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さて、本体は?
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匂いの痕跡は、辿っていくと川岸まで突き進んだ。
「これは……」
かかっていた橋を越え、向こう側へ回ってはみたものの残り香は途絶えているらしい。
ルフスさんも困惑顔である。
「もしかして、流された?」
「……いえ、あるいは……」
二番目のセフレ……ごほん、気の強い女性宅の近くで現在屯っているのだが、もし彼女が何かを知っていたならあの性格である、思いっきり暴露していただろう。
ルフスさんも同じ感想を抱いたらしく、深刻な顔で呟く。
「……何か事件にでも巻き込まれた、
のでしょうか?」
「最近の事件や事故の情報は我々には、
届いておりません」
振り向いて護衛の騎士たちや兵士らにも聞いてみたところ、そういった話題はないらしい。
「なんという雲隠れ……」
頭上では鳥が一羽、悠々と飛翔している。
たちまちに雲間に紛れ、消えてしまったけれども。
……うーん。
「飛んだのかな?」
地面に座り込み、服が汚れてもなお鼻を接地面に近づけてまで調査してくれたルフスさんに感謝を述べたあと、僕は未だ見ぬローラン・グアランの本性が鳩である本性を思い出していた。あの鳩は小柄な種だし、他の獣に食べられてもおかしくはない。
(となると完全犯罪が成立してしまうな……)
僕がそんな、しょうもないことを想像していると、ルフスさんは、ローランが飛んでいった説に一票投じた。
「その可能性はありますね。
抜けた羽はついていませんが」
バッサバッサ、とルフスさんが広げたジャケットには羽毛の痕跡はない。
ただ、背中の部分に少し切り込みみたいなものがある。恐らくだが、翼を出すためのものだ。
「もし羽を出したら、飛べるのかな?」
「……どうでしょう。
人の形をして飛ぶにしては、
ローラン・グアランの姿形は大きいし、
浮遊するには完全に鳥型じゃないと厳しいですね」
獣人が本性を表すと、大概は獣本来の能力全開になる。
また、人によっては獣になれない場合もあり、あるいは中途半端な姿しかとれない場合ももちろんのことながら、ある。そのため、役に立たない場合もある。その獣由来の能力が。
(よくよく考えると、やっぱり物理法則無視してるなあ)
まあ獣人の存在自体がまるで作られたかのような……魔法のような存在だし。
調べても口伝のようなものしか痕跡がないし、人間より優れているわりに人間大陸を支配下におけないし、中途半端に知能もおかしいし。調べれば調べるほどドッキリな存在である、獣人。
「……仕方ない、彼は何者かの餌になったということで」
結果は出たようだ。
なんとなくぼそっと思ってたことが、なんとはなしにまとまりそうになったあたりで、頭上の雲行きがあやしくなってきた。
「おや?」
ルフスさんも、あっ、と声を上げた。
「まさか……」
そのまさか、であった。
「これは……」
かかっていた橋を越え、向こう側へ回ってはみたものの残り香は途絶えているらしい。
ルフスさんも困惑顔である。
「もしかして、流された?」
「……いえ、あるいは……」
二番目のセフレ……ごほん、気の強い女性宅の近くで現在屯っているのだが、もし彼女が何かを知っていたならあの性格である、思いっきり暴露していただろう。
ルフスさんも同じ感想を抱いたらしく、深刻な顔で呟く。
「……何か事件にでも巻き込まれた、
のでしょうか?」
「最近の事件や事故の情報は我々には、
届いておりません」
振り向いて護衛の騎士たちや兵士らにも聞いてみたところ、そういった話題はないらしい。
「なんという雲隠れ……」
頭上では鳥が一羽、悠々と飛翔している。
たちまちに雲間に紛れ、消えてしまったけれども。
……うーん。
「飛んだのかな?」
地面に座り込み、服が汚れてもなお鼻を接地面に近づけてまで調査してくれたルフスさんに感謝を述べたあと、僕は未だ見ぬローラン・グアランの本性が鳩である本性を思い出していた。あの鳩は小柄な種だし、他の獣に食べられてもおかしくはない。
(となると完全犯罪が成立してしまうな……)
僕がそんな、しょうもないことを想像していると、ルフスさんは、ローランが飛んでいった説に一票投じた。
「その可能性はありますね。
抜けた羽はついていませんが」
バッサバッサ、とルフスさんが広げたジャケットには羽毛の痕跡はない。
ただ、背中の部分に少し切り込みみたいなものがある。恐らくだが、翼を出すためのものだ。
「もし羽を出したら、飛べるのかな?」
「……どうでしょう。
人の形をして飛ぶにしては、
ローラン・グアランの姿形は大きいし、
浮遊するには完全に鳥型じゃないと厳しいですね」
獣人が本性を表すと、大概は獣本来の能力全開になる。
また、人によっては獣になれない場合もあり、あるいは中途半端な姿しかとれない場合ももちろんのことながら、ある。そのため、役に立たない場合もある。その獣由来の能力が。
(よくよく考えると、やっぱり物理法則無視してるなあ)
まあ獣人の存在自体がまるで作られたかのような……魔法のような存在だし。
調べても口伝のようなものしか痕跡がないし、人間より優れているわりに人間大陸を支配下におけないし、中途半端に知能もおかしいし。調べれば調べるほどドッキリな存在である、獣人。
「……仕方ない、彼は何者かの餌になったということで」
結果は出たようだ。
なんとなくぼそっと思ってたことが、なんとはなしにまとまりそうになったあたりで、頭上の雲行きがあやしくなってきた。
「おや?」
ルフスさんも、あっ、と声を上げた。
「まさか……」
そのまさか、であった。
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