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第3部 電脳機神兵の花嫁になんてならない!
第9章 創治はあくまで第一王子を推したい
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「……しっかし、アリーシャの奴、本当にときめかないな……。コイツの情緒、大丈夫なのか?」
シナリオを打ち込みながら俺は呟く。
目の前でハイスペック王子が恋に堕ちているというのに、コイツの動じなさは何なんだ。
そもそもシェリーロワールの王女の総モテ設定は愛理咲が作ったはずなのに……。
こういう、どこへ行っても皆にホレられる超絶美少女になりたかったんじゃないのか……?
『あのー、アリーシャ様。嬉しくないのですか?どうやらあの王子、アリーシャ様に一目惚れしたみたいですが』
気になって、こっそりアリーシャに訊いてみる。
するとアリーシャは『分かってないなぁ』とでも言いたげに溜め息をついた。
『モテモテって言うのはね、端から眺めてるか、妄想してるくらいがちょうど良いの。人から好かれるのは悪い気分じゃないけど、それがトラブルの種になるって分かってたら、素直に喜べないでしょ』
……そういうものか。まぁ、コイツはゲームの展開を、ある程度知っているわけだしな……。
『それに、これは私がモテてるわけじゃなくて、ジェラルディンちゃんのモテ設定を引き継いだだけだし……。いっそ皆が可哀想だよ。こんな平凡な女の子を、絶世の美姫と思い込んで……』
『いや、ジェラルディンって誰ですか。私に分からない話をしないでくださいよ』
相変わらずのメタ発言をさらりとたしなめ、俺は妙な懐かしさを味わっていた。
「平凡か……。そんな平凡でもなかったけどな、お前は」
芹原愛理咲という人間は、"どんな人間の目も奪う絶世の美少女" だったわけではない。
だが、ふとした瞬間に、うっかり目を惹かれてしまう程度の可愛らしさは持っていた。
……まぁ、長いつき合いの俺は、アイツの性格を嫌と言うほど知っていたので、それで恋に堕ちたりはしなかったわけだが。
黙っていれば "それなり" なので、周囲の人間も多少はアイツの容姿をホメたり、いろいろ言っていたはずだ。
だが、愛理咲はそれらを全て "お世辞" だと思って流していたフシがある。
『病弱な少女って、儚げに見られがちだし、ねー。でも、そういう作られたイメージや同情でホメられても、リアクションに困るだけだし』
そんな可愛げのないことを言って、周りからの評価にまるで気づかず、自分の作った超絶美少女キャラを、うっとり愛でる――それが芹原愛理咲という人間だった。
「……ゲームの中でも、そこは変わらないのか……。こんなんじゃ、恋なんてできねーぞ……」
愛理咲を幸せにするためのゲームだと言うのに、当の本人がコレでは、先が思いやられる。
「つーか、せっかくメトロポラリスに来てるってのに、アニキ……ブルーとほとんど絡んでないしな、コイツ。ここは上手くシナリオ改変して、ブルーとの接触を増やすしかないか……」
そもそも元のシナリオでは、ブルーが王女に恋愛感情を持っているのかどうかすらアヤしかった。
ブルーは戦闘シーンやアクションシーンで、とにかく派手に活躍するばかりで、王女とはほとんど会話すらしていないのだ。
このままでは工房へ見学に行かせても、何のフラグも立たずに終わる可能性が高い。
「アニキは硬派な人だからな。自分から女にグイグイ行ったりしないしな……。ここは間に誰かを入れて、仲を取り持たせるのがベストか……」
幸い、新たなシナリオには、前はいなかったユースがいる。
キューピッド役には打ってつけじゃないか。
『あっ、アリーシャ様。すみませんが私、用事を思い出してしまいました。一旦ここを離れますが、アリーシャ様は見学を続けてください』
善は急げだ。一旦ユースをアリーシャのそばから離脱させ、ブルーの所へ向かわせることにする。
『……創君、何かヘンなこと企んでないよね?』
カンの鋭いアリーシャに疑いの目を向けられたが、ここは『そんなわけないじゃないですか』と適当に誤魔化しておく。
ブルーの工房は、レイの塔の7つの小塔のうちの1つ、ベナトナシュの塔だ。
エヴァーミリアのアリオトの塔が、内装もヴィクトリア朝時代のイギリスのようにオシャレにまとめられていたのと違い、ベナトナシュの塔には一切の飾り気が無い。
部屋を細かく区切ることもなく、だだっ広いままにし、床には鉄錆びた部品があちこちに積まれている。
そして塔内では、ブルーと同じくツナギ姿の男たちが、油にまみれながらバイクや車を分解したり組み立てたりしている。
『ん?何だ?シェリーロワールの姫さんのお目付役殿じゃねーか。姫さんのお守りはいいのか?』
ブルーがユースに気づいて話しかけてくる。
『アリーシャ様は今、エクルカイゼル王子の研究室を見学中です。私はあなたに用がありまして……』
『……スカイの所か。アイツ、姫さんに生意気言ってないと良いんだが。どうもアイツは頭が良過ぎて、周りを見下してるトコがあっからな……。もっと周囲を見る目を養ってもらいてぇトコだが、まだ14じゃ、難しいかな……』
遠い目をしてブルーがボヤく。
弟は兄を煙たがっているのだが、兄の方はちゃんと弟のことを想っているのだ。
『さっすがアニキ……。兄弟想いの良い長男だ……。やはりアリーシャ様のお相手には、あなたが一番ふさわしい!』
『……は?あんた、ひょっとして、俺と姫さんの縁組とか考えてねぇか?いやいや、ムリだろ。あんな可憐な姫さんに、俺みたいなヤンチャな男は似合わねぇよ』
『……いや、もったいないのはアニキの方っスから!あんなデタラメな奴に、アニキみたいなイイ漢、正直、申し訳ないくらいっスけど……。他の男どもと比べたら、俺的にはどうしても、アニキ一択なんで!』
このゲームの正規カップリングは勇者×王女だが、正直、俺は認めていない。
アリーシャを幸せにできるのは、絶対このブルーに決まっているのだ。
シナリオを打ち込みながら俺は呟く。
目の前でハイスペック王子が恋に堕ちているというのに、コイツの動じなさは何なんだ。
そもそもシェリーロワールの王女の総モテ設定は愛理咲が作ったはずなのに……。
こういう、どこへ行っても皆にホレられる超絶美少女になりたかったんじゃないのか……?
『あのー、アリーシャ様。嬉しくないのですか?どうやらあの王子、アリーシャ様に一目惚れしたみたいですが』
気になって、こっそりアリーシャに訊いてみる。
するとアリーシャは『分かってないなぁ』とでも言いたげに溜め息をついた。
『モテモテって言うのはね、端から眺めてるか、妄想してるくらいがちょうど良いの。人から好かれるのは悪い気分じゃないけど、それがトラブルの種になるって分かってたら、素直に喜べないでしょ』
……そういうものか。まぁ、コイツはゲームの展開を、ある程度知っているわけだしな……。
『それに、これは私がモテてるわけじゃなくて、ジェラルディンちゃんのモテ設定を引き継いだだけだし……。いっそ皆が可哀想だよ。こんな平凡な女の子を、絶世の美姫と思い込んで……』
『いや、ジェラルディンって誰ですか。私に分からない話をしないでくださいよ』
相変わらずのメタ発言をさらりとたしなめ、俺は妙な懐かしさを味わっていた。
「平凡か……。そんな平凡でもなかったけどな、お前は」
芹原愛理咲という人間は、"どんな人間の目も奪う絶世の美少女" だったわけではない。
だが、ふとした瞬間に、うっかり目を惹かれてしまう程度の可愛らしさは持っていた。
……まぁ、長いつき合いの俺は、アイツの性格を嫌と言うほど知っていたので、それで恋に堕ちたりはしなかったわけだが。
黙っていれば "それなり" なので、周囲の人間も多少はアイツの容姿をホメたり、いろいろ言っていたはずだ。
だが、愛理咲はそれらを全て "お世辞" だと思って流していたフシがある。
『病弱な少女って、儚げに見られがちだし、ねー。でも、そういう作られたイメージや同情でホメられても、リアクションに困るだけだし』
そんな可愛げのないことを言って、周りからの評価にまるで気づかず、自分の作った超絶美少女キャラを、うっとり愛でる――それが芹原愛理咲という人間だった。
「……ゲームの中でも、そこは変わらないのか……。こんなんじゃ、恋なんてできねーぞ……」
愛理咲を幸せにするためのゲームだと言うのに、当の本人がコレでは、先が思いやられる。
「つーか、せっかくメトロポラリスに来てるってのに、アニキ……ブルーとほとんど絡んでないしな、コイツ。ここは上手くシナリオ改変して、ブルーとの接触を増やすしかないか……」
そもそも元のシナリオでは、ブルーが王女に恋愛感情を持っているのかどうかすらアヤしかった。
ブルーは戦闘シーンやアクションシーンで、とにかく派手に活躍するばかりで、王女とはほとんど会話すらしていないのだ。
このままでは工房へ見学に行かせても、何のフラグも立たずに終わる可能性が高い。
「アニキは硬派な人だからな。自分から女にグイグイ行ったりしないしな……。ここは間に誰かを入れて、仲を取り持たせるのがベストか……」
幸い、新たなシナリオには、前はいなかったユースがいる。
キューピッド役には打ってつけじゃないか。
『あっ、アリーシャ様。すみませんが私、用事を思い出してしまいました。一旦ここを離れますが、アリーシャ様は見学を続けてください』
善は急げだ。一旦ユースをアリーシャのそばから離脱させ、ブルーの所へ向かわせることにする。
『……創君、何かヘンなこと企んでないよね?』
カンの鋭いアリーシャに疑いの目を向けられたが、ここは『そんなわけないじゃないですか』と適当に誤魔化しておく。
ブルーの工房は、レイの塔の7つの小塔のうちの1つ、ベナトナシュの塔だ。
エヴァーミリアのアリオトの塔が、内装もヴィクトリア朝時代のイギリスのようにオシャレにまとめられていたのと違い、ベナトナシュの塔には一切の飾り気が無い。
部屋を細かく区切ることもなく、だだっ広いままにし、床には鉄錆びた部品があちこちに積まれている。
そして塔内では、ブルーと同じくツナギ姿の男たちが、油にまみれながらバイクや車を分解したり組み立てたりしている。
『ん?何だ?シェリーロワールの姫さんのお目付役殿じゃねーか。姫さんのお守りはいいのか?』
ブルーがユースに気づいて話しかけてくる。
『アリーシャ様は今、エクルカイゼル王子の研究室を見学中です。私はあなたに用がありまして……』
『……スカイの所か。アイツ、姫さんに生意気言ってないと良いんだが。どうもアイツは頭が良過ぎて、周りを見下してるトコがあっからな……。もっと周囲を見る目を養ってもらいてぇトコだが、まだ14じゃ、難しいかな……』
遠い目をしてブルーがボヤく。
弟は兄を煙たがっているのだが、兄の方はちゃんと弟のことを想っているのだ。
『さっすがアニキ……。兄弟想いの良い長男だ……。やはりアリーシャ様のお相手には、あなたが一番ふさわしい!』
『……は?あんた、ひょっとして、俺と姫さんの縁組とか考えてねぇか?いやいや、ムリだろ。あんな可憐な姫さんに、俺みたいなヤンチャな男は似合わねぇよ』
『……いや、もったいないのはアニキの方っスから!あんなデタラメな奴に、アニキみたいなイイ漢、正直、申し訳ないくらいっスけど……。他の男どもと比べたら、俺的にはどうしても、アニキ一択なんで!』
このゲームの正規カップリングは勇者×王女だが、正直、俺は認めていない。
アリーシャを幸せにできるのは、絶対このブルーに決まっているのだ。
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