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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!

第1章 アリーシャ、魔界入りする

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 魔鏡の森の長いトンネルを抜けると、魔界だった。
 
 
「わー……本当に空がある。そして、シュールな光景……」
 
 この世界の元となったRPG制作ソフトには、様々なマップ素材がそろっていた。
 そして私と創君は、何とかその素材を全種使い切ろうと頑張がんばった。
 
 その結果が、この魔界である。
 
 
「……砂漠の向こうに廃墟はいきょのビル群……。世界観が、魔界って言うより "終末系ファンタジー" なんだけど」
 
「正確には終末のセカイって感じですね。ここは、かつて魔王軍が滅ぼした、別の人間世界の "なれの果て" ですから」
 
 さらりと横から解説してきた創君ユースは、トンネルに入る前とは格好かっこうが変わっている。
 
創君ユース……ソレ、何?包帯男ほうたいおとこのコスプレ?」
 
「……せめて、ミイラ男と言ってくださいよ。この世界では、モンスターのフリをしないとマズいですからね」
 
 身体のあちこちに包帯をぐるぐる巻いただけの創君ユースは、やる気の無いハロウィンコスプレにしか見えない。
 
「ひとまず、暗くなる前に村へ行きましょう。魔界では、明るい時間帯は貴重きちょうですから」
 
「……ってことは、やっぱり、この世界 "昼間" が無いんだ」
 
 魔界には、太陽の照りつける "昼" は存在しない。
 空は黄昏たそがれと夜とを行ったり来たりするだけだ。
 
 今はちょうど黄昏時。世界の全てを淡い黄金色が支配している。
 
「この景色……まるで、ぼう宮崎アニメのオープニング……」
 
「あれも実は、産業文明が崩壊して千年後の、荒廃した世界が舞台ですからね。映画冒頭でチラッと説明が出ますけど、消えるのが速過ぎますから。把握はあくしきれいていない人も、きっと沢山たくさんいるんじゃないかと……」
 
 大好物の話題をると、創君ユース嬉々ききとして語りだす。
 
 うっかりポロッと "この世界の人間が知るはずもない知識" を披露ひろうしてしまっていることにも気づかない。
 
 だが、私もここで『やっぱり創君ユース、現実世界での記憶があるじゃん』などとツッコミを入れたりはしない。
 
 今は泳がせておいて、様子を見る段階だ。
 
 
「あれ?あの砂漠にえてる植物、見覚えある。確か、テキーラの材料になるやつだっけ?」
 
 砂漠エリアにも時々は、植物らしきものが生えている。
 いかにも荒野の植物らしい、ワイルドな見た目の植物ばかりだ。
 
「いえ、魔界に竜舌蘭リュウゼツランは生えないはずなので……アレは、モンスターです」
 
 言いながら創君ユースは、腰からダガーを引き抜く。
 
 直後、砂の下からガバッとモンスターが現れた。
 緑色でゴツゴツした肌の、巨大なトカゲのような生物だ。
 植物のように見えていたのは、その生物のトサカだったのだ。
 
「知能の低いモンスターに "変装" は通じません。ヤツらは本能でおそって来ますから」
 
 そう言ったかと思うと、次の瞬間には、もう創君ユースは敵の目の前にいた。
 
 地をり、アクロバティックにくるくる宙を舞いながら、手にしたダガーでモンスターを切り刻んでいく。
 
 まるで忍者か暗殺者アサシンのアクションでも見ているようだった。
 
 
《センチュリープラント・ドラゴンを倒した!アリーシャたちは経験値と竜血酒を手に入れた!》
 
 
 あっさり敵を倒して戻って来た創君ユースを、私は呆然として迎える。
 
「え?創君ユース、強過ぎない?レベル設定いくつになってるの?」
 
「 "設定" とか言わないでくださいよ。私はアリーシャ様をお守りするのが役目ですからね。強くないと話にならないでしょう」
 
 そう言って創君ユースは、実際レベルがいくつなのかは教えてくれなかった。
 
 ……でも絶対、自分だけチートな高レベルに設定してるんだろうな。
 
 
 
 その後も創君ユースは、襲って来るモンスターを次々と倒してくれた。
 私の出る幕は全く無いほどだった。
 
 現実世界ではインドアなイメージしかなかった創君が、縦横無尽じゅうおうむじんに飛びねている様には、強い違和感がある。
 
 だが、心のどこかで納得してもいる。
 
隠密おんみつとかスパイとか、影のヒーロー系って、ゼッタイ創君のシュミだもんね」
 
 創君ユースがアクションするたびに、身につけた包帯の切れはしがヒラヒラ踊る。
 
 妙に絵になるそのスタイリッシュさが、いかにも創君好みだった。
 
 
 
「知能の低い野良のらモンスターは、フィールドにしか出現しませんので、建物のあるエリアに入ってしまえば安全なはずですよ」
 
「建物って言っても、思いっきり廃墟だけど……。魔王軍のモンスターたち、よくこんな所で暮らしてられるよね」
 
 私たちは砂漠を抜け、廃ビル群の間を通っていく。
 
 ガラスが割れ、壁がところどころがれ落ち、鉄という鉄のびついたビルは、見るからに不気味だった。
 
「何か、ヤダ……。オバケ出そう」
 
「いや、オバケも何も、フツーにモンスターとかゴーストがみついてますから、ココ」
 
 創君ユースは「ホラ」と言って、割れた窓のひとつを指差す。
 そこには、何かの獣の目らしきものが、ギラッと光っていた。
 
「ぅひゃひゃひゃひゃイッ……!?」
 
 思わず悲鳴を上げて創君ユースの腕にしがみつくと、盛大にめ息をつかれた。
 
「……前々から思っていたんですが……何でそう、悲鳴の上げ方が奇妙なんですか、あなたは」
 
 ……いや、だって……人間、本当の本当に "とっさの時" って、ヘンな声出ちゃわない?
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