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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!

第10章 アリーシャ、美術室とトイレの怪に遭遇する

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 気分的には "廃校肝だめしツアー" なのだが、あくまでRPGらしく、普通の廃校にはどう考えても無いようなブツが、ところどころにある。
 
「……教室のど真ん中に宝箱……。何という不自然さ……」
 
 どうか中身がパスの破片でありますように……そう願いながら宝箱を開けるが……
 
「紙は紙でも、トイレットペーパー?何でわざわざ宝箱に……」
 
 これは、アレだろうか。
 バナナの皮と同じく "開けてみたらガッカリ" を狙っているのだろうか……。
 
「この部屋にパスの破片は無かったな。やはり、1室1室めぐって探していくしかないようだな」
 
《次の部屋に行くワン!隣の部屋は "美術室" と書いてあるワン!》
 
 美術室……。学校の七不思議で何かしらありそうな場所だけど……
 
「行くしかない……か」
 
 
 おそるおそるドアを開け、白兵衛の眼球ライトで中を照らしてみる。
 
「ぶ……不気味過ぎる……。美術室って、人型のモノが多過ぎ……」
 
 壁に飾られた人物絵画に、上半身だけの石膏せっこう像、ガラス戸棚とだなの中にしまわれたデッサン人形……。
 
 どれもこれも、暗い教室の中、細いライトの灯りで照らすと、余計に不気味に見える。
 
「…………ッ!? 今、石膏せっこう像の目が光らなかった?」
 
《分からないワン。それよりも、戸棚の中のデッサン人形が動いているワン》
 
「は!? 嘘!?」
 
 ぎょっとしてそちらに目をやるが……デッサン人形はピタリと静止したまま、ピクリとも動かない。
 
「……なんだ、動いてないじゃん。おどかさないでよ、白兵衛」
 
《動いているワン。さっき見た時とポーズが変わっているワン》
 
「えっ!?」
 
 そう言われて再び視線を戻すと……確かに、さっき見た時と、何かが変わっているような……?
 
 今度はしっかりポーズを記憶してから、一瞬だけ視線をはずし、みたびデッサン人形に目を向ける。
 
「……ほ、本当だ!うでの向きと、あしの角度が変わってる!」
 
 目を向けたままだと動かないのに、視線をらすと、そのわずかの間に、少しだけポーズが変わっている。
 
 ためしに、視線を外して戻してを繰り返してみると……
 
「え……?踊ってる?盆踊り?」
 
「奴もモンスターの一種だな。ツクモカミ属の "踊るデッサン人形ダンシング・ドローイング・ドール" だ」
 
《比較的おとなしいけれど、人をおちょくるのが大好きな、イタズラっ子モンスターだワン!》
 
「モンスターか……。だったら怖くない……よね?お化けじゃないんだから……」
 
《それより、デッサン人形の下に、何か紙の切れ端が見えるワン!》
 
「どうやらパスの破片のようだぞ」
 
 近寄り、実際に手に取ってみると、それは本当にパスの破片だった。
 
「 "美術室の踊るデッサン人形の怪" ……。これ、本当に七不思議なポイントにパスの破片があるパターンじゃん……」
 
 この、親切なようでいて、ものすごく意地悪な隠し場所設定……いかにも創君の思考パターンだな。
 
「……ってことは、トイレとか階段とかも探さなきゃダメか……」
 
 
 トイレも階段も複数あるので、しらみつぶしに探していくしかない。
 
「トイレも、個室がいくつもあるからな……。結構けっこう大変だよ、これ」
 
 ビクビクしながら、トイレの個室をひとつひとつ開けていく。
 
 だが、そんなことをする必要はなかったのだと、"当たり" のトイレに遭遇そうぐうして知る。
 
「カミを……カミをくれ……」
 
 そのトイレに一歩足を踏み入れた途端とたん、個室のひとつからそんな声が聞こえてきた。
 
「ひイィッ!? これ、知ってる!紙をあげると『このカミじゃない、お前のカミだ』っておそいかかってくるヤツ!」
 
 どうやら花子さんの方ではなく、『紙をくれ』の方の怪談だったらしい。
 
「……そんなことはしない。本当に困っているんだ。このままでは一生ここから出られない。どうか紙を……トイレットペーパーをくれ」
 
 個室の中の何者かは、私の叫びにそんな冷静な答えを返してくる。
 
「トイレットペーパー?……そう言えば、さっき宝箱に入ってたっけ」
 
 そうか、ただのガッカリアイテムじゃなくて、ちゃんと意味があったのか。
 
「じゃあ、今から投げますんで、受け取ってくださいね」
 
 そう声をかけ、個室の上からトイレットペーパーを投げ入れる。
 
「おぉ……。ありがたい……」
 
 感謝の声の後、ホルダーにトイレットペーパーをセットする音、ゴソゴソと動作する音、水を流す音が続き……やがて、ガチャンとかぎが開き、個室から人影が出て来た。
 
「いやぁ、助かりました。いくら魔物とは言え、かずに出るのはエチケットに反しますので」
 
 やけにスッキリした声でそう言いながら現れたのは……
 
「ンふィぎャあァアッ!? し……死体!? しかも、くさりかけ……!?」
 
「アンデッド属のリビングデッドだな。安心せよ、ただのモンスターだ」
 
 いや……見た目が恐ろし過ぎて、全然安心できないんだけど……。
 
 アンデッド系のモンスターって、襲って来ないと分かっていても、心臓に悪過ぎる……。
 
「あ、皆さん、ひょっとして、何か探してたりします?この個室、宝箱があるので、開けてみると良いですよ」
 
 音楽室のスケルトンといい、このリビングデッドといい、見た目はともかく、すこぶるフレンドリーなモンスターたちだ。
 
 そして彼(?)の出た後の個室には、ひどく不自然に宝箱が鎮座ちんざしていた。
 
 中身は案のじょう、パスの破片だ。
 
「……これで3つ目。こんなのが、あと4つか……。勘弁かんべんしてよ、もう」
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