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第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!

第17章 アリーシャ、桃幻を偵察しようとする、が…

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「つーかさ、鬼姫の恋を叶えたいなら、まず相手の気持ちを確認しないとダメなんだぜ。『僕はふさわしくない』って、遠まわしな "お断り" かも知れないだろ?」
 
 パープロイに指摘され、私はその可能性にハッと気づいた。
 
 
 ……と言うわけで、とりあえず私とパープロイとで、桃幻の "偵察ていさつ" に来たのだが……。
 
「あの……僕に何か、ご用でしょうか?」
 
 まずはかげからコッソリ観察するつもりが、すぐにアッサリ見つかってしまった。
 
 ……やはり、鬼族の中で人間の姫とエルフの青年は目立つのだろうか。
 
「姫様の招かれた王女様ですよね?今日はまた、随分ずいぶんと派手……あ、いえ、華やかで可愛らしいお姿ですね」
 
 ……と言うより、カッコが問題だったのかも知れない。
 
 今日の私は鬼姫に "お着替え" させられた、フリフリ姫袖ひめそでの和風ロリータに身を包んでいる。
 
「えっと……用と言うか、その……」
「オレが、あんたに用があるんだぜ。いろいろ話を聞きたくてな」
 
 ワタワタする私の代わりに、パープロイがさらりと話を取りつくろう。
 ……さすが、じいやは闇堕ち時代でもたよりになるなぁ。
 
「鬼族の中では不遇な少数派マイノリティのあんたが、それでも郷一番のメンタルで、強く生きてるって聞いたんだぜ。……オレも郷じゃ、似たような立場だからな」
 
 桃幻は一瞬無言で私たちを見つめ返した後、『仕方がないなぁ』とでも言いたげに苦笑した。
 
「姫様ですね、そんなことを言ったのは。僕は、そんなに強くはありませんよ。しかし、僕の話などでもお役に立てるなら、何でも聞いてください」
 
 桃幻は優しくそう言うと、私たちを彼の診療所へ招き入れた。
 
 
「郷の外とはお茶の種類が違うので、お口に合うかどうか分からないのですが……」
 
 そう言い、桃幻は手ずからお茶をれて出してくれる。この郷以外では見かけたことのない、久しぶりの緑茶だ。
 
「いえ!うれしいです!ありがとうございます!」
 
 現実世界にいた頃は『毎日、緑茶かほうじ茶ばっかできちゃう』『たまには紅茶でも出ればいいのに』なんて思っていたものだけど……今となっては、この味がなつかしい。
 
 診療所に漂う独特の空気と、久々の緑茶の香りを味わっていると、どうしても現実世界のことを思い出してしまう。
 
 ついボンヤリ回想にひたってしまった後、ふと、桃幻がこちらをじっと見つめているのに気がついた。
 
「あの……王女様。失礼ですが、どこかお悪い所でもありますか?」
 
 その問いに、ドキッとして狼狽うろたえる。
 
「え……?えっ……と……今は・・無い……はずですけど……」
 
 桃幻は真剣な目で私の両目を凝視ぎょうしした後、ふっと微笑わらって首を振った。
 
「失礼致しました。気のせいだったようです。今の王女様は健康そのものですね」
 
 その言葉に胸をで下ろすも無く、パープロイが疑問の声を上げる。
 
「いや、あんた目ぇ見ただけで分かんのかよ!?」
 
「いいえ。目ではなく、気の流れを読んだのですよ。僕は "巫医ふい" ですから」
 
「「巫医!?」」
 
 耳慣れない単語に、二人同時に問い返したその時、診療所の引き戸がいきなり乱暴に開かれた。
 
 
「邪魔するぜ。腕をちょっと痛めてな」
 
 現れたのは、初めて見る鬼族の若者だった。
 
 見た目年齢が桃幻と同じくらいか、それより少し若いくらいの彼は、私たちの姿を見て目を丸くする。
 
「……明朱楽アシュラ。さては、また無茶な訓練をしましたね。運動の前には、きちんと肉体からだをほぐすようにと、前にも言いましたよね?」
 
「うるせぇな。とっととろよ」
 
 明朱楽と呼ばれた男の態度には、医者に対する敬意も何もあったものではない。
 
 ……とんだモンスター患者ペイシェントだな。
 
「すみません、王女様、パイロープ様。先に彼を診させてください」
 
 桃幻は、私たちへ向け丁寧に頭を下げると、明朱楽の腕を持ち上げ、じっとながめる。
 
「この程度ていどなら、手当て・・・するまでもありませんね。湿布しっぷ薬を処方しますので、貼って腕を休ませてください」
 
「……んだよ。手当て・・・すりゃ、すぐに治って修行に戻れるだろ?サボってねぇで、ちゃんと仕事しろよ。このヤブ医者が」
 
「すぐに巫術ふじゅつに頼るのは良くありませんよ。外の力に頼ってばかりでは、あなたの肉体の中の自己治癒力が低下してしまいます」
 
「休んでたりしたら、他の奴らに追い越されるだろうが!……お前みたいに、ハナから他と競う気も無ぇ奴には分かんねぇだろうけどな!」
 
 明朱楽は八つ当たりのように桃幻に苛立いらだちをぶつける。
 
 桃幻は黙ってそれを聞いていたが、ふっと吐息して、再び彼の腕に触れた。
 
「……少しだけ、ですよ」
 
 そう言って明朱楽の腕をゆっくりとさすりだす。その手のひらは、やがてほわりと柔らかな光をびていった。
 
「これって……回復魔法?」
 
 そうか。この世界の医者は、知識と道具だけで患者を治すとは限らないのか。魔法っていう手もアリなのか。
 
「回復のための魔法であることは確かだが……一般的な回復呪文とは系統が違うな。この郷独自の魔法系統なのか……?」
 
 私の横でパープロイも、桃幻の魔法に興味津々しんしんだ。
 
 
「ハイ、終わりました。痛みは少し残しておきましたから、無茶な動かし方はしないでくださいね」
 
「は!? 何で完治させねぇんだよ!」
 
「そうすると、あなたはまた無理をするでしょう?痛みは肉体からの警告なんですから、無視しないでくださいね」
 
 明朱楽はなおも文句を言っていたが、やがてあきらめたように「このヤブ医者が」と吐き捨て、去って行った。
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