囚われの姫は嫌なので、ちょっと暴走させてもらいます！～自作ＲＰＧ転生～

第３部 電脳機神兵の花嫁になんてならない！

第28章 アリーシャはお花を摘みに行きたい

　小犬型ロボットとなった白兵衛は、よちよちと危あぶなっかしげに歩いて来ようとする。
　だが、数歩動いただけで、コテンと転ころんでしまった。
　
「本当に、何もできないロボットになったんだ……」
　
　自分で起き上がれずにジタバタしている白兵衛を、そっと抱き上げる。すると……
　
《アリーシャたちは電脳機神兵を倒した！経験値を手に入れた！レベルが上がった！アリーシャはロボットペット "白兵衛" を手に入れた！》
　
　どこからともなく、ファンファーレの音とメッセージが聞こえてきた。
　
「いや、倒してはいない気がするんだけど……って言うか、白兵衛ってドロップアイテム扱あつかいなんだ……？」
　
　思わずツッコミを入れていると、前方からブルーが歩み寄ってきた。
　
「名前の響きから、何となく犬型にしてみたんだが、ネコとかウサギの方が良かったか？」
　
「うーん……正直、私は猫派なんですけど、白兵衛はイメージ的にワンコっぽいので、このままでいいです」
　
　正直、この状況がまだ上手く呑のみ込めていないのだが、とりあえず質問されたことに答える。
　
　何だか、やけに "ほのぼの" した会話になってるなー、さっきまでバトルしてたとは思えないな―、と他人事ひとごとのように思っていると、腕の中の白兵衛が眼を赤く光らせて警告を発してきた。
　
《警告シマス。ありーしゃチャンハ、私ノ花嫁トナル女性デス。奪オウトスル者ハ排除シマス》
　
　だがブルーは、白兵衛を見てフッと笑うだけだった。
　
「いや、今のお前には他人を攻撃する能力は無ぇよ。できるのは喋しゃべることと、犬っぽい仕草しぐさぐらいだ」
　
《排除……デキナイ？ありーしゃチャンヲ、花嫁ニデキナイ……。私ハ、一人前ニナレナイノデスカ……？》
　
　白兵衛は混乱したように自問自答する。
　私はその頭を、ワンコを撫なでるようにヨシヨシしてあげた。
　
「私を花嫁にしなくても、一人前になることはできるよ。一人前になる方法は、ひとつじゃない。いろいろ、いっぱいあるんだから。一緒に一人前になっていこうよ。ね、白兵衛」
　
　白兵衛は、しばらくじっと私を見上げた後、納得なっとくしたようにコクンと頷うなずいた。
　
《了解シマシタ。私ハコレカラ、ありーしゃチャント共ニ、一人前ニナル道ヲ模索シマス》
　
　よし。これでひとまず、一件落着だな。
　
　
「えっと……とりあえず、アリーシャ姫を捕とらえていた機械兵器は、いなくなった……ということだよな？」
　
　レッドが誰にともなく呆然ぼうぜんと問う。
　
　エヴァーミリアが無言で頷うなずき、インディが「ま、そういうことだな」と笑う。
　
「んじゃ、サッサと下に戻ろうぜ。皆みんな、心配してるし、姫さんも囚われの身で疲つかれただろ」
　
「そうだな。じゃあブルー、アリーシャちゃんの護衛は任まかせたぜ。王子らしく、きっちりエスコートしてやんな」
　
　インディは片手を挙あげて挨拶あいさつすると、そのまま爽さわやかに去って行こうとするが……
　
「コラ、待て親父！ナチュラルに逃げようとすんな！アンタも一緒に行くんだよ！」
　
「いやー……だってよ、今行ったら、ネイヴィーちゃん激怒じゃね？」
「自業自得じごうじとくだろうが！たまにはちゃんと怒られろ！」
　
　ブルーはインディの襟首えりくびを掴つかみ、引きずるようにして連行する。
　
　ほぼ一年中、ダンジョンに籠こもってばかりで、ロクに玉座にいない王様だもんね。秘書のネイヴィーは苦労するよね……。
　
　
　鳥籠型の檻おりから、まだ酔いの抜けないアッシュを回収し、レイの塔の下層部分へ戻る。
　
　やっとダンジョンを抜けられてホッとした……のも束つかの間ま、急激に私を、ある生理現象が襲おそった。
　
　……安心した途端とたんに、今までガマンしてきたものが……
　
「えっと……私、ちょっと、お花を摘つみに行って来ます！」
　
　芹原 愛理咲だった頃ころなら「ちょっとおトイレ行って来るねー」で済すませられたが、さすがに今は一国の王女。婉曲えんきょくな言い回しで誤魔化ごまかしつつ、ダッシュで化粧室へ向かう。
　天空牢獄入り前に、一度寄らせてもらったから、場所はしっかり把握はあく済みだ。
　
　パッと入って、サッと済ませ、ホッと一息つきながら手を洗っていると……壁の向こうから声が聞こえてきた。
　
「室長が、トイレに一人で行けない "寂さみしがり屋" だったとは、意外ですね」
　
「茶化すな、ミンネジンガー。そんな話ではないと、お前も分かっているんだろう？」
　
　この声は……と言うより、名前が出ているから丸分かりだな。スカイとマウリシオか……。
　
「では、何のご用件で？わざわざ場所を変えてまで」
　
「トイレここなら、ＳＨＩＲＯの目は届かないからな。ダンジョン手前のこんな辺鄙へんぴな場所、滅多めったに使う人間もいないし」
　
　……何だか、会話が不穏ふおんな気がする。
　スカイ、何を言うつもりなんだろう……？
　
「単刀直入に訊きく。マウリシオ・Ｍ・イゼルロット。お前……クレッセントノヴァの工作員スパイだな？」