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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!
第21章 アリーシャは吸血鬼な新魔王に首筋を狙われている!
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問う声は、みっともなくひっくり返っていた。
「姫には、私のことを、もっとよく知ってもらうべきかと思ってな」
よく知るって、どういう意味でだろう……。
何となく、アヤしい雰囲気を感じてしまう。
「こんな時間に、乙女の部屋を訪問しようだなんて、非常識です!お引き取りください!」
私は必死に抵抗を試みる。
「そう言うな。魔王というのは多忙でな、こんな時刻でもないと、時間が取れんのだ」
「私、あなたと会って話すことなんて、何もありませんから!」
「こちらにはあるのだ。入らせてもらうぞ」
ブランは私の拒絶を無視し、勝手に部屋に入って来る。
言葉でどんなに抵抗しようと、鍵は向こうの手の中にあるのだから、無駄なことだった。
「来ないでくださいっ!」
「……怯えているのか?ほんの数時間前までは、あんなに強がっていたというのに……。可愛らしいものだな」
やけに色気のある低音ボイスで囁きながら、ブランはじりじり迫ってくる。
まるで、獲物を追いつめるのを楽しんでいるようだ。
このヒト、ドSだ。絶対、ドSな性格してるよ……。
「美しい……。満月の如き、まばゆき金の髪。湖の如き、深き蒼の瞳。まだ誰にも汚されぬ、無垢なる美姫よ。お前の血は、さぞや甘美だろうな……」
ブランの口の端から、白く輝く牙が覗いている。
もう、噛む気満々だ。
だが私も、ただボーッと囚われ1日目を過ごしていたわけではない。
「これ以上、近寄って来るなら……こうです!」
ポケットからある物を取り出し、ブランへ向けて突き出す。
それは、部屋に用意されていたペン軸を、2つクロスさせて結びつけた、即席の十字架だった。
万が一の時に備えて作っておいたのだが……まさか、こんなに早く出番が来るとは。
「それは十字架のつもりか?残念ながら、私には効かんよ」
ブランは平気な顔で、なおも近づいて来る。
……やはり、急ごしらえでムリヤリ作った十字架では、効かないのだろうか。
「だったら、ニンニクは!?」
夕食の時、ワガママを言ってヴィヴィアンヌたちに持って来てもらったニンニクを、丸ごとブランに投げつける。
「なるほど。吸血鬼の苦手とするものを、いろいろ用意していたようだな」
相手が吸血鬼と分かっているのだから、当然、弱点は用意しておいた。
だが、囚われの身で手に入れられるものなど、即席の十字架とニンニクくらいだ。
銀の弾丸や、心臓に打ち込む杭など、用意できるはずもないし……あっても、きっとグロい展開が嫌過ぎて使えない。
「あいにくだが、私は吸血鬼であって、吸血鬼ではない。母方の遺伝も濃いようでな、吸血鬼としての弱点は、堕天使の血が打ち消してくれているのだ」
「そんな……」
そんなのチートでズルい……と思ったが、よくよく考えてみれば、ブランは "終盤の魔王" 。
それくらいのスペックは当然なのかも知れない。
「だが、その堕天使の血も、吸血衝動までは打ち消してくれぬ。お前を直にこの目で見た、あの時から……喉が渇いて仕方がない。姫よ、私の渇きを癒してくれ」
ブランの息が、次第に荒くなってくる。
エリート然としていた冷静な表情が崩れ、愉悦の表情が浮かんでくる。
このヒト……血が吸いた過ぎて、正気を失ってきている。
「絶対イヤです!お断りです!」
必死に抵抗を続ける。だが、密室の中では逃げる場所などほとんど無い。
私はすぐに壁際に追いつめられてしまった。
「ほら、捕まえた。もう諦めて、私の獲物になれ」
壁ドンされて、完全に逃げ場をなくされてしまう。
私はとっさに、両手で首筋を押さえた。
「悪あがきをするな。心配無い。痛いのは最初だけだ。すぐに気持ち悦くなる」
ブランは昂奮に頬を染め、熱く囁きかけてくる。
……言い回しが、いちいちいやらしくて、心臓に悪い。
「嫌です!やめ……っ!」
せめてもの抵抗に、再び拒絶の声を上げた、その時――ふいに鈍い音が響き、ブランの頭が大きく揺らいだ。
「姫に無体な真似をするなと、言っただろう!」
ブランが頭をさすりながら振り向くと、そこには黒衣に身を包んだスカイの姿があった。
「スカイ……。お前、主君を殴りつけるとは何事だ」
「上司と言えど、コンプラ違反は見逃せない。これは陛下のためでもあるんだぞ」
スカイは、さも当然のようにそう言い、胸を張る。
……何だか、服装は変わっても "中身" はメトロポラリスで会った時と全く変わらないように見えるんだけど……。
本当に闇堕ちしてるのかな。
「スカイ王子!ありがとう!助かったよ」
とりあえずお礼を言うと、スカイは目に見えてうろたえる。
「う……あ、いや……ぼ、僕は、人として当然のことを、したまでで……」
私に対する態度も、以前と変わらないように見える。
……本当に洗脳されてるのかな。
「えっと……。スカイ王子、私のこと、覚えてる?」
「姫には、私のことを、もっとよく知ってもらうべきかと思ってな」
よく知るって、どういう意味でだろう……。
何となく、アヤしい雰囲気を感じてしまう。
「こんな時間に、乙女の部屋を訪問しようだなんて、非常識です!お引き取りください!」
私は必死に抵抗を試みる。
「そう言うな。魔王というのは多忙でな、こんな時刻でもないと、時間が取れんのだ」
「私、あなたと会って話すことなんて、何もありませんから!」
「こちらにはあるのだ。入らせてもらうぞ」
ブランは私の拒絶を無視し、勝手に部屋に入って来る。
言葉でどんなに抵抗しようと、鍵は向こうの手の中にあるのだから、無駄なことだった。
「来ないでくださいっ!」
「……怯えているのか?ほんの数時間前までは、あんなに強がっていたというのに……。可愛らしいものだな」
やけに色気のある低音ボイスで囁きながら、ブランはじりじり迫ってくる。
まるで、獲物を追いつめるのを楽しんでいるようだ。
このヒト、ドSだ。絶対、ドSな性格してるよ……。
「美しい……。満月の如き、まばゆき金の髪。湖の如き、深き蒼の瞳。まだ誰にも汚されぬ、無垢なる美姫よ。お前の血は、さぞや甘美だろうな……」
ブランの口の端から、白く輝く牙が覗いている。
もう、噛む気満々だ。
だが私も、ただボーッと囚われ1日目を過ごしていたわけではない。
「これ以上、近寄って来るなら……こうです!」
ポケットからある物を取り出し、ブランへ向けて突き出す。
それは、部屋に用意されていたペン軸を、2つクロスさせて結びつけた、即席の十字架だった。
万が一の時に備えて作っておいたのだが……まさか、こんなに早く出番が来るとは。
「それは十字架のつもりか?残念ながら、私には効かんよ」
ブランは平気な顔で、なおも近づいて来る。
……やはり、急ごしらえでムリヤリ作った十字架では、効かないのだろうか。
「だったら、ニンニクは!?」
夕食の時、ワガママを言ってヴィヴィアンヌたちに持って来てもらったニンニクを、丸ごとブランに投げつける。
「なるほど。吸血鬼の苦手とするものを、いろいろ用意していたようだな」
相手が吸血鬼と分かっているのだから、当然、弱点は用意しておいた。
だが、囚われの身で手に入れられるものなど、即席の十字架とニンニクくらいだ。
銀の弾丸や、心臓に打ち込む杭など、用意できるはずもないし……あっても、きっとグロい展開が嫌過ぎて使えない。
「あいにくだが、私は吸血鬼であって、吸血鬼ではない。母方の遺伝も濃いようでな、吸血鬼としての弱点は、堕天使の血が打ち消してくれているのだ」
「そんな……」
そんなのチートでズルい……と思ったが、よくよく考えてみれば、ブランは "終盤の魔王" 。
それくらいのスペックは当然なのかも知れない。
「だが、その堕天使の血も、吸血衝動までは打ち消してくれぬ。お前を直にこの目で見た、あの時から……喉が渇いて仕方がない。姫よ、私の渇きを癒してくれ」
ブランの息が、次第に荒くなってくる。
エリート然としていた冷静な表情が崩れ、愉悦の表情が浮かんでくる。
このヒト……血が吸いた過ぎて、正気を失ってきている。
「絶対イヤです!お断りです!」
必死に抵抗を続ける。だが、密室の中では逃げる場所などほとんど無い。
私はすぐに壁際に追いつめられてしまった。
「ほら、捕まえた。もう諦めて、私の獲物になれ」
壁ドンされて、完全に逃げ場をなくされてしまう。
私はとっさに、両手で首筋を押さえた。
「悪あがきをするな。心配無い。痛いのは最初だけだ。すぐに気持ち悦くなる」
ブランは昂奮に頬を染め、熱く囁きかけてくる。
……言い回しが、いちいちいやらしくて、心臓に悪い。
「嫌です!やめ……っ!」
せめてもの抵抗に、再び拒絶の声を上げた、その時――ふいに鈍い音が響き、ブランの頭が大きく揺らいだ。
「姫に無体な真似をするなと、言っただろう!」
ブランが頭をさすりながら振り向くと、そこには黒衣に身を包んだスカイの姿があった。
「スカイ……。お前、主君を殴りつけるとは何事だ」
「上司と言えど、コンプラ違反は見逃せない。これは陛下のためでもあるんだぞ」
スカイは、さも当然のようにそう言い、胸を張る。
……何だか、服装は変わっても "中身" はメトロポラリスで会った時と全く変わらないように見えるんだけど……。
本当に闇堕ちしてるのかな。
「スカイ王子!ありがとう!助かったよ」
とりあえずお礼を言うと、スカイは目に見えてうろたえる。
「う……あ、いや……ぼ、僕は、人として当然のことを、したまでで……」
私に対する態度も、以前と変わらないように見える。
……本当に洗脳されてるのかな。
「えっと……。スカイ王子、私のこと、覚えてる?」
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