良いのか聞いた事があった。
山猫と知り合って丁度一年経ったくらいの時だ。
あの時の私は、実際に手を動かしている彼の下で仕事を覚えて、請負人としてやっていこうと考えたのだ。
しかし、その時の彼の反応はこうだ。
「腕、俺を追っても先は無いぜ。自分の生き方は自分で選んで自分で決めろ。お前はお前の生きたいように、行けよ」
その言葉を私に向けた時の彼は、これまで請負人として自分が歩いてきた道を追わせたくはない様だった。
もっとまともな、別の生き方があるだろうと私を突き放してくれた。
ただ、あの時はそう言われてしまったので大人しく引き下がったが、正直な気持ちを打ち明けるのなら、私は憧れていた。
請負人という、変化の連続に適応していかなければ、とても務まらない仕事に何時も立ち向かっていく彼に憧れていたのだ。
突然、こういう事になってしまって、改めて自分の生き方を自分で選ぶとしたら…
私にも、ずっとこのままの自分で良いワケが無いという自覚は確かにあった。
しかし、踏み切る覚悟も無ければ、彼に寄りかかれていたからその必要も無かった…
そんな自分にとって、これは良い転機なのかもしれない。
心がもう少し落ち着いたら、回収業者の熊に相談してみよう。
自身の身の丈に合った、簡単な依頼をこじんまりと請ける所から始めてみるのも悪くないのかもしれない。
そうする事で、彼が死んだ理由や見ていた世界がどんな物だったのか、此処に残されたメモリーをなぞり続けるよりかは見えて来るのかもしれない。
腕がそう思った矢先に、突如ドアの開く音がした。
その音に引っ張られて振り向くと、良く見慣れた一人の男が突っ立っている。
「よお腕、戻ったぜー…って、俺の部屋で何やってくれてるのお前?」
彼が、何時もの調子で腕の目の前に現れた。
「え…?」
「…ん、どうしたよ?」
「…はああああーッ!?」
腕が、心の底から喜びと驚愕が混ざり合わさった大声を上げた。
「おい、ちょっと待て。何だよその反応。遂にお前の中で俺は生きてる事すら許されない存在に成り下がっちまったのか?ひでえ奴だとは思っていたが…ひでえな」
「てっきり、貴方が死んだのかと思っていたのよ…本物よねッ!?ねえ、本物の山猫よねッ!?」
無事に戻って来た事を確かめる様に、腕は近寄って山猫の事をバシバシと何度も叩いた。
「あたっ、いてっ、いてえ…痛ェよッ!まあ、一応…本物って事になるのかね?」
「良かった…本当に、良かった」
「取り合えずよ…腹減ってんだ。メシにしようぜ」
「…ええと、えっと、こういう時って私は何か作った方が良いのかしら?」
「いや、俺が作るわ。良い子だから座っててくれ」
「…でも、ずっと買出しに行ってなかったから碌な物が無いわよ?」
「そりゃあ、腕の見せ所だな」
何時も通りの軽口を叩きながら、俺は腕を捲った。
おそらく、アイツと関わるのはこれが最後になるのだろう。
以前、腕にどんな別れ方が良いのか聞いた事があった。
彼女の答えはこうだ。
劇的な幕切れよりも、日常の中で溶けて消えて行く様なさよならが言いたい、と。
残念ながら、その期待には応えられそうにない―

………

「…美味しい」
「剥くだけでそのまま食える固形食糧と、温めれば食える即席モノばっかり食った後なら何でも美味いだろうよ」
「…うん」
「少しは惚れ直したか?」
「どうして惚れてる前提なのかしら?」
何だかんだと言いつつも、腕は何時も夢中で食べる。
そんな彼女に彼も料理の作り甲斐があった。
しかし、それもこれで見納めになるのだと思うと少し寂しい気持ちもしたのだが、彼は話を切り出す事にした。
「なあ、腕―」
「何かしら?今日は機嫌が良いから何処に拘ったとかそういう話も聞いてあげるわよ?」
「ははっ、確かにそれもいいが…そういうんじゃないんだ」
「……」
これまでに聞いた事の無かった彼の声色に腕は戸惑う。
「これ、食い終わったらさ…俺達、此処で別れようと思うんだ」
「え……?」
先程までフォークを小気味良く動かしていた腕の右手がぴたりと、止まる。
「ありがとな。お前には何度も助けられた。長い間、相棒として良くやってくれたよ。出て行くのは俺だ。此処は好きに使ってくれて良い」
「嘘…待って、嫌よ。何を言ってるのよ?そんなの、急過ぎるわ…」
「いや、少しばかり長い話になるんだけどな…」
そう言って彼は、机の上にあの、黒塗りの長剣を置いた。
彼の代名詞と言っても良い、大概のモノに対して始末をつけていた凶悪な出土品。
ソレが見るも無残な形となっていた。
本体の所々には亀裂が走り、もう正常に動作しないのだという事が容易に想像出来る。
そして、彼は自身の精神世界の中で起きたあの出来事を、包み隠さず腕に話した。
黒塗りの長剣は崩壊後の世界に英雄を生み出す為に作られたシステムだったという事。
自分の本当の通り名は請負人、山猫では無く、それを殺した男、首攫いだったという事。
長剣は自分を新世界の英雄に仕立て上げようとしたが、その話を蹴り飛ばして何とか此処まで戻って来たという事。
あの後、彼の精神を完全に乗っ取ろうとしたシステムを破壊する為に、彼は戦闘記録に残されていない手法をその場で編み出しては、何度も叩き付けた。
何度も、何度も彼等の予測を飛び越えて、裏切り尽くしたのだ。
古代文明人達の持つ理想像、連中が事前に組んでいた計算式では、彼の様な人間の強固な精神を押さえ付ける事は最後まで出来なかった。
組み伏せる所か、跳ね除けられてしまったという事実を、長剣のこの有様が物語っている。
腕はそれを聞いて驚きはしたが、疑う事はせずに彼が話す様にそのまま受け入れた。
「言ってしまえば俺は、自分が主人公じゃないと気付かされる物語の主人公だったんだよ」
「……」
「今話したように、俺が今まで自分で選んで来た事は、長剣のシステムに選ばされてやっていた事なのかもしれないんだ…だから、お前をあの時ああして救い出したのも、長剣の意思だったのかもしれねえ」
言葉を失っている腕に向けて、彼は続ける。
「長剣がこうしてブッ壊れちまった今、俺の人格も今後どうなるのかは分からねえ。だからさ、良い潮時なんだよ。俺がこのバランスを保てている内に離れるのがな」
「…ふざけないでッ!」
降り積もった苛立ちが限界を超え腕に手を出させる。気が付くと彼を引っぱたいていた。
「私が今生きてるのは長剣の意思なんかじゃないわ。あの時、自分が前に進む為に能力を使ったのは私よ。私が自分で選んで決めた事よ!」
「……」
「自分が自分で無くなるですって?お笑いだわ。今、こうやっている貴方が私が今まで見て来た中で、一番らしくないわよ…私が良く知る貴方はね、身軽で飄々としているのだけれど、芯の部分ではタフで、掴み所が無い上に、それでいて抜け目が無くて、時折、ひどく狡猾なんだけど、でもそれもまた魅力的で…」
腕の彼を綴る言葉は続いた。
それは、彼の残したメモリーを眺めている時よりも余程、彼の輪郭を捉えていた。
彼女は傍でずっと見ていたのだ。
自分に出来ない事をそつなくこなす彼に、腕は憧れ、また、愛していた。
「腕…」
「私は、貴方の首攫いという一面も知っているわ。貴方が貴方で無くなるって言うのなら、その度に私が引っぱたいて思い出させるわよッ!」

………

世界の崩壊によって散らばった砕片が各所に降り積もり、自分達の身の丈を遥かに超える山々が聳え立っている。
今を生きている多くの人間達にとっては、生まれた頃から良く見慣れた景色だ。
これからも顔を突き合わせ続ける様な一生の付き合いになるのだろう。
時折、瓦礫の隙間を縫って出土する古代文明人達が遺した文献。
それに挿し込まれた崩壊以前の世界の景色を写したものには、美しいと評された文章が添えられていたが、俺にはあまり分からない。
あれだけ世界の再生を渇望した古代文明人達を俺達が生きているこの世界に連れて来たら、彼等は此処を最低だと言って笑うのだろうか?
あの一件以来、世界の再生の依頼を蹴ってから、俺はそんな事を考えるようになった。
この前、マーケットである露店を出している面白い奴が居た。
その男はこれまでに出会った、生き物、風景、人間、この世界に在る物を分け隔てる事無く、全てを引っ括めて写真に収めて売っていた。
興味本位で話をしてみると、そいつはこう言った。
「僕ら人間を含めて、崩壊後の劇的な環境の変化に適応し、生き残った者達の姿や性質、そして彼等の持っている信念は皆、尖っている。僕は彼らのそういう部分を好きで、愛しているのかもしれない」と。
そう言い切った後で、彼は周りの連中から全く物好きな野郎だなと笑われていたが、俺は同意する様にそいつが売りに出していた写真を一枚買った―
「なあ腕、アレ…見えるか?」
「ええ、良い眺めね―」

遠くで、瓦礫の海を泳ぐ数匹の生物達に追い回されている数人の男達の姿が見える。
「わーっ」だとか「ぎゃーっ」といった類の古典的な悲鳴を喚き散らしながら、必死に走っている。
「ありゃあ、あのままだと助からねえなァ―」
「…となると、仕事ね」
「ああ、バッチリ決めて晩飯は豪勢にいこうぜ。おかずが一品って生活はちょっと寂しいなァ…と思っていたのさ」
「一体誰に向かって強がってるのよ、ここ数日、主食すら無かったでしょう?」
「…ほんじゃ、俺は前から」
「私は何時も通り、後ろから行くわ」
互いに確認し合うのと同時に彼が得物を取り出して走った。
腕もポジションを取りながら、能力の使用に神経を集中させる。
逃げ回る男達と追いかける生物達の距離が次第に縮まっていく。
そして、それらは遂に男達に向かって飛び掛かって行った。
「うあああーッ!もう駄目だーッ!」
その瞬間。彼女の貫手が貫き、彼の長剣が斬り離した。
なる様にして肉片として飛び散っていく生物達。
「あ、あわわわ…」
「へへ、こいつらはしつこくってねェ…これからもう一波来るぜ?」
彼等は冷や汗を垂らし、寄り添って震えながら目の前に現れた男に声を掛ける。
「アッ、アンタは…一体?」 
「下層の請負人さ。猫の手を、借りねえか―?」


GROUND ZERO END
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