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プライド高いし、仲間意識高くていいよね。

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 (やっぱダメか)
 僕の笛スキルが低いせいか、狼は反応をみせず、むしろ威嚇してくる。
 なぜに兄は狼だけ呼び寄せる笛を僕に与えたんだ……。むしろ僕の部屋の周り毛だらけになるだけじゃないか……なんたる不毛。

 「リヒト様、リヒト様」
 「ん?」
 
 ふと見上げると、ルフスさんがにこやかな笑みを湛えて、僕に耳打ちしてくる。

 「俺、鼻が良いので。
  もしよければ、やりますよ、犬」

 



 狼一匹は無駄に僕たちに吠えたてたあと、もう二度こんな目に遭わすなよ、ケッ、と言わんばかりに後ろ足でヴォル邸の絨毯を蹴り上げたあと、タッタカ足早に遠くにいる仲間のほうへと帰っていった。ごめん。捕獲しちゃって。
 
 何やら無駄な作業を朝からしてしまったが、婚約者どの(ほぼ確約)は、特に怒るようなこともせず、不機嫌にもならずにむしろ、僕に対し「他に手伝えることがあれば何でも言っていいですよ。貴君はどうも暴走しがちだから」と親切にフォロー。なんて良い人なんだろう。顔面偏差値がトップレベルなのに。でも、フリードこそ暴走しがちな夜会の魔性だったから、僕よりも違う方向に進むタイプだと思う。
 
 貴族学校を通う道すがら、馬車の中から一応は眺めてはみるものの、特にそれらしき存在はなし、と。
 向かいに座るルフスさんにも確認してもらったけれども、やはり、いないらしい。
 (朝っぱらからうろつかないか、さすがに)
 ローラン・グアラン。
 なんて厄介な男なんだ……。

 いつも通り、授業を受け、レポートをしこたま書いて先生に提出、しばらく友人や浅い人間関係を構築したあと、ルフスさんが迎えに来たので帰宅の準備をする。
 その道すがら、ルフスさんがほんわか微笑みながら、朝から続いていた話をしてきた。

 「ところで、リヒト様。
  俺が犬役をする件ですが……」
 「ん? あぁ、そういえばそんな話あったね」
 「はい。
  俺は首輪こそありませんが、
  声に出さずとも自信はありますので」
 「へえ」
 
 (嗅覚、そこまで自覚するほど自信あるんだ……)
 どこか誇らしげですらある。

 「狼ほど吠えませんから、俺」
 「うん」
 「立ったままでも、リヒト様が満足するまで頑張ります」
 
 這いつくばる狼には睨みつけられ、吠え立てられ、後ろ蹴りの姿まで見送っていたからね。
 
 「ん、ありがとう……。
  兄から貰った道具、役に立たなかったし」
 
 ルフスさんの獣人としての能力は非常に高いもので、嗅覚に優れていることが判明したので、少しだけ僕は浮かれていた。うん、見つかるかも。スキップこそしていないが、しかし、ご機嫌なのが丸わかりなのか通りすがりの生徒たちが道を譲りつつも、ほー、と何やら息をつきながら、僕たちを見守っている。
 これまたいつもの光景なので、気にも止めず。
再び、ローラン・グアラン関係のアポをとるため、ピルク少年の元へと向かうのであった。





 「……なあ、聞いたか」
 「ああ……しかと、この耳に」

 二人の学校生徒が、ヒソヒソと、これまた密やかに話をし始める。

 「あの妖艶な使用人と、犬ごっこしてるって……」
 「……どっちがどっちなんだ?」
 「そりゃあ、君、まあ……、
  絵的に……」

 最近雇われたらしい、新しい使用人の噂はこの学校内部でもトップクラスの話題だった。
しかも顔が良くて肌を見せないぴっちりとした使用人服は、ルフスと呼ばれる青年にはよくよく似合っていたが禁欲的であり、時たまみせるため息はやけに色っぽい、と評判であった。
 そんな彼らが意味深な会話をしてしまったので、通りすがりの年若き学生たちは、下半身のどこかが張り詰めてしまうのも無理はない。ごく、と生唾飲み込みながら下賎な話をし続ける。

 「未来のヴォル家の嫁に、あの使用人が突っ込むわけないよな」
 「てことは、やはり。
  あの使用人に、突っ込むのか?
  リヒトどのが」

 想像すると、庶民だが年上の青年に背後を陣取るヴォル家の嫁(婿)。
貴族は妾を持つのは別に普通ではあったので、もし、公子が認めるというのならさほど問題はなかった。
 もう一人の生徒は、公子の美しい御尊顔を知っていたため、もしかしたら……と余計なことに想像を膨らませ、今夜は眠れないな……などと、新たなる性癖を開花させつつある。
 いずれにせよ、リヒト・ガーディアンにまとわりつく噂は新たなる1ページを刻んだ。

 「となる、よなあ……良いなあ」
 「うん……良い」
 
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