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加害者Aにお礼参り

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 「たのもー!」
 「ぎゃー!」

 お礼参りほど簡単なことはない。

 「どどっど、どちら様でし……ぎゃああああ!」
 「うーん、良い反応」

 折り曲げた鉄の格子からひょいっと、しかも夜中に突然、何もない暗闇から姿を現したものだからびっくりしたのだろう。よしよし。第一加害者、発見。

 「でも、あんまり騒ぐと看守が目を覚ますから、めっ、ね?」

 速やかに騒ぐ相手の口を片手で塞ぎ、首をヘッドロックで背後から締め上げて頷かせる。
うんうん。よかった、素直な獣人で。耳元でしっかりと声をモブおじさんで話しかけてるから、明らかに異常者だとわかっているのだろう。むしろ刺客かとすら思ってるのかもしれない。漏らしてるし。あらら。僕のズボンにもかかってるよ、これ。また漏らしてる疑惑がヴォル家の使用人に……まあ、それは今はいいとして。

 「ね、あの薬、どこで手に入れたの?
  今日はそれだけを聞きにきたんだ」
 「もがもがふぶうう」
 「嘘とか、偽り、偽証、
  嘘を織り交ぜた本当とか、
  そういった小細工はいらないから、
  本当のことを言ってね。
  じゃないと、僕は君をいつだって……、
  きゅ、としてやれるからね、今みたいに」
 「びゃぶぶぶぶ」

 前々から、ヴォル家から忍んで外出し、あちこちの怪しいところをチェックした甲斐があった。
眠くなる目をこすり、夜中ですら歩き回ったのだから僕の執念とやらもなかなかのものだと最近は自負しているところだ。ここにきて鳩氏の情報もすり合わせ、ようやく、それらしい加害者一味を仕留める準備を淡々と計画できるようになった。
 今現在、僕がモブおじさんとして隠蔽した姿で締め上げてる相手は、下っ端中の下っ端、捨てられた加害者の一人だ。すなわち、尻尾切り、というやつ。
 
 (フリードは、こんな相手に……。
  けど、それでも……スルーしてるし)

 貴族同士の争い、とやらも関係してるかも、と思うけれども、それじゃ僕の腹が収まらない。
下っ端で手打ち、されててもそういうものだと……確かにそういう考え方もあるけどさ、僕は根が庶民育ちだからね。いくら貴族の血を引いてるっていっても、さ。なまじチカラがあるからこそ、なんとかしたいと思うわけだ。

 (もちろん、フリードの迷惑にならないような範囲で)

 してやろうという魂胆である。
なんの? 倍返しの。

 (全員、意識は刈り取ったけど、
  落とし前はまだついてないからねえ)

 首のつながっているこの男の証言から芋蔓式にもってってこ、という次第である。
幸い、街の牢であることが幸いだ。王城だったら面倒だったけど、本当に、消し去ろうとしている事件なんだな、これ。僕の婚約者が軽く扱われてるみたいで、モヤモヤしてしまうんだよね、実に、
  
 「無理」
 「ぶふうふうううう」
 「おっと、悪い」

 つい、首を締め上げるところだった。腕に力が入りすぎた。

 「じゃ、まずは知ってること、吐いてもらおうか」

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