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1.元魔王な兄
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俺の父は元勇者。母は元賢者。
二人はパーティーを組んで魔王を倒した後、結婚して俺を産み、父の故郷に帰って来た……という話を、俺は十二になる今の歳まで信じてきた。
だが、どうやらそれは嘘だったらしい。
「えっと……父さんと母さんが、実は魔王を倒してなくて?その魔王が俺で?それってつまり……どういうことだ?」
片手につまんだコウモリに、俺は疑問をぶつける。
晩飯のおかずを一品増やそうと、パチンコで鳥を撃ったら、鳥じゃなくてコウモリだった。
俺にはこういう "早とちり" が結構多いのだが……
コウモリじゃ食えないよな……と思いながらつまみ上げてみると、何とそのコウモリがしゃべり出したのだ。
何でもこのコウモリ、コウモリなのは仮の姿で、実はかつて魔王の片腕を務めた魔物だったらしい。
「あなた様は、勇者どもの息子などではありません!我らを率いる魔王陛下でいらっしゃいます!」
「いや、そこが全く意味不明なんだが。つまり、俺の前世が魔王ってことか?」
「前世ではございませぬ!あなた様は……憎き賢者の秘術により、時間を戻され、記憶も力も全て奪われ、赤子にされてしまったのです!」
「母さんが?……まぁ、あの母さんなら、それくらい普通にやってのけそうだけど……。うーん……全く実感湧かねぇなぁ……。俺、父さんと母さんの子どもとして育ってきた記憶しか無ぇし」
「……嘆かわしい。それこそが奴らの狙いなのです。あなた様を、ただの人の子として "洗脳" し、無力化してしまおうという……。そのようなこと、断じて許すわけには参りません!あなた様には力を取り戻し、魔王軍を復活させていただかないと!」
「いや、そんなこと言われても……俺、今の生活、気に入ってるし……」
コウモリの熱意に、俺は逆に引く。
「つーか……それで言うと俺、父さんと母さんと血が繋がってないのかよ……」
優しいだけの両親ではないが……むしろ母など、怒らせるとメチャクチャ怖いのだが……それでも、実の両親でないと知れば、かなりショックだ。それに、妹のことだって……
「……ん?血が繋がってない?……ってことは、ひょっとして、俺、妹と結婚できんじゃね?」
それに気づいた瞬間、先ほどまでのショックは吹き飛んでいた。
「妹……?勇者と賢者の間に生まれた小娘のことですか?とんでもない!あれは万が一の時、あなた様を倒すための次世代勇者として育てられている娘ですよ!?」
コウモリが何かわめいているが、俺の耳には入らない。俺の心は既に、花嫁姿の妹の妄想でいっぱいだった。
幼い頃、兄妹では結婚できないと知らされ、どれほどショックを受けたことか。
それ以来、俺は恋も結婚も半ば諦めている。
なぜって、どう考えてもウチの妹が世界で一番可愛いのに、他の女を見ているヒマなど無いからだ。
そんなヒマがあるなら、一分でも一秒でも長く、妹を可愛がっていたい。愛らしいワガママに振り回され、その後で「兄様、大好き」と言われたいのだ。
「あなた様はあの娘に騙されておられます!あの娘は、見た目通りの清楚可憐な乙女などではありません!その性根は母親に似てどす黒く……」
「は!? お前にウチの妹の何が分かるって言うんだ?あの子はなぁ、この世のあらゆる純粋さと可愛らしさと優しさを集めて生まれてきた天使なんだぞ!」
「天使って……恐ろしいまでの兄馬鹿……ではなく!あの娘だけは絶対に駄目です!あの娘は……」
コウモリがさらに何か言いかけたその時、背後から子猫のような愛らしい声が聞こえてきた。
「兄様、何をしているの?」
蜂蜜色のゆるい巻き毛をちょうちょ結びのリボンで二つに結った、あどけない少女がこちらを見つめている。
透明感あふれる白い肌に、秋の空のような深い蒼の瞳。
まだ幼いが、将来とんでもない美女に育つであろうことが、今からでも容易に想像できる。
……あぁ、ウチの妹は、今日も安定して天使だ。
「きゃっ!?」
その妹が、突然顔色を変え、悲鳴を上げた。
その目は大きく見開かれ、俺の手につままれたコウモリに向けられている。
「兄様、それ、まも……じゃなくて……コウモリじゃない!嫌っ!怖い!」
……しまった。妹に嫌がられてしまう。
俺はすぐさまコウモリを遠くへ放り投げた。得体の知れないコウモリより、妹の好感度の方が圧倒的に大切だ。
「ほら!もういないぞ!大丈夫だ」
「……本当に?また来たりしない?」
「また来ても兄様が追い払ってやるから、安心しろよ」
あんな小動物を怖がるなんて、やっぱりウチの妹はか弱くて可愛いじゃないか。
なんて、ニマニマしながら……俺はふと、後悔する。
――そうだ。俺が元魔王だとかいう件について、もっと詳しく聞いておけば良かった……。
思えば俺は、昔から何かと特殊な子どもだった。
魔法は教えられるまでもなく、何となく直感で使えたりもした。
だが、村の魔法教室は、一日目にして出禁となった。
教わるまでもなく使えたのは良いが……威力をまるでコントロールできず、教室の壁を吹き飛ばしたからだった。
……あの時は、母が飛んで来て、すぐに魔法で穴を修復してくれたが……「おたくのお子さんはウチじゃ面倒を見きれません」なんて、先生に引きつった顔をされたっけ……。
それ以来、魔法は母に家で教わるようになったが……何だかヘンな魔法ばかり教えられた気がする。
洗濯物を一瞬で乾かす魔法だとか、庭木に一気に水をやる魔法だとか……。
「これからの平和な時代には、こういう魔法の方が需要があるのですよ」とか、もっともらしいことを言われ、素直に信じてきたが……ひょっとしてソレも、魔王に危険な魔法を覚えさせないためだったのか……?
もっとも俺は、洗濯物は物干し台ごと爆風で吹き飛ばし、庭は水を注ぎ過ぎて池のようにしてしまい、危うく家を床上浸水させかけたり……全くまともにソレを使いこなせていなかったのだが……。
おかげで、母からはそのたびに盛大な溜め息をつかれ、近所の人からも何だか残念な子みたいな目で見られていたのだが……。
「それもこれも、俺に魔法の才能が無かったわけじゃなく、むしろ魔力が強過ぎたせいなのか……?」
気づけば、声に出して呟いていた。林の中だし、誰も答える者はないと思っていたのだが……
「左様でございます!あなた様には秘められた御力があるのです!」
昨日のコウモリが、何だかヨロヨロしながら飛んで来た。
「お前、昨日のコウモリか?何でそんなボロボロになってんだ?」
「それは昨夜、あの小娘に殺されかけたからでございます!やはりあの娘、本性を隠しております!あなた様の正体も知って……」
「は?昨日あんなキャーキャー言ってお前を怖がってた妹が?夢でも見たんだろ」
信じるべきは得体の知れないコウモリより、ウチの可愛い妹だ。
「何故信じて下さらないのですか!このままではあなた様は、あの小娘に……」
「そんなことより、俺の秘められた力って?それが解放されれば、俺、まともに魔法が使えるようになるのか?」
「……あぁ……その、人の話を全く聞かない所……やはり、あなた様は魔王陛下です……」
話を遮ったというのに、何だかコウモリはうっとりしている。ドMなのだろうか。
「あなた様と魔神との間に交わされた契約は、未だ生きています。しかし、あなた様の肉体が幼くなり、知識や記憶が失われたことで、魔神が戸惑っているのです。再びきちんと契約を交わし直せば、御力を取り戻せるはず……」
「その契約って、どうやってするんだ?」
またも途中で話を遮り訊くと、コウモリはぐっと詰まった。
「……さ、さぁ……。それは、あなた様の一族に伝わる秘儀であり、我らの知らぬものでしたので……」
「何だ、使えねーな」
素直な感想を言うと、コウモリはショボンとしてしまった。
「……では、その方法を何とか調べて参ります……」
そう言うとコウモリは、フラフラと去って行く。
……俺としては、できれば魔法を上手く使いこなせるようになって、将来まともに稼げるようになれれば良いので、魔神との契約うんぬんは、正直どうでも良いのだが……。
例のコウモリは、その後ぱったり姿を見せなくなった。
……やはり、そういう秘術的な何かを探るのは、大変なのだろう。
俺が元魔王で、家族と血が繋がっていないことについて、もっとちゃんと知りたかったのだが、仕方ない。
あの後、それとなくウチの両親にも訊いてみたのだが……親たちは、本当に口が堅い。
父さんの方は、うっかり茶を吹きそうになったりしていたが、母の守りは鉄壁だ。
真実を語ってくれるどころか、その話術により、俺がとんでもなく馬鹿なことを言っているのではないかと、恥ずかしい気持ちにさせられる。さすがは元賢者だ。
このままでは、俺と妹に血の繋がりが無いという事実も、認めてもらえそうにない。
一体どうすれば、俺は妹と結婚できるんだ……?
悶々と悩んでいたある日……妹が一匹の猫を拾ってきた。
白と黒のブチ模様が、ちょうどタキシードでも着ているように見える、おもしろい柄の猫だった。
「見て見て兄様、可愛いでしょ?今日からウチのペットよ」
その猫は、何だか縋るような……何かを訴えかけるような目で俺を見、ニャーニャー鳴いている。
心なしか、その気配に覚えがあるような気がしたが……猫の知り合いなどいないし、気のせいだろう。
「ああ、可愛いな」
俺はそう答えて、まじまじと妹を眺める。
可愛い妹と可愛い猫の組み合わせは、癒し効果倍増だ。
妹と結婚できる見通しは立たないが、血が繋がっていないことがバレると、妹にもう兄と呼んでもらえなくなるかも知れない。
だから……しばらくの間は、この平穏な日々を享受するべきなのかも知れない。
あぁ、それにしても……今日も平和で、妹も可愛くて、良い一日だ。
二人はパーティーを組んで魔王を倒した後、結婚して俺を産み、父の故郷に帰って来た……という話を、俺は十二になる今の歳まで信じてきた。
だが、どうやらそれは嘘だったらしい。
「えっと……父さんと母さんが、実は魔王を倒してなくて?その魔王が俺で?それってつまり……どういうことだ?」
片手につまんだコウモリに、俺は疑問をぶつける。
晩飯のおかずを一品増やそうと、パチンコで鳥を撃ったら、鳥じゃなくてコウモリだった。
俺にはこういう "早とちり" が結構多いのだが……
コウモリじゃ食えないよな……と思いながらつまみ上げてみると、何とそのコウモリがしゃべり出したのだ。
何でもこのコウモリ、コウモリなのは仮の姿で、実はかつて魔王の片腕を務めた魔物だったらしい。
「あなた様は、勇者どもの息子などではありません!我らを率いる魔王陛下でいらっしゃいます!」
「いや、そこが全く意味不明なんだが。つまり、俺の前世が魔王ってことか?」
「前世ではございませぬ!あなた様は……憎き賢者の秘術により、時間を戻され、記憶も力も全て奪われ、赤子にされてしまったのです!」
「母さんが?……まぁ、あの母さんなら、それくらい普通にやってのけそうだけど……。うーん……全く実感湧かねぇなぁ……。俺、父さんと母さんの子どもとして育ってきた記憶しか無ぇし」
「……嘆かわしい。それこそが奴らの狙いなのです。あなた様を、ただの人の子として "洗脳" し、無力化してしまおうという……。そのようなこと、断じて許すわけには参りません!あなた様には力を取り戻し、魔王軍を復活させていただかないと!」
「いや、そんなこと言われても……俺、今の生活、気に入ってるし……」
コウモリの熱意に、俺は逆に引く。
「つーか……それで言うと俺、父さんと母さんと血が繋がってないのかよ……」
優しいだけの両親ではないが……むしろ母など、怒らせるとメチャクチャ怖いのだが……それでも、実の両親でないと知れば、かなりショックだ。それに、妹のことだって……
「……ん?血が繋がってない?……ってことは、ひょっとして、俺、妹と結婚できんじゃね?」
それに気づいた瞬間、先ほどまでのショックは吹き飛んでいた。
「妹……?勇者と賢者の間に生まれた小娘のことですか?とんでもない!あれは万が一の時、あなた様を倒すための次世代勇者として育てられている娘ですよ!?」
コウモリが何かわめいているが、俺の耳には入らない。俺の心は既に、花嫁姿の妹の妄想でいっぱいだった。
幼い頃、兄妹では結婚できないと知らされ、どれほどショックを受けたことか。
それ以来、俺は恋も結婚も半ば諦めている。
なぜって、どう考えてもウチの妹が世界で一番可愛いのに、他の女を見ているヒマなど無いからだ。
そんなヒマがあるなら、一分でも一秒でも長く、妹を可愛がっていたい。愛らしいワガママに振り回され、その後で「兄様、大好き」と言われたいのだ。
「あなた様はあの娘に騙されておられます!あの娘は、見た目通りの清楚可憐な乙女などではありません!その性根は母親に似てどす黒く……」
「は!? お前にウチの妹の何が分かるって言うんだ?あの子はなぁ、この世のあらゆる純粋さと可愛らしさと優しさを集めて生まれてきた天使なんだぞ!」
「天使って……恐ろしいまでの兄馬鹿……ではなく!あの娘だけは絶対に駄目です!あの娘は……」
コウモリがさらに何か言いかけたその時、背後から子猫のような愛らしい声が聞こえてきた。
「兄様、何をしているの?」
蜂蜜色のゆるい巻き毛をちょうちょ結びのリボンで二つに結った、あどけない少女がこちらを見つめている。
透明感あふれる白い肌に、秋の空のような深い蒼の瞳。
まだ幼いが、将来とんでもない美女に育つであろうことが、今からでも容易に想像できる。
……あぁ、ウチの妹は、今日も安定して天使だ。
「きゃっ!?」
その妹が、突然顔色を変え、悲鳴を上げた。
その目は大きく見開かれ、俺の手につままれたコウモリに向けられている。
「兄様、それ、まも……じゃなくて……コウモリじゃない!嫌っ!怖い!」
……しまった。妹に嫌がられてしまう。
俺はすぐさまコウモリを遠くへ放り投げた。得体の知れないコウモリより、妹の好感度の方が圧倒的に大切だ。
「ほら!もういないぞ!大丈夫だ」
「……本当に?また来たりしない?」
「また来ても兄様が追い払ってやるから、安心しろよ」
あんな小動物を怖がるなんて、やっぱりウチの妹はか弱くて可愛いじゃないか。
なんて、ニマニマしながら……俺はふと、後悔する。
――そうだ。俺が元魔王だとかいう件について、もっと詳しく聞いておけば良かった……。
思えば俺は、昔から何かと特殊な子どもだった。
魔法は教えられるまでもなく、何となく直感で使えたりもした。
だが、村の魔法教室は、一日目にして出禁となった。
教わるまでもなく使えたのは良いが……威力をまるでコントロールできず、教室の壁を吹き飛ばしたからだった。
……あの時は、母が飛んで来て、すぐに魔法で穴を修復してくれたが……「おたくのお子さんはウチじゃ面倒を見きれません」なんて、先生に引きつった顔をされたっけ……。
それ以来、魔法は母に家で教わるようになったが……何だかヘンな魔法ばかり教えられた気がする。
洗濯物を一瞬で乾かす魔法だとか、庭木に一気に水をやる魔法だとか……。
「これからの平和な時代には、こういう魔法の方が需要があるのですよ」とか、もっともらしいことを言われ、素直に信じてきたが……ひょっとしてソレも、魔王に危険な魔法を覚えさせないためだったのか……?
もっとも俺は、洗濯物は物干し台ごと爆風で吹き飛ばし、庭は水を注ぎ過ぎて池のようにしてしまい、危うく家を床上浸水させかけたり……全くまともにソレを使いこなせていなかったのだが……。
おかげで、母からはそのたびに盛大な溜め息をつかれ、近所の人からも何だか残念な子みたいな目で見られていたのだが……。
「それもこれも、俺に魔法の才能が無かったわけじゃなく、むしろ魔力が強過ぎたせいなのか……?」
気づけば、声に出して呟いていた。林の中だし、誰も答える者はないと思っていたのだが……
「左様でございます!あなた様には秘められた御力があるのです!」
昨日のコウモリが、何だかヨロヨロしながら飛んで来た。
「お前、昨日のコウモリか?何でそんなボロボロになってんだ?」
「それは昨夜、あの小娘に殺されかけたからでございます!やはりあの娘、本性を隠しております!あなた様の正体も知って……」
「は?昨日あんなキャーキャー言ってお前を怖がってた妹が?夢でも見たんだろ」
信じるべきは得体の知れないコウモリより、ウチの可愛い妹だ。
「何故信じて下さらないのですか!このままではあなた様は、あの小娘に……」
「そんなことより、俺の秘められた力って?それが解放されれば、俺、まともに魔法が使えるようになるのか?」
「……あぁ……その、人の話を全く聞かない所……やはり、あなた様は魔王陛下です……」
話を遮ったというのに、何だかコウモリはうっとりしている。ドMなのだろうか。
「あなた様と魔神との間に交わされた契約は、未だ生きています。しかし、あなた様の肉体が幼くなり、知識や記憶が失われたことで、魔神が戸惑っているのです。再びきちんと契約を交わし直せば、御力を取り戻せるはず……」
「その契約って、どうやってするんだ?」
またも途中で話を遮り訊くと、コウモリはぐっと詰まった。
「……さ、さぁ……。それは、あなた様の一族に伝わる秘儀であり、我らの知らぬものでしたので……」
「何だ、使えねーな」
素直な感想を言うと、コウモリはショボンとしてしまった。
「……では、その方法を何とか調べて参ります……」
そう言うとコウモリは、フラフラと去って行く。
……俺としては、できれば魔法を上手く使いこなせるようになって、将来まともに稼げるようになれれば良いので、魔神との契約うんぬんは、正直どうでも良いのだが……。
例のコウモリは、その後ぱったり姿を見せなくなった。
……やはり、そういう秘術的な何かを探るのは、大変なのだろう。
俺が元魔王で、家族と血が繋がっていないことについて、もっとちゃんと知りたかったのだが、仕方ない。
あの後、それとなくウチの両親にも訊いてみたのだが……親たちは、本当に口が堅い。
父さんの方は、うっかり茶を吹きそうになったりしていたが、母の守りは鉄壁だ。
真実を語ってくれるどころか、その話術により、俺がとんでもなく馬鹿なことを言っているのではないかと、恥ずかしい気持ちにさせられる。さすがは元賢者だ。
このままでは、俺と妹に血の繋がりが無いという事実も、認めてもらえそうにない。
一体どうすれば、俺は妹と結婚できるんだ……?
悶々と悩んでいたある日……妹が一匹の猫を拾ってきた。
白と黒のブチ模様が、ちょうどタキシードでも着ているように見える、おもしろい柄の猫だった。
「見て見て兄様、可愛いでしょ?今日からウチのペットよ」
その猫は、何だか縋るような……何かを訴えかけるような目で俺を見、ニャーニャー鳴いている。
心なしか、その気配に覚えがあるような気がしたが……猫の知り合いなどいないし、気のせいだろう。
「ああ、可愛いな」
俺はそう答えて、まじまじと妹を眺める。
可愛い妹と可愛い猫の組み合わせは、癒し効果倍増だ。
妹と結婚できる見通しは立たないが、血が繋がっていないことがバレると、妹にもう兄と呼んでもらえなくなるかも知れない。
だから……しばらくの間は、この平穏な日々を享受するべきなのかも知れない。
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