上 下
81 / 162
第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!

第6章 創治、師弟の会話を記述する

しおりを挟む
 そもそもシェリーロワールとエルフの郷に交流が生まれたきっかけは、数百年前のパープロイの "家出" だった。
 
 郷に戻れず大陸各地を放浪していたパープロイは、偶然ぐうぜんにも当時の魔王討伐とうばつの勇者と出逢い、そのままパーティーの一員に加わる。
 
 勇者たちとの旅で、すっかり "人間族" のことを好きになってしまった彼は、世界に平和が訪れても帰郷することなく、勇者の故郷であるシェリーロワールに居着いた。
 そして後に宮廷魔術師の職にき、歴代王族の "じいや" として人生を楽しんでいるのだ。
 
『今度の王子は、なかなか有望そうじゃないのさ。こりゃ、あんたも見守り甲斐がいがあるだろうね』
 
 そう言って笑うのは、波打つ白銀の髪をところどころ紫のメッシュに染めた、見た目からして年齢不詳ねんれいふしょう妖艶ようえんな美女エルフ。
 パープロイの魔術の師であるアルマディーン・ランスーンだ。
 
 ミラージュヴィル滞在2日目の夜、パープロイは久々に師の元を訪れていた。
 
『そうでしょうとも!若様はきっと、立派な王になられます!将来が楽しみでなりません!』
 
『……しっかし、その胡散臭うさんくさいしゃべり方は、何とかならないのかい?全然あんたに似合ってないよ』
 
『胡散臭いとか言わんでくださいよ!ただでさえ見た目が若いのに、しゃべりに威厳いげんが無いと、若者にナメられるんです!』
 
 パープロイは知らない。
 見た目は若いのに、しゃべりが妙に年寄りくさい、その "ちぐはぐさ" が、城の中でかなり浮いていることを。
 
『さて、じゃあ今度の王子と姫にも、先代の子ども時代のヒミツを、たっぷり聞かせてあげようかね。先代も今は、昔の失敗など無かったような顔をして、子どもらに威張いばってるんだろう?』
 
『今の陛下は子煩悩こぼんのうですから、それほどでもありませんけどね』
 
 パープロイにとって、見守ってきた王族たちは、皆、自分の子どものようなものだ。
 成長して王となっても、それは変わらない。
 彼らについて語る時、パープロイの顔は自然とほころぶ。
 
 弟子のそんな様子を、半分あきれ、半分微笑ほほえましげに見つめた後、アルマディーンは声のトーンを落とした。
 
『……で、あの姫が、例の "神託の乙女" なんだね』
 
 途端とたん、パープロイは表情をくもらせる。
 
『その話、やはり、もう郷にも伝わっているのですか』
 
『ああ。事が事だからね。公には発表していないが、各国のVIPはもう皆、把握はあくしているだろうさ。「神に選ばれし乙女が、世界を救う」――クレッセントノヴァの預言者よげんしゃの言葉じゃ、見過ごしてはおけないね』
 
『その話、どうかまだ姫様には内密ないみつに……。まだ何も分からぬうちに、無用な心配をさせたくはありません』
 
『むしろ、早めに教えて差し上げた方が、姫のためだと思うがね……。噂によると、例の鬼姫までが神託の乙女に興味津々しんしんらしい』
 
鬼鏡キキョウの郷の長姫おさひめ様が、ですか……。それはまた厄介やっかいな……』
 
 パープロイが渋面じゅうめんを作った直後、アッシュもにがい声でつぶやく。
 
『鬼鏡の郷?中立の鬼族どもか?あそこの姫は確かに曲者くせものよのぅ』
 
 その台詞せりふを無意識に打ち込んだ後、俺はふと我に返った。
 
「は!? 何でこの場にアッシュがいるんだよ!?」
 
『何を言っておるのだ、ユース。貴様の隠密おんみつ行動につき合ってやっておるのではないか』
 
「えぇ!? ユースとアッシュ、屋根裏か床下から盗み聞きしてる設定かよ!?」
いな。小屋の外の木の枝の上からであるぞ』
「いや、場所についてはどうでもいいんだが……」
 
『貴様の留守中、またマタタビけでかごに閉じ込められてはかなわんからな。妥協だきょうして貴様と行動を共にしてやっておるのだ』
 
 ちなみに旅の間、アッシュとユースは基本、同室だ。
 
 アリーシャが完全に猫あつかいで「アッシュたんなら、私のお布団で一緒に寝れば良くない?」と言うのを「いや!コイツの正体を思い出してくださいよ!魔王と姫が同衾どうきんとか、普通に考えてナイでしょ!」と必死に止めた結果、ナゼかそうなってしまったのだ。
 
『しかし、他種族の要人の会話を盗聴とは……シェリーロワールも平和ボケしているように見えて、意外と抜け目が無いのだな』
 
『……と言うか魔王マオーさん、いつまで魔界を留守にする気なんです?いい加減、部下に反乱起こされますよ』
 
『その辺は、我の優秀な弟が何とかしておるであろう』
『……その "弟"、無闇むやみに信じ過ぎじゃないですかね』
 
 ゲーム内のキャラクターに "未来" を教えるわけにはいかないが……ついつい、妙な情がいて、そんな口出しをしてしまう。
 
『フン。昔ながらの重臣どもも、よくそう言うがな。我は、誰が何と言おうとブランを信じておる。彼奴あやつ不憫ふびんな奴なのだ。兄たる我が目をかけてやらんでどうする』
 
 アッシュの弟への情は、以前に俺と愛理咲ありさが設定した通りだ。
 
 俺はそれ以上は何も言わず、再びアルマディーンとパープロイの会話に集中する。
 
『ロイ、あんたはとにかく、あの姫を守ってやんな。あんたのその強力な火の魔法は、そのためにあるんだ』
 
『はい。師匠から受け継いだこの力は、何かを守るためだけに使います。……二度と、己の欲や見栄みえのために、誰かを傷つけるようなことはいたしません』
 
 パープロイのその声には、強い決意と苦い後悔がにじんでいた。
 
『……エルフ族の火の魔法使いは、滅多めったに生まれぬらしいな。郷では異端の存在のはず。この二人も、不遇ふぐうな目にってきたのではないか?』
 
 アッシュがわけ知り顔でいてくる。
 
『……かつては、そんな感じですね。まぁ、パープロイさんは、不本意な扱いを黙って受け入れるタイプではありませんけど……』
 
 むしろ、そのせいでたびたびトラブルを起こし、ついには郷を出るハメになったわけなのだが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの
ファンタジー
幼稚園の先生になるという夢を叶えたばかりのココナ。だけどある日突然、魔界にトリップしちゃった!? そのうえ魔王様から頼まれたのは、息子である王子のお世話係。まだ3歳の王子は、とってもワガママでやりたい放題。そこでココナは、魔界で幼稚園をはじめることにした。いろんな子たちと一緒に過ごせば、すくすく優しく育ってくれるはず。そうして集まった子供たちは……狼少女、夢魔、吸血鬼、スケルトン! 魔族のちびっこたちはかわいいけれど、一筋縄ではいかなくて――? 新米先生が大奮闘! ほのぼの魔界ファンタジー!!

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

目覚めれば異世界へ

今野常春
ファンタジー
 高校最後の夏、近藤孝雄実はマウンドに立っていた。野球につぎ込んだ八年間の集大成と考え、有名私立校に対し気炎を上げる。しかし、思わぬピッチャー返しを頭部に受け、たと思う中、見知らぬ森の中で目を覚ました。  その後は流れに任せ、エレオノーラと呼ばれる美女と一緒に暮らす事に!?  他にも仔犬のラッキーが付き従い、二人のペットの位置に収まる。  この世界は孝雄実が暮らしていた世界とは異なる異世界である。  なろうにて以前書いていた「目を覚ませば異世界へ……」のリメイク版です。  登場人物はそのままに内容を一新してお届けいたします。  近藤孝雄実は高校最後のマウンドに登っていた。  しかし、不運にも打球が直撃し意識を失う。  一方、森の中を二人の男女に忍び寄る盗賊たちによる追走劇が繰り広げられていた。数に於いて不利、しかし諦める事なく逃げようと奮闘する。  場所は森の中、その場所に孝雄実は目を覚ます。  今近藤孝雄実の異世界生活が幕を開けるのだ。 ※週一投稿を目指します

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...