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第3部 電脳機神兵の花嫁になんてならない!

第13章 アリーシャ、兄王子と弟王子の板挟みになる

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「何だ、スカイ。お前もいたのか。めずらしいな」
 
 明らかに敵意を向けられているにも関わらず、ブルーの態度はまるで "普通" だった。
 スカイが何を思っていようと、気にもめていないと言うように……。
 
 スカイの顔が不機嫌ふきげんそうにしかめられる。
 
「兄上こそ、珍しいのではありませんか?上流階級での親睦しんぼくも、親善外交も、兄上はお嫌いだったのでは?」
 
「コレはただの人助けだろうが。探しものするには、人手は多い方がいいだろ?」
 
 当たり前のようにそう言い、ブルーはポンと私の肩をたたいた。
 
「大事な家族がいなくなっちまって、心細いだろ?すぐに見つけてやるから、安心しな」
「あ……ありがとうございます」
 
 さすがは皆の兄貴ブルーだ。包容力がスゴい。
 そのあたたかな声と、かすかな笑みだけで、何だか安心感がいてくる。
 
「何してるんですか、兄上!そんな油まみれの手で気安く姫に触れないでください!だいたい、一国の姫の前だと言うのに、そのカッコは何ですか!?」
 
 一方のスカイは、べつに恋のアプローチをしているわけでも何でもないブルーに対してさえ、警戒心き出しだ。
 可哀想なくらいに余裕が無い。きっと、これが初恋なんだろうな……。
 
 私は自分が世界一の美姫ジェラルディンちゃんじゃないことを知っているので、何となく他人事のようで、自分がれられている実感はまるで無いのだが……。
 
「まぁまぁ。私はそういうの、気にしないので。兄弟ゲンカしないでください」
 
 私を間にはさんでケンカされるのは、気マズい。
 なので、何とかなだめようとこころみた。が……
 
「ホラ、姫さんもこう言ってるだろ。だいたい俺はちゃんと手ぇ洗ってるし……。事実も確認しねぇで他人ヒトを批判するのは、いただけねぇぜ。逆に自分がはじをかくこともあるしな」
 
 ブルーのその一言に、スカイはじ入るようにうつむき、だまり込んでしまった。
 
 あぁ……初恋している相手の前でのコレは、ちょっと可哀想かも……。
 でも、フォローしようにも、スカイの嫉妬しっと丸出しの言いがかりに対して、ブルーの言葉が正論過ぎて、何も言えないしなぁ……。
 
「俺につっかかるのはいいが、今は姫さんの猫を探すのが最優先だろ。行くぞ」
 
 ブルーはうつむいてしまったスカイにはかまわず、サッサと歩き出す。
 
 スカイはすぐには歩き出さず、こぶしふるわせ、ぽつりとつぶやいた。
 
「いつも、これだ。だから兄上は……」
 
 その顔は、どこか泣き出しそうに見えた。
 
 ……スカイって、兄へのコンプレックスをこじらせてる所あるからなぁ……。
 
 私は迷った末、思い切ってスカイのその震える手を、ぎゅっとにぎった。
 
「行こっ、スカイ」
 
「えっ!? ひ、姫……っ!?」
 
 スカイはさっきまでの落ち込みも忘れたように、真っ赤な顔でワタワタしている。
 
 ……何だか誤解させてしまいそうで、マズい気もするんだけど……スカイをへこませると、後でSHIROに変な影響が出そうだからなぁ……。
 
 
 先を歩いていたブルーは、しばらく行くとふいに立ち止まり、こちらをり返った。
 
「そう言えば、お前の作ってるポチ、だったか?アレ、塔内の監視カメラにもつながってんだろ?」
 
「SHIROです、兄上。カメラシステムについては、は……ガンベルガー首席秘書がすでに手を回しています」
 
「……さすがだなぁ、あのヒトは。じゃあ、カメラのある場所はSHIROに任せて、俺らはそれ以外の場所を探すべきだろうな」
 
「SHIROの目の届かぬ場所など、トイレか風呂か更衣室か、個人の私室プライベートルームくらいなものですよ」
 
 元の調子を取り戻したらしいスカイが、ドヤ顔で胸を張る。
 
「……それはまた、エラく探しにくい場所ばっかだな……」
 
「じゃあ、とにかくまずは、トイレを見て回りましょうか。私が女子トイレ、ブルーとスカイが男子トイレを見ればちょうどい……」
 
 何気なにげなく廊下を歩き出そうとしたその瞬間、ふいにブルーが私の肩をつかんで引き寄せた。
 
「危ないッ!」
「ふぇ……っ?」
 
 わけも分からず呆然としていると、さっきまで私が立っていた場所を、幼児用の乗り物のようなナゾの物体が、愉快ゆかいな電子音を奏でながら通り過ぎていった。
 
「な……何、アレ……っ」
 
「あ……兄上っ!何してるんですか!? そんな……急に抱き寄せるなんて、セクハラですよ!?」
「姫さんが搬送はんそうロボにかれそうになってたから、避難ひなんさせただけだろうが」
 
「失礼なっ!ウチの研究室の作った搬送ロボは、人を轢いたりしません!自動停止システム付きですし!」
 
「は……搬送ロボ……?」
 
 改めて、通り過ぎていった物体を観察してみる。
 それは、荷台にコンテナを積んだ、小型の車のような形をしていた。しかも、人が乗っているわけでもないのに、勝手にスイスイ廊下の角を曲がっていく。
 
「姫さん、廊下のこのラインは、うかつに立ってると危ねぇぜ。いろんなロボの通り道だからな」
 
 ブルーが廊下のはしに引かれた白線を指差し、注意する。
 
「あぁ……。さっきのロボ、このラインに沿って動いてるんですね」
 
「最近、塔内の荷運びは、ほとんどあのロボが専門にやってるな。人手を使わずに倉庫から備品を運んで来たり、工房間や部署間での荷物のやり取りにも使えて便利なんだが……時々うっかりり飛ばしそうになるんだよなぁ……」
 
「やめてくださいよ、兄上!アナログな機械と違って、ウチのロボ達は繊細せんさいなんですから!」
 
 再び兄弟ゲンカが始まりそうになったその時、スカイの腕の辺りからナゾの電子音が響いた。
 
「え?今度は何?」
 
「は……ガンベルガー首席秘書からの連絡です。……ハイ、こちらエクスカイゼルですが」
 
 スカイは手首に付けた腕時計のような形の端末を操作し、話し始める。
 
 ……確か、リンゴのマークの某社の製品にも、あんな感じの通話機能付き腕時計があったけど……スカイが使っていると、何となく、戦隊ヒーローものの通信機のように見える。
 
「……えっ、本当ですか!?」
 
 ネイヴィーの声は聞こえないが、スカイの反応から、何かあったのだろうということは分かった。
 
「え?何?何かあったの?」
 
 通話の終わったスカイにくと、彼は顔をこちらへ向け、何とも言えない表情で告げた。
 
「姫の愛猫が見つかったそうです。……ウチの天空牢獄ろうごくの、おりの中で」
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