4 / 10
Case:3 従者エリザベス
しおりを挟む
早朝。日は未だ昇り切っておらず、昏黒の森一帯には薄い霧が広がっていた。
辺りはしんと静まり返っており、肌を通り抜ける風は冷ややかで心地良い。
生い茂った針葉樹の枝葉の隙間からは青みがかった薄明の空が覗く。
その下で準備に勤しむ一人の男とその従者の姿があった。
ジャックが屍術師として青毛の馬、バロンの首筋の部分を丁寧に撫でて愛でる。
すると、全身を覆っている黒い獣毛の下に刻まれた術式は、魔力を帯びて赤い輝きを放った。
屍術を用いて蘇った生命はその状態を維持する為に、こうして術者の手によって定期的に魔力の供給を行わなければならない。
「街に辿り着いたら彼女に林檎を買って貰うと良い」
施術を済ませたジャックがバロンを軽く叩いた後、入れ替わる様に入ったエリザベスが手慣れた手つきで素早く馬具を取り付けていく。
「いつも通り、夕方までには、戻るようにする」
一通りの準備を終えたエリザベスは、ジャックにそう告げてバロンに騎乗した。
「任せる。ラクシュニアへの越境以来、遠出はしていないので馬車は例の場所に隠してある」
エリザベスは月に何度かこうしてバロンと共に街に出る。
二人と一頭が生活を営む中で、日々消耗していく食糧品や生活用品の補充の為だ。
「エリザベス、発つ前に一つ頼まれてはくれないだろうか?」
そう言ってジャックが彼女に二枚のメモを手渡す。
受け取ったそれを広げてみると、紙上には良く見慣れた鮮やかな墨跡が残されていた。
内容を確認した所で、彼女の中に思い浮かんだのは一つの疑問。別にこの様に屍術の研究に必要な材料や資料の購入を頼まれる事自体は珍しい事ではない。
しかし、この分野の書物は前に一度頼まれて街で購入した憶えがあった。
「…ジャック、この系統の本は、以前にも」
「エリザベス、だからこそだ。たった一冊の本を読み上げたというだけで、自身の思考を傾けたくは無いからな」
「分かった」
長考する事無く咄嗟に返答が戻って来る所から、彼が普段から大事にしている心持ちである事が彼女にも理解出来た。ジャックの多角的な視点を欲する姿勢に納得した所で、エリザベスは彼から手渡されたもう片方のメモを開いた。
それはジャック曰く、研究の合間に気分転換にとやった走り書きで、彼の考案した向こう一週間の献立表であった。
肝心の内容だが、エリザベスが想像した通りの、おぞましい内容であった事は言うまでもない。
メニューの大部分が魚介類を用いた料理で埋め尽くされており、ほんの申し訳程度に、さも免罪符かの様に野菜料理が点々と添えられていた。
また、獣肉を扱った料理に関しては、気持ちの良いくらいに潔く切り捨てられており、一品も明記されていなかった。
「どうかな?少しばかり私の好みで固めてしまったような気もするので、君の好きな魚料理を何点か加えても構わないのだが…」
彼の従者として書物の件は確かに承ったが、彼の従者だからこそ、この人が摂取すべき栄養バランスを逸脱したメニューを与える訳にはいかない。
ジャックの健康面を配慮し、今後も滞りなく屍術の研究を続けられるようにと、彼女は主人に向けて正直な気持ちを簡潔に述べる事にした。
「却下、する―」
………
「研究意欲の向上をもたらす悪くないメニューだと思ったのだがな…」
そう落胆しながら書斎のドアを閉めると、黒檀の机の上に山積みになっている研究資料が真っ先に目に留まった。
それは従者エリザベスに関する記録を彼なりに纏めたもので、昨晩改めて読み返していた資料が何枚かそのままになっていた。
ジャックは椅子に腰掛けると、それらをひと纏めにして脇に退けて一枚の白紙を取り出す。
先程の書物のやり取り、主人の言葉を鵜呑みにするだけではなく、彼女からの提案があった。
エリザベスに与えられた役割は確かに私の従者ではあるが、彼女は私の言葉に従うだけの操り人形ではない。
まだ表情や言葉選びに大きな変化は見られないが、彼女の意思は確かに育まれている。
これは彼女が生前の状態へと向かっている傾向と見て良いだろう。
鴉の羽根に手を加えて作られた筆に沈む様な黒を滴らせ、気の向くままに走らせていくと日録が綴られていった。
エリザベスの完全なる蘇生を果たすまでは、私の屍術の研究に終わりは無い。
最後にそう書き記して、一文を締め括ろうとしたその時―
下の階から扉を何度も強く叩く音が聞こえてきた。
邪魔というものは、最高のタイミングを狙い澄ましてやって来るものである。
ジャックは自身が定めた区切りや、境界を侵される事を最も嫌う。しかし、エリザベスが街に出てしまっている今、来客への対応は自分がしなくてはならなかった。
極めて不本意ではあるのだが、彼は羽筆を一度台座に挿して書斎から出ると、一階の出入り口へと向かった。
「こんな朝早くから何用か?」
ジャックは不機嫌そうに扉越しの相手に話し掛けるのだが、返答は無い。
彼にとってはその方が都合が良いので、碌に待つこともせず書斎へと引き返そうとしたのだが、背後から上がった声に呼び止められた。
「…我ハ、屍術師ヴァレオンノ、使イ」
数拍の間を空けて返って来たのは、生気の感じられぬ男の声。
振り返ってドアの近くに寄ると、立ち上って来るのは強烈な死臭。
その事から扉の向こうに立つ相手は、屍術によって使役されている死体だという事が分かる。
扉一枚の隔たりがあるにも拘らず、容易く看破出来る施術にジャックは思わず舌を打った。
「ヴァレオンという屍術師の事など私は存じないが、この様な安い死体を使いに寄越すのか?」
「屍術師ジャック、一方的ナ関係デハアルガ、我ガ主ハ貴方ノ事ヲ良ク存ジテイマス」
「ほう、興味の無い相手に好かれるというのは気持ちの良い事では無いな。一体何が目的か?」
「貴方ガ、従者エリザベスニ施シタ、循環型術式(サーキュレーション・プロシージャ)ノ秘法」
どこから嗅ぎ付けて来たのかは知り得ないが、ジャックは一度深い溜息を吐いた。
「帰ってヴァレオンとやらに伝えるがいい。貴様に屍術師としての誇りが一片でも残されているのなら、術式は自身の力で解いてみせろとな」
「帰ッテ伝エル迄モ無イ。先程カラ我ガ主ニハ貴方ノ言葉ハ一語一句間違ウ事無ク届イテイル」
「…そうか。ならばもっと屍術師としての流儀を聞かせてやりたい所だが、君の主は何と?」
「出題者カラ強引ニ答案ヲ奪イ取ル事モ、自身ノ力ニ依ル解答デハ無イカト―」
ヴァレオンの使いがそう告げた後、金属の軋む音が何度か繰り返されたかと思うと、ジャックの目の前で、出入り口の扉が力任せに引き剥がされた。
放り棄てられたそれが地面に勢い良く叩きつけられて大きな音を返す。
それを皮切りにして、ヴァレオンの使役するアンデッドが建物の内部へと侵入し、ジャックへと迫っていく。
「屍術師同士、互イノ弱点ハ良ク理解シテイル…」
「成程。エリザベスがこの私の傍から離れる機会を伺っていたという事か…」
彼女が不在である今、自身の力だけでこの状況を切り抜けなければならない。
ジャックがどこかに付け入る隙は無いかと、目を凝らしてヴァレオンのアンデッドを観察する。
成程。確かに術者の身の丈に合った状態の悪い、安い死体を使っている。
齢は推察するに四十代。大きな外傷は無い為、死体のランクとしては不足に分類される程では無いが、手入れを怠っている。
適切な処理が施されていない為に、肉体への腐食が進んでしまっており、美品とは言い難い。
恐らく、このアンデッドは術者の目的を果たす為に、最低限動作すれば構わないという考えのもとで生かされており、役目が済めば破棄されてしまう程度のものなのだろう。
その挙動から察するに、死人の魂を束縛し、術者の思うままに使役するという低俗な屍術。
真の魂が宿らぬこの施術は、身体に刻まれた術式を少しでも欠損させるだけで動きは止まる。
「デハ、定石通リニ屍術師自身ヲ叩カセテ貰オウ、ト我ガ主ガ言ッテイル」
「定石通りか…しかしヴァレオン、私を貴様と同じレベルの屍術師と思って貰っては困るな」
ジャックがそう言い切ると共に懐から素早く回転式拳銃を取り出して、銃口を標的へと向けて発砲した…その筈なのだが、ジャックの撃った銃弾はヴァレオンの使役するアンデッドに命中するどころか、見当違いの方向へと突き抜けて窓硝子を粉々に砕いた。
「……」
「……」
先程まで張り詰めていた空気とはまた別の、どこか気まずさを帯びた沈黙が数秒間続いた。
「勘違いをしてくれるな。今のは威嚇射撃だ。決して術式を狙った訳ではない。これ以上私に近付けばそこに散らばった硝子の破片の様になる。私はあくまでその事を警告したまで」
「我ガ主ハ言ッテイル。講釈ヲ垂レル前ニ自身ノ射撃ノ腕ヲ磨クベキダト」
その声は目の前の相手から発せられたものでは無く、建物の外から聞こえてきた。
そう、この場に遣わされたアンデッドは一体ではなかった。それらは予め、この住居を取り囲む様に配備されていたのだ。
三、四、五、六…ヴァレオンの使役するアンデッド達が次々と建物の中へと入り込んで来る。
ジャックのやる屍術を一点物の芸術品に喩えるのなら、ヴァレオンの屍術はそれとは対極の位置に座す、物量に特化したものであった。
………
その日の夕刻。街で買い込んだ品々を背に積み上げたバロンを連れて、エリザベスが自宅へと戻って来ると、彼女は幾つかの異変に気付いた。
建物の所々に乱雑に刻み付けられた傷跡は遠目から見ても分かる程のものだ。
また、普段は固く閉ざされている筈の玄関の扉が力任せに引き千切られて、無造作に放り棄てられている。
それらの損傷から察するに、平時であれば生活を営むこの場所が、数時間前まで非日常に曝されていた事が分かる。
エリザベスが警戒しながら住居の中へと足を踏み入れると、床には無数の硝子片が散らばっており、少し離れた場所にはジャックの銃が転がっていた。
回転式拳銃の装弾数は計六発。手に取ってシリンダーを開くと、一発だけ発砲したようだ。
いつも通り銃弾は標的には当たらず、窓硝子が犠牲になった事が瞬時に理解出来る。
早足で二階の書斎と地下の研究室を当たったが、ジャックの姿はどこにも見当たらない。
書斎の机の上に書きかけの日録が残されていた事から、突然拉致されたと考えるのが自然か。
再び屋外に出て辺りを見回していると、バロンの嘶く声が耳に入ってきた。
憤り、興奮しているのか、彼は蹄で何度も地面を蹴り続けている。
エリザベスは彼をどうにか慰めようと試みるのだが、バロンの主人に馳せる想いは鎮まる所か増していくばかりだ。
「…私だって、悲しい」
彼女も近しい気持ちを抱いているからこそ、そう簡単に収まりをつける事の出来ない彼の気持ちが良く分かってしまう。
エリザベスもバロンもジャックが繋げた生命だ。彼に仕える者として、連れ出されてしまった主人を捜し出さなくてはならない。しかし、どうやって見当をつければ良いのだろう。
考えを巡らせていると、バロンがゆっくりと近付いて、彼女の背を鼻で軽く小突いた。
「バロン…?」
振り向くと彼が首を上下に動かして合図の様なものを送っている。
「…何かを、教えようと、している?」
目線を落とすと、微量ではあるがジャックの魔力が、まるで道標の様に点々と残留していた。
彼の魔力はバロンにとっての生命線。当然、その存在には敏感になっており、故に感知する事が出来た手掛かりと言えよう。
彼は主人の不在を嘆き、我武者羅に憤っていた訳ではない。先程からエリザベスにこの事を教えようとしていたのだ。
この形跡を辿っていけばバロンの生命を維持しながらも、ジャックが連れ去られた場所へと辿り着く事が出来る。
とすれば、志を同じくする者と共に、彼女の取るべき行動はただ一つ―
「バロン、御願い」
主人を想うエリザベスの意志を汲み、青毛の馬バロンはジャックの残り香を追って駆け出した。
………
「屍術師ジャック。そろそろ循環型術式の秘法について喋る気になったのではないかね?」
目の前には無数の人骨を組み上げて作られた玉座と、それに掛けて十数体ものアンデッドを従えている屍術師の姿があった。
頭髪は既に抜け落ち、肌の至る所には深々と皺が刻まれた高齢の男。
しかし、白眉の下に隠された目付きは鋭く、獲物に狙いを定める様にぎらついている。
この男こそ、ジャックに使いを寄越した屍術師のヴァレオンである。
「私も手荒な真似は好まない。事は出来るだけ穏便に済ませたいのだが?」
「対等な条件下で私と言葉を交わす事が出来ないと知っているからこそ、この仕打ちか」
ヴァレオンの口から出た言葉と、彼が実際に為している事は極めて真逆のものであった。
事実ジャックの手足は縛られてしまっており、彼の自由は決して許されていない。
そして彼の使役するアンデッドは、いつでもジャックに襲いかかれる態勢を取っている。
互いに対等な立場で言葉を交わし、穏便に事を済ませようとする者のやる事ではない。
「君は聡明な男と聞き知っている。この状況下で下手を打てば、どうなるか明白だろう?」
「…こうなってしまっては致し方あるまい」
ジャックはヴァレオンに向けて、エリザベスに施した循環型術式について包み隠す事無く、打ち明ける事にした。
その講釈は屍術の基本形を一から説明する所から始まった。
ジャック自身を含めて、多くの屍術師が用いているオーソドックスな方法を簡単に説明すると次の通りである。
屍術とは死人が生前の頃に密接な繋がりを持っていた物質を媒介とし、そこに死者の魂を下ろして、術者の魔力でその二つを繋ぎ留めるという術である。
手早く頭数を揃える為に、細かい処理を省略してはいるものの、ヴァレオンの屍術でさえこの原理原則を遵守している。
しかし、現時点において屍術は永遠の命を約束する術ではなく、時間の経過や肉体の稼働率によって、体内の魔力は次第に消耗されていくものである。
その為に、術者から魔力の供給が絶たれてしまえば、繋ぎ留められていた魂は肉体から剥離し、元の死人の状態へと帰してしまうのだ。
「私がエリザベスに施した循環型術式はそれらの問題を解消する画期的なものだ」
玉座に掛けてこちらを見下ろしているヴァレオンを下から睨め付けながら、ジャックは続ける。
「始めに術者の魔力を必要とする点と、稼働率によって消耗する部分に変わりは無いが、魔力が術式を巡る中で増幅していき、時間の経過と共に一定の値まで上昇する様になっている」
ジャックは最後に、まだ問題は山積みで試験的な段階での運用だが、それらが解消されれば最終的には屍術師を必要としない、完全な蘇生が実現された事になると付け加えた。
「…それで?」
ヴァレオンは問う。長々と続いたジャックの講義は、彼が最も欲する肝心の部分が抜け落ちているものであったからだ。
「些か不勉強な君に向けて、屍術の基礎から循環型術式のコンセプトについて洗いざらい喋ったつもりなのだが…私の説明に何か落ち度でもあったかね?」
「ふざけているのかッ!?誰が貴様が話して気持ち良くなる所だけを延々と話せと言ったッ!?大体、そんな事は貴様と貴様の従者の事を一方的に調べ尽くした上で知り尽くしているッ!!私が聞いているのは…それを実現する為の具体的な方法だッ!!」
逆上したヴァレオンは考えるよりも先に昂った感情でアンデッドを使役し、ジャックの顔面に鋭い一撃を見舞った。
しかし、ジャックが痛みに屈する事は無かった。彼は身体をよろめかせながらも、ヴァレオンに向けて一人の屍術として言葉を突き付ける。
「…私に同じ言葉を二度も言わせてくれるな。使者を介して確かに伝えた筈だ。貴様も屍術師なら術式は自身の力で解いてみせろとな」
術式を施したエリザベスの身体に何が起きているのか、懇切丁寧に説明してやった。
自分が何がしたいのかが分かれば、その為にどうすれば良いかと思考を巡らす事こそが、魔術師の真骨頂では無いのか、と。
「…私からも一つ良いかね?何故、貴様の様な男が循環型術式の秘法を欲する?」
「循環型術式は私自身の肉体に施すのだ。この私が、永遠に生き延びる為にな…!」
「成程。貴様は屍術師の風上にもおけぬ、悪戯に齢を重ねていくだけの萎びた下衆という訳か」
「何とでも言うが良い。貴様が私の屍術に屈したという事実は揺るぎないものなのだからな」
「果たして、そうかな―?」
ジャックがそう言い放つのと同時に、ヴァレオンの玉座を構築している二本の骨が音を立てて粉々に砕け散った。
「何ッ…!?」
「ふむ、アンデッドの死体から抜き取って作った骨の玉座を指揮系統に使っている、か―」
戸惑うヴァレオンを差し置いて、ジャックが彼の屍術の仕組みを冷静に分析する。
「貴様、一目見ただけで私の屍術を…」
「一目見ただけで容易く看破される様な安い屍術をこの私の前で広げてくれるな」
砕け散った骨の数は、門番に配備されていたアンデッドの数と丁度重なる。
それは、従者エリザベスが屍馬のバロンと共に、この屋敷に現れた事を意味していた。
「ヴァレオン、循環型術式の秘法を賭けて、貴様との遊戯に乗ってやる。どちらが屍術師として優れているのか、その目に焼き付けるがいい―」
………
エリザベスは二体の門番を始末した後、バロンにここで待っているようにと伝えてから、単身でヴァレオンの屋敷へと乗り込んでいった。
彼女が意趣返しの様に入口の扉をこじ開けると、屋敷内に立ち込めていた死臭が漂ってきた。
空のエントランスホール。視線を上げて辺りを見回すのだが、誰の姿も捉える事が出来ない。
実に屍術師の住処らしく、この屋敷から生きた人間の気配というものがまるで感じ取れない。
それ故に臆する事無く奥へ、奥へと歩を進めていく彼女の靴音だけが、やたらと冷たく響く。
手掛かりを持たないエリザベスは、虱潰しに部屋を一つずつ当たっていこうと考えていた。
そして、階段を数段ほど登り終え、踊場に出たその時であった―
上階から飛び降りて襲いかかって来る者をエリザベスの視覚が捉える。ヴァレオンの使役するアンデッドである。
落下しながら繰り出される攻撃を寸前で躱した後、彼女は一度距離を取って態勢を立て直した。
アンデッドはなりふり構わず、彼女との距離を詰めて攻撃を繰り返すのだが、単調な動きでは彼女を仕留める所か不用意に伸ばした手足に手痛い反撃を貰ってしまう。
「グボァッ…!?」
確かな意思を持って行動する者と、指揮者の命令を受けてから動く者の力の差である。
ヴァレオンの屍術、彼が使役するアンデッド達は術者の手と足、目や耳といった身体機能の延長でしかない。それに対してエリザベスは自ら考え、最適な行動を瞬時に選択し、目の前に広がる困難を切り抜ける事が出来る。
屋敷の奥部から、次々と湧き出る無数のアンデッドの術式を、彼女は自らの手刀を用いて次々と破断していく。
「ごめんなさい。こんなやり方しか、出来なくて―」
生者の様に…いや、生者以上の立ち回りをこなして、エリザベスはヴァレオンのアンデッド達を完全に圧倒した。
術者の私欲によって悪用されていた死体と、囚われていた魂の繋がりを絶ち、十数体以上のアンデッドを元の状態へと還した所で、彼女の行く手を一際大きな扉が塞いだ。
ここに辿り着くまでの警備の手厚さから考えて、この先にヴァレオンが居ると見て良いだろう。
エリザベスが力を籠める。これは先程の戦闘からやっている事で、彼女の掌と足底には体内を循環する魔力を放出する為の術式が刻まれている。
魔力を迸らせて、威力が増幅された鋭い蹴りを目の前の頑強な扉へと放つと、それは大きな轟音を響かせながら突き破られていった。
「ほう、待ってい…」
エリザベスはヴァレオンの言葉を一切汲み取る事無く、広間に駆け込むのと同時にジャックの回転式拳銃を取り出し、すかさず引金を引いて三発の弾丸を発砲した。
彼女の狙いは正確で、銃弾は真っ直ぐにヴァレオンを目指していったのだが、彼の傍に立つアンデッド達が射線上に立ち塞がって防壁となり、それを阻んだ。
「速いな。各所に配備していたアンデッドを軒並み始末した事も頷ける…しかし、最後に勝つのは貴様の様な若造ではなく、この私だ」
彼がそう言って指し示した先には、昏睡状態のまま首元に刃物を突きつけられているジャックの姿があった。
「もう少し頭の良い男だと思っていたのだがな。私が欲するものを寄越さず、要らぬ事ばかり抜かすのでこうして眠って貰ったという訳だ」
「ジャック…」
これでは流石の彼女も迂闊に手を出す事が出来ない。
彼は自身のアンデッドとエリザベスが、真正面から戦っては勝ち目が無い事を理解していた。
ジャックの身柄を押さえ、生け捕りにしていたのは彼女を無力化する為だ。
「彼が素直に循環型術式の秘法を明かす事は無いと踏んでいた。エリザベス、私の本来の目的は君なのだよ」
そう、術者であるジャックが口を割らないのであれば、完成品であるエリザベスという器を叩き割って、その中身を引き摺り出せば良い。
「従者エリザベス、取引をしようではないか。君が黙って私の召使達に引き裂かれるというのなら、主人の命は助けてやろう」
「……」
ここでヴァレオンの要求を呑む訳にはいかないが、主人の命を握られてしまっているこの状況下では、彼女にはどうする事も出来ない。
「肯定とみなそう。では、まずはその物騒な玩具を棄てて貰おう」
彼の言葉に従うしか選択肢の無いエリザベスは、仕方無く無言で回転式拳銃を放った。
屍術の練度に関しては完敗であったが、屋敷の最奥部に辿り着くまでの戦闘を通して、エリザベスの戦闘手段は完全に把握出来た。
体内の魔力を一点に集中させて放つ打撃や、蹴りの破壊力に関しては目を見張るものがあるが、ジャックの銃さえ押さえてしまえば、彼女は接近戦しかこなせない。
「これで下手な真似をやる事は出来まい」
アンデッドに拳銃を回収させ、勝利を確信したヴァレオンはジャックの傍に配置した一体だけを残して、全てのアンデッドを彼女へと差し向けた。
循環型術式の秘法を解明する為に、十数体のアンデッド達が一歩、また一歩と距離を詰める。
しかし、この絶命必至の状況下で、エリザベスは迫り来るアンデッドなどには目もくれず、主人であるジャックと同じ様にヴァレオンを鋭く睨み付けていた。
まるで標的に向けて照準を絞る様な彼女の視線に気圧され、自身が屍術師ジャックへと向けて放った言葉が脳裏を掠める。
エリザベスは、ヴァレオンが身じろぎをしたその瞬間を見逃さなかった。
自身の左の前腕骨に手を掛けると、彼女の純白のグローブには赤黒い染みが滲み出し、次第に広がり始めた。
「…ッ」
声を押し殺して痛みに堪える。表情に表れないというだけで彼女にも痛覚はある。
しかし、今はそんな些細な事で留まっていられる様な状況ではない。
自分が行動を起こさなくては、どんな手段を使ってでも彼を助け出さなくては。
そう、あの時、ジャックが自分にしてくれた様に―
「今度は、私が、ジャックの、命を…」
彼女は更に力を加えて、自身の肉を身体の中へと押し込んでゆく。
人の手によって造られた体液の通り路。命の欠片である肉を擦り潰し、新たに練り直して生まれた筋繊維。数式を孕み作用を模倣する人工神経。
人体を再現するそれらのしがらみを力任せに引き剥がして、摘出するのは血塗の骨一つ。
彼女は知っている。自身の腕や脚が複製されたものであるという事。
彼女は信頼している。屍術師ジャックの施術を。だからこそ、この様に捨身ではあるが必殺の行動に走る事が出来る。
「ジャックは、殺させない―」
エリザベスが体内を巡る魔力を右手に集中させた後、力強く握り締めた橈骨をヴァレオンの頭にめがけて投擲する。
それは目にも止まらぬ速さで空を切り、気付くと彼の目前にまで迫って来ていた。
ほんの一瞬の出来事だ。これではジャックの近くに配備したアンデッドを動かして交渉に迫る事も、自身の傍にアンデッドを引き戻す事も、どちらの対応も間に合わない。
せめてどちらか一つと混乱する彼の意識は、無惨にも突然絶たれてしまう。
エリザベスの放った一矢は彼の脳天へと到達し、彼女の橈骨は眉間へと突き刺さった。
そう、屍術師同士、互いの弱点は良く知っている。定石通りに術者自身を叩けば良い。
最期に彼の脳裏に過った言葉だ。ヴァレオンはその例に漏れない典型的な屍術師の一人でしかなかった。
………
拉致事件から丁度三日が経過した。
散々ヴァレオンを煽り逆上させた挙句、昏睡状態に陥っていたジャックの意識は一晩明けた所で回復したが、昨日までは床に伏したきりで起き上がる事はなかった。
未だ眠っていると思われる彼の身の回りの世話をしようと、エリザベスは寝室へと向かったが、主人の姿は見当たらなかった。
立て続けに拉致されたとなると流石に笑い話だが、万が一の事を考えると自然と足早になってしまう。事件が起きたあの日と同じ様に二階の書斎を当たってみるが、部屋には誰も居ない。続けて地下へと向かうと、彼は研究室で一仕事を終えた所だった。
「エリザベス、丁度良い所に来てくれた」
ジャックが指し示す方に目を向けると、作業台の上には雪の様に白く、すらりとした細い腕が一つ置かれていた。
「欠けてしまった君の左腕だ。既に術式も張り巡らせてある」
「もう、作ってくれたの…?」
「夜遅くに起き出しては少しずつ進めていた。君が万全な状態で傍に居てくれなくては、この私も不全だからな」
「ジャック…」
「何かね?」
「次はもっと、上手くやる―」
彼を助ける為とは言え、自分の為に主人の手を煩わせてしまった。
その事で気を落とし、申し訳無さそうに振舞う彼女へと向けて、彼は顔を上げるようにと温もりのある言葉を掛けた。
「気負う事は無い。君は良くやってくれている」
主人が無事に帰還し、欠けていた彼女の右腕も元の場所へと収まって、二人は日常の光景を取り戻しつつあった。
「ところでエリザベス、研究意欲の向上の為に今日のディナーのメインディッシュを確認しておきたいのだが…」
「白身魚のポワレ、バターソース添え」
硝子が割れたままの手付かずになっている窓からは、爽やかな風が吹き抜けていった。
辺りはしんと静まり返っており、肌を通り抜ける風は冷ややかで心地良い。
生い茂った針葉樹の枝葉の隙間からは青みがかった薄明の空が覗く。
その下で準備に勤しむ一人の男とその従者の姿があった。
ジャックが屍術師として青毛の馬、バロンの首筋の部分を丁寧に撫でて愛でる。
すると、全身を覆っている黒い獣毛の下に刻まれた術式は、魔力を帯びて赤い輝きを放った。
屍術を用いて蘇った生命はその状態を維持する為に、こうして術者の手によって定期的に魔力の供給を行わなければならない。
「街に辿り着いたら彼女に林檎を買って貰うと良い」
施術を済ませたジャックがバロンを軽く叩いた後、入れ替わる様に入ったエリザベスが手慣れた手つきで素早く馬具を取り付けていく。
「いつも通り、夕方までには、戻るようにする」
一通りの準備を終えたエリザベスは、ジャックにそう告げてバロンに騎乗した。
「任せる。ラクシュニアへの越境以来、遠出はしていないので馬車は例の場所に隠してある」
エリザベスは月に何度かこうしてバロンと共に街に出る。
二人と一頭が生活を営む中で、日々消耗していく食糧品や生活用品の補充の為だ。
「エリザベス、発つ前に一つ頼まれてはくれないだろうか?」
そう言ってジャックが彼女に二枚のメモを手渡す。
受け取ったそれを広げてみると、紙上には良く見慣れた鮮やかな墨跡が残されていた。
内容を確認した所で、彼女の中に思い浮かんだのは一つの疑問。別にこの様に屍術の研究に必要な材料や資料の購入を頼まれる事自体は珍しい事ではない。
しかし、この分野の書物は前に一度頼まれて街で購入した憶えがあった。
「…ジャック、この系統の本は、以前にも」
「エリザベス、だからこそだ。たった一冊の本を読み上げたというだけで、自身の思考を傾けたくは無いからな」
「分かった」
長考する事無く咄嗟に返答が戻って来る所から、彼が普段から大事にしている心持ちである事が彼女にも理解出来た。ジャックの多角的な視点を欲する姿勢に納得した所で、エリザベスは彼から手渡されたもう片方のメモを開いた。
それはジャック曰く、研究の合間に気分転換にとやった走り書きで、彼の考案した向こう一週間の献立表であった。
肝心の内容だが、エリザベスが想像した通りの、おぞましい内容であった事は言うまでもない。
メニューの大部分が魚介類を用いた料理で埋め尽くされており、ほんの申し訳程度に、さも免罪符かの様に野菜料理が点々と添えられていた。
また、獣肉を扱った料理に関しては、気持ちの良いくらいに潔く切り捨てられており、一品も明記されていなかった。
「どうかな?少しばかり私の好みで固めてしまったような気もするので、君の好きな魚料理を何点か加えても構わないのだが…」
彼の従者として書物の件は確かに承ったが、彼の従者だからこそ、この人が摂取すべき栄養バランスを逸脱したメニューを与える訳にはいかない。
ジャックの健康面を配慮し、今後も滞りなく屍術の研究を続けられるようにと、彼女は主人に向けて正直な気持ちを簡潔に述べる事にした。
「却下、する―」
………
「研究意欲の向上をもたらす悪くないメニューだと思ったのだがな…」
そう落胆しながら書斎のドアを閉めると、黒檀の机の上に山積みになっている研究資料が真っ先に目に留まった。
それは従者エリザベスに関する記録を彼なりに纏めたもので、昨晩改めて読み返していた資料が何枚かそのままになっていた。
ジャックは椅子に腰掛けると、それらをひと纏めにして脇に退けて一枚の白紙を取り出す。
先程の書物のやり取り、主人の言葉を鵜呑みにするだけではなく、彼女からの提案があった。
エリザベスに与えられた役割は確かに私の従者ではあるが、彼女は私の言葉に従うだけの操り人形ではない。
まだ表情や言葉選びに大きな変化は見られないが、彼女の意思は確かに育まれている。
これは彼女が生前の状態へと向かっている傾向と見て良いだろう。
鴉の羽根に手を加えて作られた筆に沈む様な黒を滴らせ、気の向くままに走らせていくと日録が綴られていった。
エリザベスの完全なる蘇生を果たすまでは、私の屍術の研究に終わりは無い。
最後にそう書き記して、一文を締め括ろうとしたその時―
下の階から扉を何度も強く叩く音が聞こえてきた。
邪魔というものは、最高のタイミングを狙い澄ましてやって来るものである。
ジャックは自身が定めた区切りや、境界を侵される事を最も嫌う。しかし、エリザベスが街に出てしまっている今、来客への対応は自分がしなくてはならなかった。
極めて不本意ではあるのだが、彼は羽筆を一度台座に挿して書斎から出ると、一階の出入り口へと向かった。
「こんな朝早くから何用か?」
ジャックは不機嫌そうに扉越しの相手に話し掛けるのだが、返答は無い。
彼にとってはその方が都合が良いので、碌に待つこともせず書斎へと引き返そうとしたのだが、背後から上がった声に呼び止められた。
「…我ハ、屍術師ヴァレオンノ、使イ」
数拍の間を空けて返って来たのは、生気の感じられぬ男の声。
振り返ってドアの近くに寄ると、立ち上って来るのは強烈な死臭。
その事から扉の向こうに立つ相手は、屍術によって使役されている死体だという事が分かる。
扉一枚の隔たりがあるにも拘らず、容易く看破出来る施術にジャックは思わず舌を打った。
「ヴァレオンという屍術師の事など私は存じないが、この様な安い死体を使いに寄越すのか?」
「屍術師ジャック、一方的ナ関係デハアルガ、我ガ主ハ貴方ノ事ヲ良ク存ジテイマス」
「ほう、興味の無い相手に好かれるというのは気持ちの良い事では無いな。一体何が目的か?」
「貴方ガ、従者エリザベスニ施シタ、循環型術式(サーキュレーション・プロシージャ)ノ秘法」
どこから嗅ぎ付けて来たのかは知り得ないが、ジャックは一度深い溜息を吐いた。
「帰ってヴァレオンとやらに伝えるがいい。貴様に屍術師としての誇りが一片でも残されているのなら、術式は自身の力で解いてみせろとな」
「帰ッテ伝エル迄モ無イ。先程カラ我ガ主ニハ貴方ノ言葉ハ一語一句間違ウ事無ク届イテイル」
「…そうか。ならばもっと屍術師としての流儀を聞かせてやりたい所だが、君の主は何と?」
「出題者カラ強引ニ答案ヲ奪イ取ル事モ、自身ノ力ニ依ル解答デハ無イカト―」
ヴァレオンの使いがそう告げた後、金属の軋む音が何度か繰り返されたかと思うと、ジャックの目の前で、出入り口の扉が力任せに引き剥がされた。
放り棄てられたそれが地面に勢い良く叩きつけられて大きな音を返す。
それを皮切りにして、ヴァレオンの使役するアンデッドが建物の内部へと侵入し、ジャックへと迫っていく。
「屍術師同士、互イノ弱点ハ良ク理解シテイル…」
「成程。エリザベスがこの私の傍から離れる機会を伺っていたという事か…」
彼女が不在である今、自身の力だけでこの状況を切り抜けなければならない。
ジャックがどこかに付け入る隙は無いかと、目を凝らしてヴァレオンのアンデッドを観察する。
成程。確かに術者の身の丈に合った状態の悪い、安い死体を使っている。
齢は推察するに四十代。大きな外傷は無い為、死体のランクとしては不足に分類される程では無いが、手入れを怠っている。
適切な処理が施されていない為に、肉体への腐食が進んでしまっており、美品とは言い難い。
恐らく、このアンデッドは術者の目的を果たす為に、最低限動作すれば構わないという考えのもとで生かされており、役目が済めば破棄されてしまう程度のものなのだろう。
その挙動から察するに、死人の魂を束縛し、術者の思うままに使役するという低俗な屍術。
真の魂が宿らぬこの施術は、身体に刻まれた術式を少しでも欠損させるだけで動きは止まる。
「デハ、定石通リニ屍術師自身ヲ叩カセテ貰オウ、ト我ガ主ガ言ッテイル」
「定石通りか…しかしヴァレオン、私を貴様と同じレベルの屍術師と思って貰っては困るな」
ジャックがそう言い切ると共に懐から素早く回転式拳銃を取り出して、銃口を標的へと向けて発砲した…その筈なのだが、ジャックの撃った銃弾はヴァレオンの使役するアンデッドに命中するどころか、見当違いの方向へと突き抜けて窓硝子を粉々に砕いた。
「……」
「……」
先程まで張り詰めていた空気とはまた別の、どこか気まずさを帯びた沈黙が数秒間続いた。
「勘違いをしてくれるな。今のは威嚇射撃だ。決して術式を狙った訳ではない。これ以上私に近付けばそこに散らばった硝子の破片の様になる。私はあくまでその事を警告したまで」
「我ガ主ハ言ッテイル。講釈ヲ垂レル前ニ自身ノ射撃ノ腕ヲ磨クベキダト」
その声は目の前の相手から発せられたものでは無く、建物の外から聞こえてきた。
そう、この場に遣わされたアンデッドは一体ではなかった。それらは予め、この住居を取り囲む様に配備されていたのだ。
三、四、五、六…ヴァレオンの使役するアンデッド達が次々と建物の中へと入り込んで来る。
ジャックのやる屍術を一点物の芸術品に喩えるのなら、ヴァレオンの屍術はそれとは対極の位置に座す、物量に特化したものであった。
………
その日の夕刻。街で買い込んだ品々を背に積み上げたバロンを連れて、エリザベスが自宅へと戻って来ると、彼女は幾つかの異変に気付いた。
建物の所々に乱雑に刻み付けられた傷跡は遠目から見ても分かる程のものだ。
また、普段は固く閉ざされている筈の玄関の扉が力任せに引き千切られて、無造作に放り棄てられている。
それらの損傷から察するに、平時であれば生活を営むこの場所が、数時間前まで非日常に曝されていた事が分かる。
エリザベスが警戒しながら住居の中へと足を踏み入れると、床には無数の硝子片が散らばっており、少し離れた場所にはジャックの銃が転がっていた。
回転式拳銃の装弾数は計六発。手に取ってシリンダーを開くと、一発だけ発砲したようだ。
いつも通り銃弾は標的には当たらず、窓硝子が犠牲になった事が瞬時に理解出来る。
早足で二階の書斎と地下の研究室を当たったが、ジャックの姿はどこにも見当たらない。
書斎の机の上に書きかけの日録が残されていた事から、突然拉致されたと考えるのが自然か。
再び屋外に出て辺りを見回していると、バロンの嘶く声が耳に入ってきた。
憤り、興奮しているのか、彼は蹄で何度も地面を蹴り続けている。
エリザベスは彼をどうにか慰めようと試みるのだが、バロンの主人に馳せる想いは鎮まる所か増していくばかりだ。
「…私だって、悲しい」
彼女も近しい気持ちを抱いているからこそ、そう簡単に収まりをつける事の出来ない彼の気持ちが良く分かってしまう。
エリザベスもバロンもジャックが繋げた生命だ。彼に仕える者として、連れ出されてしまった主人を捜し出さなくてはならない。しかし、どうやって見当をつければ良いのだろう。
考えを巡らせていると、バロンがゆっくりと近付いて、彼女の背を鼻で軽く小突いた。
「バロン…?」
振り向くと彼が首を上下に動かして合図の様なものを送っている。
「…何かを、教えようと、している?」
目線を落とすと、微量ではあるがジャックの魔力が、まるで道標の様に点々と残留していた。
彼の魔力はバロンにとっての生命線。当然、その存在には敏感になっており、故に感知する事が出来た手掛かりと言えよう。
彼は主人の不在を嘆き、我武者羅に憤っていた訳ではない。先程からエリザベスにこの事を教えようとしていたのだ。
この形跡を辿っていけばバロンの生命を維持しながらも、ジャックが連れ去られた場所へと辿り着く事が出来る。
とすれば、志を同じくする者と共に、彼女の取るべき行動はただ一つ―
「バロン、御願い」
主人を想うエリザベスの意志を汲み、青毛の馬バロンはジャックの残り香を追って駆け出した。
………
「屍術師ジャック。そろそろ循環型術式の秘法について喋る気になったのではないかね?」
目の前には無数の人骨を組み上げて作られた玉座と、それに掛けて十数体ものアンデッドを従えている屍術師の姿があった。
頭髪は既に抜け落ち、肌の至る所には深々と皺が刻まれた高齢の男。
しかし、白眉の下に隠された目付きは鋭く、獲物に狙いを定める様にぎらついている。
この男こそ、ジャックに使いを寄越した屍術師のヴァレオンである。
「私も手荒な真似は好まない。事は出来るだけ穏便に済ませたいのだが?」
「対等な条件下で私と言葉を交わす事が出来ないと知っているからこそ、この仕打ちか」
ヴァレオンの口から出た言葉と、彼が実際に為している事は極めて真逆のものであった。
事実ジャックの手足は縛られてしまっており、彼の自由は決して許されていない。
そして彼の使役するアンデッドは、いつでもジャックに襲いかかれる態勢を取っている。
互いに対等な立場で言葉を交わし、穏便に事を済ませようとする者のやる事ではない。
「君は聡明な男と聞き知っている。この状況下で下手を打てば、どうなるか明白だろう?」
「…こうなってしまっては致し方あるまい」
ジャックはヴァレオンに向けて、エリザベスに施した循環型術式について包み隠す事無く、打ち明ける事にした。
その講釈は屍術の基本形を一から説明する所から始まった。
ジャック自身を含めて、多くの屍術師が用いているオーソドックスな方法を簡単に説明すると次の通りである。
屍術とは死人が生前の頃に密接な繋がりを持っていた物質を媒介とし、そこに死者の魂を下ろして、術者の魔力でその二つを繋ぎ留めるという術である。
手早く頭数を揃える為に、細かい処理を省略してはいるものの、ヴァレオンの屍術でさえこの原理原則を遵守している。
しかし、現時点において屍術は永遠の命を約束する術ではなく、時間の経過や肉体の稼働率によって、体内の魔力は次第に消耗されていくものである。
その為に、術者から魔力の供給が絶たれてしまえば、繋ぎ留められていた魂は肉体から剥離し、元の死人の状態へと帰してしまうのだ。
「私がエリザベスに施した循環型術式はそれらの問題を解消する画期的なものだ」
玉座に掛けてこちらを見下ろしているヴァレオンを下から睨め付けながら、ジャックは続ける。
「始めに術者の魔力を必要とする点と、稼働率によって消耗する部分に変わりは無いが、魔力が術式を巡る中で増幅していき、時間の経過と共に一定の値まで上昇する様になっている」
ジャックは最後に、まだ問題は山積みで試験的な段階での運用だが、それらが解消されれば最終的には屍術師を必要としない、完全な蘇生が実現された事になると付け加えた。
「…それで?」
ヴァレオンは問う。長々と続いたジャックの講義は、彼が最も欲する肝心の部分が抜け落ちているものであったからだ。
「些か不勉強な君に向けて、屍術の基礎から循環型術式のコンセプトについて洗いざらい喋ったつもりなのだが…私の説明に何か落ち度でもあったかね?」
「ふざけているのかッ!?誰が貴様が話して気持ち良くなる所だけを延々と話せと言ったッ!?大体、そんな事は貴様と貴様の従者の事を一方的に調べ尽くした上で知り尽くしているッ!!私が聞いているのは…それを実現する為の具体的な方法だッ!!」
逆上したヴァレオンは考えるよりも先に昂った感情でアンデッドを使役し、ジャックの顔面に鋭い一撃を見舞った。
しかし、ジャックが痛みに屈する事は無かった。彼は身体をよろめかせながらも、ヴァレオンに向けて一人の屍術として言葉を突き付ける。
「…私に同じ言葉を二度も言わせてくれるな。使者を介して確かに伝えた筈だ。貴様も屍術師なら術式は自身の力で解いてみせろとな」
術式を施したエリザベスの身体に何が起きているのか、懇切丁寧に説明してやった。
自分が何がしたいのかが分かれば、その為にどうすれば良いかと思考を巡らす事こそが、魔術師の真骨頂では無いのか、と。
「…私からも一つ良いかね?何故、貴様の様な男が循環型術式の秘法を欲する?」
「循環型術式は私自身の肉体に施すのだ。この私が、永遠に生き延びる為にな…!」
「成程。貴様は屍術師の風上にもおけぬ、悪戯に齢を重ねていくだけの萎びた下衆という訳か」
「何とでも言うが良い。貴様が私の屍術に屈したという事実は揺るぎないものなのだからな」
「果たして、そうかな―?」
ジャックがそう言い放つのと同時に、ヴァレオンの玉座を構築している二本の骨が音を立てて粉々に砕け散った。
「何ッ…!?」
「ふむ、アンデッドの死体から抜き取って作った骨の玉座を指揮系統に使っている、か―」
戸惑うヴァレオンを差し置いて、ジャックが彼の屍術の仕組みを冷静に分析する。
「貴様、一目見ただけで私の屍術を…」
「一目見ただけで容易く看破される様な安い屍術をこの私の前で広げてくれるな」
砕け散った骨の数は、門番に配備されていたアンデッドの数と丁度重なる。
それは、従者エリザベスが屍馬のバロンと共に、この屋敷に現れた事を意味していた。
「ヴァレオン、循環型術式の秘法を賭けて、貴様との遊戯に乗ってやる。どちらが屍術師として優れているのか、その目に焼き付けるがいい―」
………
エリザベスは二体の門番を始末した後、バロンにここで待っているようにと伝えてから、単身でヴァレオンの屋敷へと乗り込んでいった。
彼女が意趣返しの様に入口の扉をこじ開けると、屋敷内に立ち込めていた死臭が漂ってきた。
空のエントランスホール。視線を上げて辺りを見回すのだが、誰の姿も捉える事が出来ない。
実に屍術師の住処らしく、この屋敷から生きた人間の気配というものがまるで感じ取れない。
それ故に臆する事無く奥へ、奥へと歩を進めていく彼女の靴音だけが、やたらと冷たく響く。
手掛かりを持たないエリザベスは、虱潰しに部屋を一つずつ当たっていこうと考えていた。
そして、階段を数段ほど登り終え、踊場に出たその時であった―
上階から飛び降りて襲いかかって来る者をエリザベスの視覚が捉える。ヴァレオンの使役するアンデッドである。
落下しながら繰り出される攻撃を寸前で躱した後、彼女は一度距離を取って態勢を立て直した。
アンデッドはなりふり構わず、彼女との距離を詰めて攻撃を繰り返すのだが、単調な動きでは彼女を仕留める所か不用意に伸ばした手足に手痛い反撃を貰ってしまう。
「グボァッ…!?」
確かな意思を持って行動する者と、指揮者の命令を受けてから動く者の力の差である。
ヴァレオンの屍術、彼が使役するアンデッド達は術者の手と足、目や耳といった身体機能の延長でしかない。それに対してエリザベスは自ら考え、最適な行動を瞬時に選択し、目の前に広がる困難を切り抜ける事が出来る。
屋敷の奥部から、次々と湧き出る無数のアンデッドの術式を、彼女は自らの手刀を用いて次々と破断していく。
「ごめんなさい。こんなやり方しか、出来なくて―」
生者の様に…いや、生者以上の立ち回りをこなして、エリザベスはヴァレオンのアンデッド達を完全に圧倒した。
術者の私欲によって悪用されていた死体と、囚われていた魂の繋がりを絶ち、十数体以上のアンデッドを元の状態へと還した所で、彼女の行く手を一際大きな扉が塞いだ。
ここに辿り着くまでの警備の手厚さから考えて、この先にヴァレオンが居ると見て良いだろう。
エリザベスが力を籠める。これは先程の戦闘からやっている事で、彼女の掌と足底には体内を循環する魔力を放出する為の術式が刻まれている。
魔力を迸らせて、威力が増幅された鋭い蹴りを目の前の頑強な扉へと放つと、それは大きな轟音を響かせながら突き破られていった。
「ほう、待ってい…」
エリザベスはヴァレオンの言葉を一切汲み取る事無く、広間に駆け込むのと同時にジャックの回転式拳銃を取り出し、すかさず引金を引いて三発の弾丸を発砲した。
彼女の狙いは正確で、銃弾は真っ直ぐにヴァレオンを目指していったのだが、彼の傍に立つアンデッド達が射線上に立ち塞がって防壁となり、それを阻んだ。
「速いな。各所に配備していたアンデッドを軒並み始末した事も頷ける…しかし、最後に勝つのは貴様の様な若造ではなく、この私だ」
彼がそう言って指し示した先には、昏睡状態のまま首元に刃物を突きつけられているジャックの姿があった。
「もう少し頭の良い男だと思っていたのだがな。私が欲するものを寄越さず、要らぬ事ばかり抜かすのでこうして眠って貰ったという訳だ」
「ジャック…」
これでは流石の彼女も迂闊に手を出す事が出来ない。
彼は自身のアンデッドとエリザベスが、真正面から戦っては勝ち目が無い事を理解していた。
ジャックの身柄を押さえ、生け捕りにしていたのは彼女を無力化する為だ。
「彼が素直に循環型術式の秘法を明かす事は無いと踏んでいた。エリザベス、私の本来の目的は君なのだよ」
そう、術者であるジャックが口を割らないのであれば、完成品であるエリザベスという器を叩き割って、その中身を引き摺り出せば良い。
「従者エリザベス、取引をしようではないか。君が黙って私の召使達に引き裂かれるというのなら、主人の命は助けてやろう」
「……」
ここでヴァレオンの要求を呑む訳にはいかないが、主人の命を握られてしまっているこの状況下では、彼女にはどうする事も出来ない。
「肯定とみなそう。では、まずはその物騒な玩具を棄てて貰おう」
彼の言葉に従うしか選択肢の無いエリザベスは、仕方無く無言で回転式拳銃を放った。
屍術の練度に関しては完敗であったが、屋敷の最奥部に辿り着くまでの戦闘を通して、エリザベスの戦闘手段は完全に把握出来た。
体内の魔力を一点に集中させて放つ打撃や、蹴りの破壊力に関しては目を見張るものがあるが、ジャックの銃さえ押さえてしまえば、彼女は接近戦しかこなせない。
「これで下手な真似をやる事は出来まい」
アンデッドに拳銃を回収させ、勝利を確信したヴァレオンはジャックの傍に配置した一体だけを残して、全てのアンデッドを彼女へと差し向けた。
循環型術式の秘法を解明する為に、十数体のアンデッド達が一歩、また一歩と距離を詰める。
しかし、この絶命必至の状況下で、エリザベスは迫り来るアンデッドなどには目もくれず、主人であるジャックと同じ様にヴァレオンを鋭く睨み付けていた。
まるで標的に向けて照準を絞る様な彼女の視線に気圧され、自身が屍術師ジャックへと向けて放った言葉が脳裏を掠める。
エリザベスは、ヴァレオンが身じろぎをしたその瞬間を見逃さなかった。
自身の左の前腕骨に手を掛けると、彼女の純白のグローブには赤黒い染みが滲み出し、次第に広がり始めた。
「…ッ」
声を押し殺して痛みに堪える。表情に表れないというだけで彼女にも痛覚はある。
しかし、今はそんな些細な事で留まっていられる様な状況ではない。
自分が行動を起こさなくては、どんな手段を使ってでも彼を助け出さなくては。
そう、あの時、ジャックが自分にしてくれた様に―
「今度は、私が、ジャックの、命を…」
彼女は更に力を加えて、自身の肉を身体の中へと押し込んでゆく。
人の手によって造られた体液の通り路。命の欠片である肉を擦り潰し、新たに練り直して生まれた筋繊維。数式を孕み作用を模倣する人工神経。
人体を再現するそれらのしがらみを力任せに引き剥がして、摘出するのは血塗の骨一つ。
彼女は知っている。自身の腕や脚が複製されたものであるという事。
彼女は信頼している。屍術師ジャックの施術を。だからこそ、この様に捨身ではあるが必殺の行動に走る事が出来る。
「ジャックは、殺させない―」
エリザベスが体内を巡る魔力を右手に集中させた後、力強く握り締めた橈骨をヴァレオンの頭にめがけて投擲する。
それは目にも止まらぬ速さで空を切り、気付くと彼の目前にまで迫って来ていた。
ほんの一瞬の出来事だ。これではジャックの近くに配備したアンデッドを動かして交渉に迫る事も、自身の傍にアンデッドを引き戻す事も、どちらの対応も間に合わない。
せめてどちらか一つと混乱する彼の意識は、無惨にも突然絶たれてしまう。
エリザベスの放った一矢は彼の脳天へと到達し、彼女の橈骨は眉間へと突き刺さった。
そう、屍術師同士、互いの弱点は良く知っている。定石通りに術者自身を叩けば良い。
最期に彼の脳裏に過った言葉だ。ヴァレオンはその例に漏れない典型的な屍術師の一人でしかなかった。
………
拉致事件から丁度三日が経過した。
散々ヴァレオンを煽り逆上させた挙句、昏睡状態に陥っていたジャックの意識は一晩明けた所で回復したが、昨日までは床に伏したきりで起き上がる事はなかった。
未だ眠っていると思われる彼の身の回りの世話をしようと、エリザベスは寝室へと向かったが、主人の姿は見当たらなかった。
立て続けに拉致されたとなると流石に笑い話だが、万が一の事を考えると自然と足早になってしまう。事件が起きたあの日と同じ様に二階の書斎を当たってみるが、部屋には誰も居ない。続けて地下へと向かうと、彼は研究室で一仕事を終えた所だった。
「エリザベス、丁度良い所に来てくれた」
ジャックが指し示す方に目を向けると、作業台の上には雪の様に白く、すらりとした細い腕が一つ置かれていた。
「欠けてしまった君の左腕だ。既に術式も張り巡らせてある」
「もう、作ってくれたの…?」
「夜遅くに起き出しては少しずつ進めていた。君が万全な状態で傍に居てくれなくては、この私も不全だからな」
「ジャック…」
「何かね?」
「次はもっと、上手くやる―」
彼を助ける為とは言え、自分の為に主人の手を煩わせてしまった。
その事で気を落とし、申し訳無さそうに振舞う彼女へと向けて、彼は顔を上げるようにと温もりのある言葉を掛けた。
「気負う事は無い。君は良くやってくれている」
主人が無事に帰還し、欠けていた彼女の右腕も元の場所へと収まって、二人は日常の光景を取り戻しつつあった。
「ところでエリザベス、研究意欲の向上の為に今日のディナーのメインディッシュを確認しておきたいのだが…」
「白身魚のポワレ、バターソース添え」
硝子が割れたままの手付かずになっている窓からは、爽やかな風が吹き抜けていった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
姫と近衛とネクロマンサー
音喜多子平
ファンタジー
――これは『死』の物語――
御伽噺の知識が豊富というだけの理由で姫に気に入られ、その近衛兵になるという異例の出世をした一人の下級騎士。
彼にはネクロマンサーの幼馴染がいた。
とある理由でネクロマンサーを探している姫を、秘密裏に彼に引き合わせるのだが・・・。
――そして『生』の物語――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
流星痕
サヤ
ファンタジー
転生式。
人が、魂の奥底に眠る龍の力と向き合う神聖な儀式。
失敗すればその力に身を焼かれ、命尽きるまで暴れ狂う邪龍と化す。
その儀式を、風の王国グルミウム王ヴァーユが行なった際、民衆の喝采は悲鳴へと変わる。
これは、祖国を失い、再興を望む一人の少女の冒険ファンタジー。
※一部過激な表現があります。
――――――――――――――――――――――
当サイト「花菱」に掲載している小説をぷちリメイクして書いて行こうと思います!
蓮華
釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~
玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。
彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。
そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。
過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。
それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。
非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。
無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。
巻き戻りファンタジー。
ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。
ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。
楽しんでくれたらうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる