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突撃!愛人宅へ
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ローラン・グアランが残した置き手紙には、この高級アパートメントの群れからほどよく離れた位置に、これまた似たような建築の群れがあった。今度は平屋建築。一般庶民の住まう住宅地区、といった風情で、ごくごく獣人らの当然な暮らしが見える。もう少し頑張って歩けば庶民の台所であるところの市場があり、人通りも増えた。
「ここですね」
ルフスさんとピルク少年を伴ってやってきた玄関口には、看板がある。
どうみても女性名にしか読めないその人名に、僕だけが、こめかみに冷や汗が伝う。
「じゃあ、呼び出しますね」
ルフスさんはそう言って、積極的に前に進み出た。
もしかして、と僕は予感していたのだが、というか、鳩の家紋が扉の前に書かれている時点で僕は気づくべきだったのだ。ドンドンドン、と前よりも激しい殴打。絵柄に気づいている激しい連打だ。このままだと、扉が破壊されそうなほどのリズム。
(たわんでるな、玄関のドア……)
意外とルフスさんってパワー系なんだよなあ……。
「ちょ、誰!? うるさいんですけど!?」
慌てて顔を出してきたのは、なかなか可愛い顔をしたお姉さんだった。
少し地味目な色を持つけど、服装もセンス良い色のものを身につけている。
これが通りすがりの人であれば、普通に気の強そうな女性だなあ、って感想を抱くだけで済んだのに。
「あっ!?」
「あんたは!」
本当なら、僕はこんな目に遭うつもりはなかったんだ。忘れたい、この戦いを。
一瞬にして炎は燃え上がった。
目と目が合った瞬間に、彼らのゴングは鳴り響いたのだ。
「きぃぃー! ローランにちょっかいかけてたアマ!」
「なんだって! このマセガキ!
ちょっとダーリンに可愛がられたからって鼻高々になっちゃって!
ちったあ弁えろや、このくそガキ! ケツ×××!」
「んだとこの年増がっ、厚化粧で誤魔化すんじゃねーよ、ゴマスリ女!」
「うっせぇ、チビは大人しく小さくなってろや、あばずれガキ(以下省略)」
あっという間に、ピルク少年とお姉さんは取っ組み合いの喧嘩をし、口撃と物理攻撃の両方をやりあって手も足も出しまくった。しかも道端での大喧嘩のため、人だかりがあっという間にでき、他人のふりをしたいのにできないでいる。かといって近づくとキャットファイトに巻き込まれてしまいかねないし、僕の立場上、あんまり彼らに近づきたくないし……まだまだヒートアップが青天井のため、僕は護衛兵士に止めてもらうようお願いした。
「……で、何の用?」
家にはあげたくないわ、と至極真っ当なことを言われたため、僕たちと女性は、少し遠回りだけど空き地へと移動する。近くには川が流れており、生活用水らしく、獣人が水を使って洗濯をしたりしている。
「そんなの、決まってるでしょ」
「……ピルク」
「ふんっ」
わかりやすく喧嘩腰の少年に、お姉さんはいらっとした表情を浮かべたが、僕とルフスさん、さらには背後にいる護衛たちの姿に改めて気持ちを引き締めたのか、これ以上何も言わず、ただ吐き捨てるように言葉を選んで会話を続ける。
「女ひとりに、男どもが集まって。みっともない」
「んだと、この」
「ルフスさん、抑えて」
まあそりゃそうだろう、という感情の発露だから、僕は使用人の鏡となりつつあるルフスさんに、どうどう、と続き、話も続けるように僕は視線だけで促す。
その意味がわからないはずがないのだ、獣人、かつ、貴族社会のある国ならば。
「……はあ、わかったよ。
まったく……」
お姉さんは渋々ながら、僕の無言に解答した。
「ここですね」
ルフスさんとピルク少年を伴ってやってきた玄関口には、看板がある。
どうみても女性名にしか読めないその人名に、僕だけが、こめかみに冷や汗が伝う。
「じゃあ、呼び出しますね」
ルフスさんはそう言って、積極的に前に進み出た。
もしかして、と僕は予感していたのだが、というか、鳩の家紋が扉の前に書かれている時点で僕は気づくべきだったのだ。ドンドンドン、と前よりも激しい殴打。絵柄に気づいている激しい連打だ。このままだと、扉が破壊されそうなほどのリズム。
(たわんでるな、玄関のドア……)
意外とルフスさんってパワー系なんだよなあ……。
「ちょ、誰!? うるさいんですけど!?」
慌てて顔を出してきたのは、なかなか可愛い顔をしたお姉さんだった。
少し地味目な色を持つけど、服装もセンス良い色のものを身につけている。
これが通りすがりの人であれば、普通に気の強そうな女性だなあ、って感想を抱くだけで済んだのに。
「あっ!?」
「あんたは!」
本当なら、僕はこんな目に遭うつもりはなかったんだ。忘れたい、この戦いを。
一瞬にして炎は燃え上がった。
目と目が合った瞬間に、彼らのゴングは鳴り響いたのだ。
「きぃぃー! ローランにちょっかいかけてたアマ!」
「なんだって! このマセガキ!
ちょっとダーリンに可愛がられたからって鼻高々になっちゃって!
ちったあ弁えろや、このくそガキ! ケツ×××!」
「んだとこの年増がっ、厚化粧で誤魔化すんじゃねーよ、ゴマスリ女!」
「うっせぇ、チビは大人しく小さくなってろや、あばずれガキ(以下省略)」
あっという間に、ピルク少年とお姉さんは取っ組み合いの喧嘩をし、口撃と物理攻撃の両方をやりあって手も足も出しまくった。しかも道端での大喧嘩のため、人だかりがあっという間にでき、他人のふりをしたいのにできないでいる。かといって近づくとキャットファイトに巻き込まれてしまいかねないし、僕の立場上、あんまり彼らに近づきたくないし……まだまだヒートアップが青天井のため、僕は護衛兵士に止めてもらうようお願いした。
「……で、何の用?」
家にはあげたくないわ、と至極真っ当なことを言われたため、僕たちと女性は、少し遠回りだけど空き地へと移動する。近くには川が流れており、生活用水らしく、獣人が水を使って洗濯をしたりしている。
「そんなの、決まってるでしょ」
「……ピルク」
「ふんっ」
わかりやすく喧嘩腰の少年に、お姉さんはいらっとした表情を浮かべたが、僕とルフスさん、さらには背後にいる護衛たちの姿に改めて気持ちを引き締めたのか、これ以上何も言わず、ただ吐き捨てるように言葉を選んで会話を続ける。
「女ひとりに、男どもが集まって。みっともない」
「んだと、この」
「ルフスさん、抑えて」
まあそりゃそうだろう、という感情の発露だから、僕は使用人の鏡となりつつあるルフスさんに、どうどう、と続き、話も続けるように僕は視線だけで促す。
その意味がわからないはずがないのだ、獣人、かつ、貴族社会のある国ならば。
「……はあ、わかったよ。
まったく……」
お姉さんは渋々ながら、僕の無言に解答した。
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