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ローラン・グアランとのお話
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「んで、なんだよ話って」
まったく貴族らしく優雅ではないローラン・グアラン、足をだらりと下げ、踏ん反りかえって椅子に座している。
一応は情報の扱いを心得ている相手なので、心音や目の動き、手足の癖などをしっかと見定めているが、どうも、この男にはそういった心得なぞどうでもいい、といわんばかりに素直な動きをしてみせている。
(はて)
どうにも、グアラン家らしくない男だなあ、と僕は思った。
(三男だったっけ)
頭の中では長男と次男がそこそこ国良いところで働いていると聞き齧っていたが、末っ子当人はどうにもちゃらんぽらんな態度である。元々好き好んで罪を被った家ではないようなので(それでも宰相の側にいた獣人らしいから、闇深い部分はあるだろう)やんちゃな性質が本性なのかもしれなかった。
(欲望に忠実で……)
僕もまたそこが気になるから、直で聞いてみようか。
「うん。
ローラン・グアラン。
君は、女性だけじゃなく男もいけるって本当?」
「なんだぁ、いきなり」
ガラは悪いが、口は割ってくれるようだ。
「ふん、まあ……そうだな。
元は女だけかと思ってたけどな。
それがやってみたら……意外と」
「ほう」
「うん……悪くなかった」
「きっかけは?」
「どういう会話だよ、これ」
疑問に思ったようだったが、喋ることにはしたらしい。
「はじめは、そう。
気になる相手が……いた、からだったな……。
なんで、と言われるとわからないが……。
……お前に……」
「お前?」
ルフスさんが、ローラン・グアランの背後から詰めるような言い方をしたため、慌ててローランは言い直した。
「ちがっ、リヒト様におかれましては、その!
違いますから! ちょっと似てるかなって思ってないし!」
一体何に似てるのかは不明だが、落ち着いた頃合いを見て、再び質問をする。
「まとめると、もしかすると僕に似てる誰かがいて、いいなって思って。
それで試してたら、なかなかイケる口になった、と」
「そうそう、そういうことです、はい!」
「……まったく会った覚えがないなあ」
ちょっとドン引き……。
(他人の空似だろうか)
こうしてヴォル邸へ迎え入れられる前までは、まったくもってアクティブな生活を送っていないため、こうしたリア獣のウェーイっぽいやつと遭遇するタイミングなんてものはそうそうにない。そんな消極的な生活を送ってきたというのに、現状は現在進行形でとんでもないことになっているが、まあ、それはさておき。
「ちなみに、どっち?」
「えっ、う……」
「うしろ?」
「ち、違う! そこは断じて!」
へー。
「でも、ローランは後ろの才能もありそう」
「なななな、なんて失礼な!
そんなこと、あるはずが!」
リヒト様、と使用人からの、どこか呆れたような声が聞こえるが、とりあえず。
場を和ませたあたりで、本当のことを聞こうか。
「グアラン家は情報を取り扱うらしいから、
聞きたいことがあるんだ」
「は? ……まあ、そういう家ではあるのは否定しないけど」
疑問を持ちつつも、グアランはその赤い瞳を僕に、まっすぐに向けてくる。真剣な表情である。
「んで、何を聞きたいんだ?
リヒト・ガーディアン様」
「……僕の家までご存知とは」
「そりゃあ、ヴォル家に騒動があれば、なぁ」
さすがは押し入ろうと執事と押し問答していただけのことはある。
「今、とんでもなく失礼なこと考えただろ?」
と、ヴォル家の執事やルフスさんの様子を探りながら、彼はしっかと話を続ける。
「そりゃあ、この家には何度も参ったさ。
……あんな、締まりの良い……おっと」
どうやら不遜な発言が出てしまったらしく、我慢のならなかったヴォル家筆頭執事が、その銀のお盆をまるで鏡のようにローラン・グアランの顔の前に出し、僕に隠すかのように遮った。
「リヒト様。
このような男の発言、果たして正しいものでしょうか?
聞く耳を持つ必要があるのでしょうか?」
「へっ、まあ、いいじゃないか。
一応、こうみえて貴族の三男坊なんだぜ?
それに……」
銀のお盆の向こう側では、お盆越しに彼らはバチバチと目に見えぬ火花を散らしている。
「オタクのご主人様には愚息がお世話になったからな。
ノリの良い、美人なヴォル家ご主人様の……っと、悪いな。
言いすぎたか」
(……うーん。僕はこういう場合、
どう反応すべきか)
「なにぶん、僕と出会う前の出来事だからね」
どうしようもない、というのが本当のところだ。
「リヒト様……」
ルフスさんが労わるように、声をかけてくれた。なんとも優しい声だ。
「気になさることではありません、
この男はカスですので……チリのようなものですから」
「おい」
「体にまとわりつくゴミは洗えば綺麗になりますので」
ふんわりと笑みを称える彼は、まるで慈愛の聖母のようですらあった。
「確かに記憶として残ることはございます。
ですが、所詮は通り過ぎるだけの物体であり、いずれは肉の塊。
しなびて消える運命ですので、そのうち、忘れます。
存在そのものが消滅するので、あってもないようなもの。
といっても、難しい、ですよね」
まったく貴族らしく優雅ではないローラン・グアラン、足をだらりと下げ、踏ん反りかえって椅子に座している。
一応は情報の扱いを心得ている相手なので、心音や目の動き、手足の癖などをしっかと見定めているが、どうも、この男にはそういった心得なぞどうでもいい、といわんばかりに素直な動きをしてみせている。
(はて)
どうにも、グアラン家らしくない男だなあ、と僕は思った。
(三男だったっけ)
頭の中では長男と次男がそこそこ国良いところで働いていると聞き齧っていたが、末っ子当人はどうにもちゃらんぽらんな態度である。元々好き好んで罪を被った家ではないようなので(それでも宰相の側にいた獣人らしいから、闇深い部分はあるだろう)やんちゃな性質が本性なのかもしれなかった。
(欲望に忠実で……)
僕もまたそこが気になるから、直で聞いてみようか。
「うん。
ローラン・グアラン。
君は、女性だけじゃなく男もいけるって本当?」
「なんだぁ、いきなり」
ガラは悪いが、口は割ってくれるようだ。
「ふん、まあ……そうだな。
元は女だけかと思ってたけどな。
それがやってみたら……意外と」
「ほう」
「うん……悪くなかった」
「きっかけは?」
「どういう会話だよ、これ」
疑問に思ったようだったが、喋ることにはしたらしい。
「はじめは、そう。
気になる相手が……いた、からだったな……。
なんで、と言われるとわからないが……。
……お前に……」
「お前?」
ルフスさんが、ローラン・グアランの背後から詰めるような言い方をしたため、慌ててローランは言い直した。
「ちがっ、リヒト様におかれましては、その!
違いますから! ちょっと似てるかなって思ってないし!」
一体何に似てるのかは不明だが、落ち着いた頃合いを見て、再び質問をする。
「まとめると、もしかすると僕に似てる誰かがいて、いいなって思って。
それで試してたら、なかなかイケる口になった、と」
「そうそう、そういうことです、はい!」
「……まったく会った覚えがないなあ」
ちょっとドン引き……。
(他人の空似だろうか)
こうしてヴォル邸へ迎え入れられる前までは、まったくもってアクティブな生活を送っていないため、こうしたリア獣のウェーイっぽいやつと遭遇するタイミングなんてものはそうそうにない。そんな消極的な生活を送ってきたというのに、現状は現在進行形でとんでもないことになっているが、まあ、それはさておき。
「ちなみに、どっち?」
「えっ、う……」
「うしろ?」
「ち、違う! そこは断じて!」
へー。
「でも、ローランは後ろの才能もありそう」
「なななな、なんて失礼な!
そんなこと、あるはずが!」
リヒト様、と使用人からの、どこか呆れたような声が聞こえるが、とりあえず。
場を和ませたあたりで、本当のことを聞こうか。
「グアラン家は情報を取り扱うらしいから、
聞きたいことがあるんだ」
「は? ……まあ、そういう家ではあるのは否定しないけど」
疑問を持ちつつも、グアランはその赤い瞳を僕に、まっすぐに向けてくる。真剣な表情である。
「んで、何を聞きたいんだ?
リヒト・ガーディアン様」
「……僕の家までご存知とは」
「そりゃあ、ヴォル家に騒動があれば、なぁ」
さすがは押し入ろうと執事と押し問答していただけのことはある。
「今、とんでもなく失礼なこと考えただろ?」
と、ヴォル家の執事やルフスさんの様子を探りながら、彼はしっかと話を続ける。
「そりゃあ、この家には何度も参ったさ。
……あんな、締まりの良い……おっと」
どうやら不遜な発言が出てしまったらしく、我慢のならなかったヴォル家筆頭執事が、その銀のお盆をまるで鏡のようにローラン・グアランの顔の前に出し、僕に隠すかのように遮った。
「リヒト様。
このような男の発言、果たして正しいものでしょうか?
聞く耳を持つ必要があるのでしょうか?」
「へっ、まあ、いいじゃないか。
一応、こうみえて貴族の三男坊なんだぜ?
それに……」
銀のお盆の向こう側では、お盆越しに彼らはバチバチと目に見えぬ火花を散らしている。
「オタクのご主人様には愚息がお世話になったからな。
ノリの良い、美人なヴォル家ご主人様の……っと、悪いな。
言いすぎたか」
(……うーん。僕はこういう場合、
どう反応すべきか)
「なにぶん、僕と出会う前の出来事だからね」
どうしようもない、というのが本当のところだ。
「リヒト様……」
ルフスさんが労わるように、声をかけてくれた。なんとも優しい声だ。
「気になさることではありません、
この男はカスですので……チリのようなものですから」
「おい」
「体にまとわりつくゴミは洗えば綺麗になりますので」
ふんわりと笑みを称える彼は、まるで慈愛の聖母のようですらあった。
「確かに記憶として残ることはございます。
ですが、所詮は通り過ぎるだけの物体であり、いずれは肉の塊。
しなびて消える運命ですので、そのうち、忘れます。
存在そのものが消滅するので、あってもないようなもの。
といっても、難しい、ですよね」
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