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おでかけ、とはいえ……いいのかな?
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「……どうしました?」
「あぁ、うん」
出かけて良いのかな? という考え自体、普通とはかけ離れている。
(よくよく振り返ってみると、僕、すべて報告してから動いていたなあ)
何も言わず、内緒でやっちまったのは娼館へと突撃したことぐらいだ。
(……あれ? 僕って模範的な貴族になってる……?)
怖い。いつの間にか、ヴォル家の教育方針にしっかと染まっていたみたいだ。こわやこわや。
昔は近場にもひとりであちこち歩き回ってもいたし、なんなら悪友と夜遊びだってしていたというのに、なんという人生の変化か。もともと籠るのは苦手ではないのが災いしたか。
(学校と家との往復……まさしく学生の本分通りに生きているけど……)
「リヒト様はあまり外を出歩かれない生活を送られている、
と他の使用人たちからも話を聞いておりますので、
それで………差し出がましいかもしれませんが出歩くのも良いかと」
(おや? これって……僕って、引きこもりが好きな獣人だって思われてる?)
ルフスさんの発言によって、僕はヴォル邸の出不精だと思われていたことにショックを受けたため、近場へと繰り出すことにした。多分、いきなり娼館へと突発的に動くのが良くなかったのだろう、執事からも近所のおすすめお散歩コースをレクチャーされた。なんだろう、このはじめてのお使いならぬ、はじめてのお散歩感。
(確かに僕って陰キャだけどさあ)
そこまで人を拾ってくる変な人だろうか。
いや、変な獣人だな……。
(フリードとヴォル邸の皆様の懐の深さに感謝しよう)
ちなみに、見張りっぽい視線はひしひしと感じている。
聖職者2名、騎士っぽいのが2名に兵士が5名。大所帯だ。付かず離れずの場所にいる。僕が娼館へ(以下略)したのが微妙に響き、警戒心はいつもより倍ある様子。僕みたいな獣人を護衛するってなかなか面倒だと思うが、彼らはきちんと職務を全うすべく、ゆっくりとした速度で歩く僕とルフスさんの動きに合わせている。
「……こんな簡単に出られると言うのに、
僕はまったく気づきもしなかったなあ」
「ヴォル家の教育もなかなか大変だったとお聞きしておりますので、
その新たな環境に慣れるのが大変だったのではないでしょうか?」
「うーん、まあ、それはそうかもしれない」
言われてみれば、僕は勉強しかしていないや。
今、僕とルフスさんは(背後にプラスアルファの護衛を含め)貴族街を散策している。
とてつなく塀が、長い。
そのため、とんでもなく、暇である。
「……全部、壁だから、つまらないね……」
「そうですね」
敷地面積が広いので、金があり、格式高い貴族の家ほどどこまでも壁が続いていく。
足元にはゴミひとつ落ちてなく、門兵らしきものがちろり、とこちらに視線を向けるけれども、また真っ直ぐに顔を前に向けている。明らかに僕たちのほうが見目もそうだが、格式が高すぎるからだ。
ルフスさんもそうだけど、うしろの人々も、格好のどこかにヴォル家の家紋が書かれているので。
(みてみぬふりをする……とても貴族らしい礼儀だ)
というか、お偉い貴族ほど僕みたいに歩きはしないし馬車の中だが、どことなく気まずい思いをしつつも、ルフスさんの先導により、貴族街はほどなく抜けきり(意外と近い)、アパートメントのような場所が出てきた。
「ここは?」
「使用人たちの家族や、あるいは老後、もしくは……、
貴族が希望して人を住まわせる一帯です」
「あぁ、うん」
出かけて良いのかな? という考え自体、普通とはかけ離れている。
(よくよく振り返ってみると、僕、すべて報告してから動いていたなあ)
何も言わず、内緒でやっちまったのは娼館へと突撃したことぐらいだ。
(……あれ? 僕って模範的な貴族になってる……?)
怖い。いつの間にか、ヴォル家の教育方針にしっかと染まっていたみたいだ。こわやこわや。
昔は近場にもひとりであちこち歩き回ってもいたし、なんなら悪友と夜遊びだってしていたというのに、なんという人生の変化か。もともと籠るのは苦手ではないのが災いしたか。
(学校と家との往復……まさしく学生の本分通りに生きているけど……)
「リヒト様はあまり外を出歩かれない生活を送られている、
と他の使用人たちからも話を聞いておりますので、
それで………差し出がましいかもしれませんが出歩くのも良いかと」
(おや? これって……僕って、引きこもりが好きな獣人だって思われてる?)
ルフスさんの発言によって、僕はヴォル邸の出不精だと思われていたことにショックを受けたため、近場へと繰り出すことにした。多分、いきなり娼館へと突発的に動くのが良くなかったのだろう、執事からも近所のおすすめお散歩コースをレクチャーされた。なんだろう、このはじめてのお使いならぬ、はじめてのお散歩感。
(確かに僕って陰キャだけどさあ)
そこまで人を拾ってくる変な人だろうか。
いや、変な獣人だな……。
(フリードとヴォル邸の皆様の懐の深さに感謝しよう)
ちなみに、見張りっぽい視線はひしひしと感じている。
聖職者2名、騎士っぽいのが2名に兵士が5名。大所帯だ。付かず離れずの場所にいる。僕が娼館へ(以下略)したのが微妙に響き、警戒心はいつもより倍ある様子。僕みたいな獣人を護衛するってなかなか面倒だと思うが、彼らはきちんと職務を全うすべく、ゆっくりとした速度で歩く僕とルフスさんの動きに合わせている。
「……こんな簡単に出られると言うのに、
僕はまったく気づきもしなかったなあ」
「ヴォル家の教育もなかなか大変だったとお聞きしておりますので、
その新たな環境に慣れるのが大変だったのではないでしょうか?」
「うーん、まあ、それはそうかもしれない」
言われてみれば、僕は勉強しかしていないや。
今、僕とルフスさんは(背後にプラスアルファの護衛を含め)貴族街を散策している。
とてつなく塀が、長い。
そのため、とんでもなく、暇である。
「……全部、壁だから、つまらないね……」
「そうですね」
敷地面積が広いので、金があり、格式高い貴族の家ほどどこまでも壁が続いていく。
足元にはゴミひとつ落ちてなく、門兵らしきものがちろり、とこちらに視線を向けるけれども、また真っ直ぐに顔を前に向けている。明らかに僕たちのほうが見目もそうだが、格式が高すぎるからだ。
ルフスさんもそうだけど、うしろの人々も、格好のどこかにヴォル家の家紋が書かれているので。
(みてみぬふりをする……とても貴族らしい礼儀だ)
というか、お偉い貴族ほど僕みたいに歩きはしないし馬車の中だが、どことなく気まずい思いをしつつも、ルフスさんの先導により、貴族街はほどなく抜けきり(意外と近い)、アパートメントのような場所が出てきた。
「ここは?」
「使用人たちの家族や、あるいは老後、もしくは……、
貴族が希望して人を住まわせる一帯です」
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