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第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!
第12章 創治、驚愕する
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「しっかし……序盤とは言え魔王が猫とは、コイツの猫好きもここまで行くと狂気の沙汰だな」
シナリオを打ち込みながら俺はつぶやく。
愛理咲は元々「猫の鳴き真似やゴロゴロ音を完璧にマスターすれば、猫と自在にコミュニケーションがとれるようになる」と夢見て地道に練習していたほどの猫好きだったが、まさか魔王まで猫にしてくるとは思わなかった。
「まぁ、コレはコイツを幸せにするための世界だからな。多少の設定の不自然さには目をつぶってやるよ」
言いながら、勇者と魔王の手下とのバトルを打ち始める。
結局、初期装備のまま手下に挑むことになった勇者は、大して活躍することもなく、あっと言う間にホールの床に倒れ伏した。
元々のシナリオではこの辺りでジェラルディンが勇者をかばい飛び出して行くのだが……
『待ちなさい、魔王!いくら猫さんだからって、あんまりヒドいことばっかしてると、許さないんだからね!』
アリーシャが何の悲愴感も王女らしさのカケラもなく飛び出して来た。
……まぁ、愛理咲なら、こんなモンだよな……。
『おぉ!また会えたな、アリーシャ姫!ドレス姿だと、また一段と美しい……。だが我はお前をその美貌で選んだわけではないぞ!初めて会った日、我を一目で魔王と見抜いたお前の聡明さに惹かれたのだ!お前ほど我が嫁にふさわしき者はいない!』
『え……?また会えた?魔王と見抜いた?何のこと?』
アリーシャのぽかんとした顔が目に浮かぶ。
アイディアを出すだけ出して、実際のシナリオ作りやプログラミングは全部俺任せだったコイツのことだ。細かなフラグなんていちいち覚えちゃいないだろう。
『城下の町で会ったではないか。お前は我を見て「そっかーぁ。君はニャーンでもミャアでもなくて魔王なんだね」とすぐに見抜いた。我は度肝を抜かれたぞ。我の変化を見破れる者など、我が配下にもおらんのだからな』
『へっ!? あなた、あの時のマオー君!? ……あっ、確かに首輪が同じ!あぁあぁっ!そっか!あれがフラグの1つだったのかぁー!って言うか、あの時の私、変装してたのに、何で分かったの……?』
『配下に密かに後をつけさせて身元を確かめたのでな。まさか王女とは思ってもみんかったが……。しかし正体を知ってますます確信した。お前は我と結ばれるべき女だ!我が物となれ!』
『ストーカーした挙句にムリヤリ拉致ろうとする男の嫁になんか誰がなるもんか!連れて行きたいなら私を倒してからにしなさい!』
……ん?何か雲行きがアヤしくなってきてないか?何でコイツ、魔王とバトろうとしてるんだ?
『か弱き姫の身で我と戦うつもりか?良かろう。花嫁に抵抗されるというのも、なかなか悪くない。ここは手下などではなく我が自ら相手をしてやろう』
……ダメだ、魔王もノリノリだ。どうするんだ、コレ。とりあえずユースを出して修正を試みるか……。
『何やってるんですか、アリーシャ様。魔王になんて敵いっこないですよ。おケガをなさるとマズいですから、やめておきましょう』
『あ、ユース。ちょうどいい所に。ちょっとコレ持ってて』
そう言ってアリーシャはポケットからセイクリッド・シザーを取り出した。
『……って、セイクリッド・シザー!? 究極の鍵が無ければ入手できないはずの聖剣が、ナゼここに!?』
『壁抜けの魔法符を使って城の外側から回り込んで、だけど。お城の見取図さえ頭に入ってれば、馬鹿正直に正面の扉から入らなくたって、外側から壁を抜けて取って来れちゃうし』
アリーシャは残り1枚になった魔法符をぴらぴら振ってあっさりそう言う。
……そうだった。コイツはこういう奴なんだった。制作者が思いもしないような "裏技" をムリヤリ編み出して、本来できちゃいけないことを平然とやってのける奴なんだった……。
『いや、でもコレ、勇者しか装備できないヤツですよ』
『装備できなくてもアイテムとして使うことはできるよ。光属性の最強攻撃魔法 "洗練された何か" が発動するはずだし』
『いや、それでも一発じゃ倒せないですし、反撃喰らったらその時点で……』
その台詞を最後まで打ち込むこともできず、ふいに頭に浮かんできた光景に、俺は思わず叫んでいた。
「アリーシャ、お前っ、何こんな時にバナナ食ってんだよ!?」
『あぁ、コレ?2Fのピアノの中で見つけてきたバナナ』
『そういうことじゃなくて……何だって、こんな状況の中でバナナを……』
『そんなことよりユース、攻撃、攻撃っ!一発じゃ倒せないんだから、じゃんじゃん撃っちゃってよ!』
『えぇええぇ……っ。ちょ……っ、何ナチュラルにヒトをバトルに巻き込んでんですか……っ』
こうなっては仕方ない。どうせ反撃を受けた時点で仲間は全滅だろうが、制作者権限で「ギリギリ命が助かった」設定にはできる。
戦うだけ戦っての敗北なら、アリーシャも大人しく囚われの身になってくれるだろう。
『輝け、聖剣! "洗練された何か" !』
だんだん名付けが面倒になってきて「高校で覚えさせられたけど『こんなん絶対使わないだろう』と思ってる英単語」から適当につけた、やっつけネーミング魔法が炸裂する。
だが、さすがに光属性最強攻撃魔法だけあって、魔王はそれなりのダメージを受けたようだった。
『く……っ、まさか、ここまでの力を持っているとは……。これは手加減などしておれぬな。我も最大限の力をもって臨もう』
『残念。あなたのターンはもう回って来ないよ。これでも食らえ!えいっ!』
アリーシャが魔王へ向け何かを投げつける。
黄色くて、やけにへにゃへにゃしたアレは、さっきまでアリーシャがモグモグしていたバナナの……皮だ。
……ん?バナナの皮?
そう言えば、ネタで作ったアイテムに、確かそんなのがあったような……。一見何に使うのか全く不明のゴミみたいなアイテムなのだが、実は戦闘時に使えば対象者をすっ転ばせ、数ターンの間行動不能にできるという……
『普通のアイテムなら、敵のレベルの強弱による効果判定があるものだけど、コレはネタアイテムだからソレが無い!つまり、魔王だろうがラスボスだろうが、誰でも転ばせられるってことだよ!』
高らかに宣言するアリーシャの言葉通り、魔王はバナナの皮を踏みつけ、ずるりと滑って床に転がる。
そのコントのような見事な転びっぷりに、その場にいた全員、ぽかんと呆けて硬直した。
「アリーシャ、お前……仮にも好意を寄せてきた男に対して、何てヒドいことを……」
シナリオを打ち込みながら俺はつぶやく。
愛理咲は元々「猫の鳴き真似やゴロゴロ音を完璧にマスターすれば、猫と自在にコミュニケーションがとれるようになる」と夢見て地道に練習していたほどの猫好きだったが、まさか魔王まで猫にしてくるとは思わなかった。
「まぁ、コレはコイツを幸せにするための世界だからな。多少の設定の不自然さには目をつぶってやるよ」
言いながら、勇者と魔王の手下とのバトルを打ち始める。
結局、初期装備のまま手下に挑むことになった勇者は、大して活躍することもなく、あっと言う間にホールの床に倒れ伏した。
元々のシナリオではこの辺りでジェラルディンが勇者をかばい飛び出して行くのだが……
『待ちなさい、魔王!いくら猫さんだからって、あんまりヒドいことばっかしてると、許さないんだからね!』
アリーシャが何の悲愴感も王女らしさのカケラもなく飛び出して来た。
……まぁ、愛理咲なら、こんなモンだよな……。
『おぉ!また会えたな、アリーシャ姫!ドレス姿だと、また一段と美しい……。だが我はお前をその美貌で選んだわけではないぞ!初めて会った日、我を一目で魔王と見抜いたお前の聡明さに惹かれたのだ!お前ほど我が嫁にふさわしき者はいない!』
『え……?また会えた?魔王と見抜いた?何のこと?』
アリーシャのぽかんとした顔が目に浮かぶ。
アイディアを出すだけ出して、実際のシナリオ作りやプログラミングは全部俺任せだったコイツのことだ。細かなフラグなんていちいち覚えちゃいないだろう。
『城下の町で会ったではないか。お前は我を見て「そっかーぁ。君はニャーンでもミャアでもなくて魔王なんだね」とすぐに見抜いた。我は度肝を抜かれたぞ。我の変化を見破れる者など、我が配下にもおらんのだからな』
『へっ!? あなた、あの時のマオー君!? ……あっ、確かに首輪が同じ!あぁあぁっ!そっか!あれがフラグの1つだったのかぁー!って言うか、あの時の私、変装してたのに、何で分かったの……?』
『配下に密かに後をつけさせて身元を確かめたのでな。まさか王女とは思ってもみんかったが……。しかし正体を知ってますます確信した。お前は我と結ばれるべき女だ!我が物となれ!』
『ストーカーした挙句にムリヤリ拉致ろうとする男の嫁になんか誰がなるもんか!連れて行きたいなら私を倒してからにしなさい!』
……ん?何か雲行きがアヤしくなってきてないか?何でコイツ、魔王とバトろうとしてるんだ?
『か弱き姫の身で我と戦うつもりか?良かろう。花嫁に抵抗されるというのも、なかなか悪くない。ここは手下などではなく我が自ら相手をしてやろう』
……ダメだ、魔王もノリノリだ。どうするんだ、コレ。とりあえずユースを出して修正を試みるか……。
『何やってるんですか、アリーシャ様。魔王になんて敵いっこないですよ。おケガをなさるとマズいですから、やめておきましょう』
『あ、ユース。ちょうどいい所に。ちょっとコレ持ってて』
そう言ってアリーシャはポケットからセイクリッド・シザーを取り出した。
『……って、セイクリッド・シザー!? 究極の鍵が無ければ入手できないはずの聖剣が、ナゼここに!?』
『壁抜けの魔法符を使って城の外側から回り込んで、だけど。お城の見取図さえ頭に入ってれば、馬鹿正直に正面の扉から入らなくたって、外側から壁を抜けて取って来れちゃうし』
アリーシャは残り1枚になった魔法符をぴらぴら振ってあっさりそう言う。
……そうだった。コイツはこういう奴なんだった。制作者が思いもしないような "裏技" をムリヤリ編み出して、本来できちゃいけないことを平然とやってのける奴なんだった……。
『いや、でもコレ、勇者しか装備できないヤツですよ』
『装備できなくてもアイテムとして使うことはできるよ。光属性の最強攻撃魔法 "洗練された何か" が発動するはずだし』
『いや、それでも一発じゃ倒せないですし、反撃喰らったらその時点で……』
その台詞を最後まで打ち込むこともできず、ふいに頭に浮かんできた光景に、俺は思わず叫んでいた。
「アリーシャ、お前っ、何こんな時にバナナ食ってんだよ!?」
『あぁ、コレ?2Fのピアノの中で見つけてきたバナナ』
『そういうことじゃなくて……何だって、こんな状況の中でバナナを……』
『そんなことよりユース、攻撃、攻撃っ!一発じゃ倒せないんだから、じゃんじゃん撃っちゃってよ!』
『えぇええぇ……っ。ちょ……っ、何ナチュラルにヒトをバトルに巻き込んでんですか……っ』
こうなっては仕方ない。どうせ反撃を受けた時点で仲間は全滅だろうが、制作者権限で「ギリギリ命が助かった」設定にはできる。
戦うだけ戦っての敗北なら、アリーシャも大人しく囚われの身になってくれるだろう。
『輝け、聖剣! "洗練された何か" !』
だんだん名付けが面倒になってきて「高校で覚えさせられたけど『こんなん絶対使わないだろう』と思ってる英単語」から適当につけた、やっつけネーミング魔法が炸裂する。
だが、さすがに光属性最強攻撃魔法だけあって、魔王はそれなりのダメージを受けたようだった。
『く……っ、まさか、ここまでの力を持っているとは……。これは手加減などしておれぬな。我も最大限の力をもって臨もう』
『残念。あなたのターンはもう回って来ないよ。これでも食らえ!えいっ!』
アリーシャが魔王へ向け何かを投げつける。
黄色くて、やけにへにゃへにゃしたアレは、さっきまでアリーシャがモグモグしていたバナナの……皮だ。
……ん?バナナの皮?
そう言えば、ネタで作ったアイテムに、確かそんなのがあったような……。一見何に使うのか全く不明のゴミみたいなアイテムなのだが、実は戦闘時に使えば対象者をすっ転ばせ、数ターンの間行動不能にできるという……
『普通のアイテムなら、敵のレベルの強弱による効果判定があるものだけど、コレはネタアイテムだからソレが無い!つまり、魔王だろうがラスボスだろうが、誰でも転ばせられるってことだよ!』
高らかに宣言するアリーシャの言葉通り、魔王はバナナの皮を踏みつけ、ずるりと滑って床に転がる。
そのコントのような見事な転びっぷりに、その場にいた全員、ぽかんと呆けて硬直した。
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