どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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何事もなく? ご案内される。

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 友人たちとアレコレと楽しみながら下町散策などはいくらでもしてきたが、明らかに育ちが良い婚約者どのの行き先はどこなんだろう。予想はつくが、案内されるがまま進むしかない。

 (学校帰りに誤魔化して巻いた実績があるせいか、
  周りの護衛はそれなりに僕の居場所を追尾できそうなのを用意されてるし)

 どうもきちんとお屋敷に無事に帰ってくる姿を見届けるまでは護衛仕事が終わらないらしく、僕は幾度もいつメンの厳しい視線に晒されたことか。

 (一応はルフスさんに言伝してるんだけどね……)

 案外と心配性な婚約者殿である。




 高級総合デパートは僕がヴォル邸の人々に大いに迷惑をかけた黒歴史のため、できれば別の場所がいいなあ、とほのかに思いを抱いていたところ、どうにか通り過ぎてほっとする。

 (いや、立ち寄っても別にいいんだけど)

 とはいえ、ぼっちで飲み物をオーダーし、飲んでいる学生服の姿は珍しすぎるのできっとあだ名でもつけられてるに違いない。しばし近づかないことにしたほうがいい。
 貴族学校でも群れることに慣れてきた僕なので、目立つということはぼっち再び、の可能性がある。せっかく獣人のおニューと仲良くなってきたばかりだというのに、その縁をばっつり切られるのはよろしくない。苦労が泡だ。

 「ん? ここは……」
 
 気づけば、僕は物珍しい建物に到着していた。
公子様と馬車から降り立てば、ますますその異様さに興味を掻き立てられる。 
 隣で僕の言葉に微笑し、語る曰く、
 
 「ここは……、タワー塔だよ」
 「タワー……? 塔?」

 何やら塔・塔みたいな感じだが、改めて見上げると随分と細長い建物である。
王城が一番高い建物だと思っていたが、この塔もなかなか高い位置に聳えている。頭上の雲が白白しい。もくもくとしていて、これから雨が降るかもしれない、と感じる程度の色合いになりつつある。
 風に煽られ、フリードリヒの髪が後ろへと流れていく。

 「ここは来たことがない?」
 「はい……そうですね、僕にとって空は……」

 大きいものだし、どこまでも飛べそうだと本性としてもわかるんだが、けれども、だからといって飛翔可能な獣人が多数存在しているという王都上空を自由自在に飛び回るのは、警備的にいかがなものか。そういう現実的思考でもって、僕はこの大陸の隅々まで行ってみたいなあ、という気持ちもないわけではなかったけれども、捕獲され、門兵でもある義理の父と顔と顔を付き合わせ、カツ丼食うわけにもいかなかった。
 
 (実際のところ、調べてはみたんだ。
  けどね……)
 
 このタワータワーは王城の近くに生えているので……。
いくら好奇心マシマシだったとしても、近づくのは危険なのである。法律も、そう。脳筋ばかりなので、本当に、本当に……憲法のほうが間に合っていないのだ。気分で捉えられても困るし、基本的人権獣権利がどこにあるのか、目立つとどんな目に遭うか……。

 (僕より強い獣人っていたらね……万が一があったらまずい)

 僕の逃げ足はそれなりに早いものだが、自慢できるほどではない。
なんたって、1位ではない。トップなのはきっと、別の獣人。この大陸にはもっと、化け物みたいな獣人がいるのだから。
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