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鳩氏、襲来

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 何やら飛んできたなあ、と思ったら、中型の鳥が頭上を飛び回り、

 「いたたたた」

 護衛や僕らを突ついたり、羽根でばさばさと体当たりをしてきたりと騒がしくしてきた。
どうも一匹だけ、嫌がらせにきたようだ。

 「なんだこの鳥……んおっ」
 
 一人の兵士なぞ、目を突かれそうになっていた。
意外と素早い鳥である。
 (野生、ではなさそう)
 僕の目力によれば、どう考えてもこの生き物は意図的に攻撃している。

 「おいやめ」
 「くっ」

 そこまでとんでもない襲撃ではないが、護衛の騎士が腰にある剣を抜いて攻撃しようとしていたため、
 (仕方ないなぁ)
鳥の動線を予想し、足の裏に力を込めて推力を高める。僕は飛び上がることにした。

 「え、ちょ、リヒト様っ!?」

 意外にもルフスさんが僕の動きを感知し、驚いていたが、その頃には僕は鳩よりも高い位置に飛んでいた。
そう、僕は鳩に勝利したのだ。

 鳩は大いに驚いた目をしていた。

 鳥目だからなあ。
まさか、鳥類よりも素早く動く獣人がいるとは思うまい。

 空中で固まったのが、鳩氏の命取り。
 (さすがにとどめはささないけど)
 僕は足の裏に鳥を押さえ、そのまま地面へと落とした。鳥の獣人を。

 「ぐふっ」

 鳥のまま押さえ込まれたら流石に死を察するのだろう、命の危機を前に、鳩氏は本能でもって人型になった。
素っ裸で。

 「ぐううう、な、なんて破天荒な……」
 「そりゃこっちのセリフ」

 見目は悪くない。
髪はストレートで金髪、少し長めで、顔の形だけはエルフっぽい整ったものだ。肉体はすらっとしていて、羽根が生えてたら、天使、に見えるかもしれなかった。実際には鳩の羽だけど。多分だが、人型でも羽ぐらいは出せるだろう。土鳩だけど。赤い目は魅力的だし、なるほど。そりゃあ、この顔貌をしていたならば甘い顔と言葉で男女の間を行き交うわけだ。

 (素っ裸だけどな)

 足で押さえつけてて思うけど、筋肉の盛り上がり方からして、そこそこできるようだ。武術が。
 (確か、執事さんがそんなこと言ってような)
 基本、自分に関わること以外は興味がないたちなので、ローラン・グアランの基本情報がすっぽ抜けてる可能性があった。バタバタとしているが、目線は僕にむけているあたり、少しでも動けるなら逃げようと言う魂胆が丸見えだ。お尻も丸見えだけど。背中はしなっていて、今すぐにでも飛び上がりたそうにしているけど、残念。

 「ローラン・グアラン、だね」
 「ぐ……」

 少し片足に力を込めると、地面にめり込んで肺が苦しめられたのか、顔を顰め、
 
 「くっ、殺せ!」

などと、まったく嬉しくない文句を言う。

 「しかし、なんでこう僕の前にやってきたの?」
 
 まるでバカだな、といわんばかりの呆れる僕に、彼はますますイキリ立ったものか、手足をバタバタとさせるも、

 「うううう、うるさいっ!
  くそッ、くそ、くそっ、
  なんでこう、一番弱そうなお前がっ、 
  めちゃくちゃ強いんだっ」
 「そりゃ光栄だね」

 力量が見極められるあたり、彼はおばかじゃないらしい。

 「はー、はー……うう……」

 しばらくそのままでいると、彼は観念したのか、

 「服……」

 と言い始めたので、ルフスさんにお願いして、彼も承知して上着を返した。
正しくローランのものなので、渋々彼はそれを下腹部に巻いて、不貞腐れたように僕の前であぐらかいて座っている。護衛の兵士らがローラン・グアランを中心に、円陣を組むかのように警戒し、僕とルフスさんは鳩の正体をもつ彼を前に、尋問を始めた。

 「はぁ……」

 先ほどからため息ばかりついているが、質問をすると答える気にはなってはいるようだ。

 「で、なんで僕たちを襲撃してきたの?」
 「……そりゃあ、腹立ったからだよ」

 (なんでだよ)
 僕と同じ疑問が湧いたものか、ルフスさんが訝しげに、ローランを見下ろしている。

 「なぜです?
  俺たちは、何もしていませんが」
 「してるだろ!」

 埒があかないので、じーっとみていると、バンバン地面を叩いていたローランは、気まずげに目をそらす。

 「……お前ら、狼を仕掛けてきただろ。
  くそ、なんで街中で狼どもがいるんだよ……」
 「え?」
 
 (狼?)

 「うーん? どういうこと?」

 ぽわぽわ、と浮かぶのは口を塞ぎ、手足を縛っても、ぶぶぶぶ、と唸り、僕に威嚇してばかりの狼である。犬笛ならぬ、狼笛を使ったのにも関わらず、あの野生の獣たちは僕のいうことなぞ全然聞かないし、むしろ足蹴にしてヴォル邸を去っていったと言うのに。

 僕の疑問に、ローラン・グアランは先日の狼共に負けじと吠えた。

 「知らんわ!
  なんでか追いかけまわされてたんだよ!」


  
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