92 / 162
第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!
第17章 アリーシャ、桃幻を偵察しようとする、が…
しおりを挟む
「つーかさ、鬼姫の恋を叶えたいなら、まず相手の気持ちを確認しないとダメなんだぜ。『僕はふさわしくない』って、遠まわしな "お断り" かも知れないだろ?」
パープロイに指摘され、私はその可能性にハッと気づいた。
……と言うわけで、とりあえず私とパープロイとで、桃幻の "偵察" に来たのだが……。
「あの……僕に何か、ご用でしょうか?」
まずは陰からコッソリ観察するつもりが、すぐにアッサリ見つかってしまった。
……やはり、鬼族の中で人間の姫とエルフの青年は目立つのだろうか。
「姫様の招かれた王女様ですよね?今日はまた、随分と派手……あ、いえ、華やかで可愛らしいお姿ですね」
……と言うより、カッコが問題だったのかも知れない。
今日の私は鬼姫に "お着替え" させられた、フリフリ姫袖の和風ロリータに身を包んでいる。
「えっと……用と言うか、その……」
「オレが、あんたに用があるんだぜ。いろいろ話を聞きたくてな」
ワタワタする私の代わりに、パープロイがさらりと話を取り繕う。
……さすが、じいやは闇堕ち時代でも頼りになるなぁ。
「鬼族の中では不遇な少数派のあんたが、それでも郷一番のメンタルで、強く生きてるって聞いたんだぜ。……オレも郷じゃ、似たような立場だからな」
桃幻は一瞬無言で私たちを見つめ返した後、『仕方がないなぁ』とでも言いたげに苦笑した。
「姫様ですね、そんなことを言ったのは。僕は、そんなに強くはありませんよ。しかし、僕の話などでもお役に立てるなら、何でも聞いてください」
桃幻は優しくそう言うと、私たちを彼の診療所へ招き入れた。
「郷の外とはお茶の種類が違うので、お口に合うかどうか分からないのですが……」
そう言い、桃幻は手ずからお茶を淹れて出してくれる。この郷以外では見かけたことのない、久しぶりの緑茶だ。
「いえ!嬉しいです!ありがとうございます!」
現実世界にいた頃は『毎日、緑茶かほうじ茶ばっかで飽きちゃう』『たまには紅茶でも出ればいいのに』なんて思っていたものだけど……今となっては、この味が懐かしい。
診療所に漂う独特の空気と、久々の緑茶の香りを味わっていると、どうしても現実世界のことを思い出してしまう。
ついボンヤリ回想に浸ってしまった後、ふと、桃幻がこちらをじっと見つめているのに気がついた。
「あの……王女様。失礼ですが、どこかお悪い所でもありますか?」
その問いに、ドキッとして狼狽える。
「え……?えっ……と……今は無い……はずですけど……」
桃幻は真剣な目で私の両目を凝視した後、ふっと微笑って首を振った。
「失礼致しました。気のせいだったようです。今の王女様は健康そのものですね」
その言葉に胸を撫で下ろす間も無く、パープロイが疑問の声を上げる。
「いや、あんた目ぇ見ただけで分かんのかよ!?」
「いいえ。目ではなく、気の流れを読んだのですよ。僕は "巫医" ですから」
「「巫医!?」」
耳慣れない単語に、二人同時に問い返したその時、診療所の引き戸がいきなり乱暴に開かれた。
「邪魔するぜ。腕をちょっと痛めてな」
現れたのは、初めて見る鬼族の若者だった。
見た目年齢が桃幻と同じくらいか、それより少し若いくらいの彼は、私たちの姿を見て目を丸くする。
「……明朱楽。さては、また無茶な訓練をしましたね。運動の前には、きちんと肉体をほぐすようにと、前にも言いましたよね?」
「うるせぇな。とっとと診ろよ」
明朱楽と呼ばれた男の態度には、医者に対する敬意も何もあったものではない。
……とんだモンスター患者だな。
「すみません、王女様、パイロープ様。先に彼を診させてください」
桃幻は、私たちへ向け丁寧に頭を下げると、明朱楽の腕を持ち上げ、じっと眺める。
「この程度なら、手当てするまでもありませんね。湿布薬を処方しますので、貼って腕を休ませてください」
「……んだよ。手当てすりゃ、すぐに治って修行に戻れるだろ?サボってねぇで、ちゃんと仕事しろよ。このヤブ医者が」
「すぐに巫術に頼るのは良くありませんよ。外の力に頼ってばかりでは、あなたの肉体の中の自己治癒力が低下してしまいます」
「休んでたりしたら、他の奴らに追い越されるだろうが!……お前みたいに、ハナから他と競う気も無ぇ奴には分かんねぇだろうけどな!」
明朱楽は八つ当たりのように桃幻に苛立ちをぶつける。
桃幻は黙ってそれを聞いていたが、ふっと吐息して、再び彼の腕に触れた。
「……少しだけ、ですよ」
そう言って明朱楽の腕をゆっくりと摩りだす。その手のひらは、やがてほわりと柔らかな光を帯びていった。
「これって……回復魔法?」
そうか。この世界の医者は、知識と道具だけで患者を治すとは限らないのか。魔法っていう手もアリなのか。
「回復のための魔法であることは確かだが……一般的な回復呪文とは系統が違うな。この郷独自の魔法系統なのか……?」
私の横でパープロイも、桃幻の魔法に興味津々だ。
「ハイ、終わりました。痛みは少し残しておきましたから、無茶な動かし方はしないでくださいね」
「は!? 何で完治させねぇんだよ!」
「そうすると、あなたはまた無理をするでしょう?痛みは肉体からの警告なんですから、無視しないでくださいね」
明朱楽はなおも文句を言っていたが、やがて諦めたように「このヤブ医者が」と吐き捨て、去って行った。
パープロイに指摘され、私はその可能性にハッと気づいた。
……と言うわけで、とりあえず私とパープロイとで、桃幻の "偵察" に来たのだが……。
「あの……僕に何か、ご用でしょうか?」
まずは陰からコッソリ観察するつもりが、すぐにアッサリ見つかってしまった。
……やはり、鬼族の中で人間の姫とエルフの青年は目立つのだろうか。
「姫様の招かれた王女様ですよね?今日はまた、随分と派手……あ、いえ、華やかで可愛らしいお姿ですね」
……と言うより、カッコが問題だったのかも知れない。
今日の私は鬼姫に "お着替え" させられた、フリフリ姫袖の和風ロリータに身を包んでいる。
「えっと……用と言うか、その……」
「オレが、あんたに用があるんだぜ。いろいろ話を聞きたくてな」
ワタワタする私の代わりに、パープロイがさらりと話を取り繕う。
……さすが、じいやは闇堕ち時代でも頼りになるなぁ。
「鬼族の中では不遇な少数派のあんたが、それでも郷一番のメンタルで、強く生きてるって聞いたんだぜ。……オレも郷じゃ、似たような立場だからな」
桃幻は一瞬無言で私たちを見つめ返した後、『仕方がないなぁ』とでも言いたげに苦笑した。
「姫様ですね、そんなことを言ったのは。僕は、そんなに強くはありませんよ。しかし、僕の話などでもお役に立てるなら、何でも聞いてください」
桃幻は優しくそう言うと、私たちを彼の診療所へ招き入れた。
「郷の外とはお茶の種類が違うので、お口に合うかどうか分からないのですが……」
そう言い、桃幻は手ずからお茶を淹れて出してくれる。この郷以外では見かけたことのない、久しぶりの緑茶だ。
「いえ!嬉しいです!ありがとうございます!」
現実世界にいた頃は『毎日、緑茶かほうじ茶ばっかで飽きちゃう』『たまには紅茶でも出ればいいのに』なんて思っていたものだけど……今となっては、この味が懐かしい。
診療所に漂う独特の空気と、久々の緑茶の香りを味わっていると、どうしても現実世界のことを思い出してしまう。
ついボンヤリ回想に浸ってしまった後、ふと、桃幻がこちらをじっと見つめているのに気がついた。
「あの……王女様。失礼ですが、どこかお悪い所でもありますか?」
その問いに、ドキッとして狼狽える。
「え……?えっ……と……今は無い……はずですけど……」
桃幻は真剣な目で私の両目を凝視した後、ふっと微笑って首を振った。
「失礼致しました。気のせいだったようです。今の王女様は健康そのものですね」
その言葉に胸を撫で下ろす間も無く、パープロイが疑問の声を上げる。
「いや、あんた目ぇ見ただけで分かんのかよ!?」
「いいえ。目ではなく、気の流れを読んだのですよ。僕は "巫医" ですから」
「「巫医!?」」
耳慣れない単語に、二人同時に問い返したその時、診療所の引き戸がいきなり乱暴に開かれた。
「邪魔するぜ。腕をちょっと痛めてな」
現れたのは、初めて見る鬼族の若者だった。
見た目年齢が桃幻と同じくらいか、それより少し若いくらいの彼は、私たちの姿を見て目を丸くする。
「……明朱楽。さては、また無茶な訓練をしましたね。運動の前には、きちんと肉体をほぐすようにと、前にも言いましたよね?」
「うるせぇな。とっとと診ろよ」
明朱楽と呼ばれた男の態度には、医者に対する敬意も何もあったものではない。
……とんだモンスター患者だな。
「すみません、王女様、パイロープ様。先に彼を診させてください」
桃幻は、私たちへ向け丁寧に頭を下げると、明朱楽の腕を持ち上げ、じっと眺める。
「この程度なら、手当てするまでもありませんね。湿布薬を処方しますので、貼って腕を休ませてください」
「……んだよ。手当てすりゃ、すぐに治って修行に戻れるだろ?サボってねぇで、ちゃんと仕事しろよ。このヤブ医者が」
「すぐに巫術に頼るのは良くありませんよ。外の力に頼ってばかりでは、あなたの肉体の中の自己治癒力が低下してしまいます」
「休んでたりしたら、他の奴らに追い越されるだろうが!……お前みたいに、ハナから他と競う気も無ぇ奴には分かんねぇだろうけどな!」
明朱楽は八つ当たりのように桃幻に苛立ちをぶつける。
桃幻は黙ってそれを聞いていたが、ふっと吐息して、再び彼の腕に触れた。
「……少しだけ、ですよ」
そう言って明朱楽の腕をゆっくりと摩りだす。その手のひらは、やがてほわりと柔らかな光を帯びていった。
「これって……回復魔法?」
そうか。この世界の医者は、知識と道具だけで患者を治すとは限らないのか。魔法っていう手もアリなのか。
「回復のための魔法であることは確かだが……一般的な回復呪文とは系統が違うな。この郷独自の魔法系統なのか……?」
私の横でパープロイも、桃幻の魔法に興味津々だ。
「ハイ、終わりました。痛みは少し残しておきましたから、無茶な動かし方はしないでくださいね」
「は!? 何で完治させねぇんだよ!」
「そうすると、あなたはまた無理をするでしょう?痛みは肉体からの警告なんですから、無視しないでくださいね」
明朱楽はなおも文句を言っていたが、やがて諦めたように「このヤブ医者が」と吐き捨て、去って行った。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
魔界王立幼稚園ひまわり組
まりの
ファンタジー
幼稚園の先生になるという夢を叶えたばかりのココナ。だけどある日突然、魔界にトリップしちゃった!? そのうえ魔王様から頼まれたのは、息子である王子のお世話係。まだ3歳の王子は、とってもワガママでやりたい放題。そこでココナは、魔界で幼稚園をはじめることにした。いろんな子たちと一緒に過ごせば、すくすく優しく育ってくれるはず。そうして集まった子供たちは……狼少女、夢魔、吸血鬼、スケルトン! 魔族のちびっこたちはかわいいけれど、一筋縄ではいかなくて――? 新米先生が大奮闘! ほのぼの魔界ファンタジー!!
【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)
津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ>
世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。
しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。
勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。
<小説の仕様>
ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。
短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。
R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。
全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。
プロローグ含め全6話で完結です。
各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。
0.そして勇者は父になる(シリアス)
1.元魔王な兄(コメディ寄り)
2.元勇者な父(シリアス寄り)
3.元賢者な母(シリアス…?)
4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り)
5.勇者な妹(兄への愛のみ)
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる