どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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嵐の予感

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 「お茶、ごちそうさまでした」
 
 僕が淹れたお茶ではないが、きちんと礼をするあたり、良い人すぎるルフスさん。
行き当たりばったりではあったとはいえ、人を見る目があることに我ながら内心自画自賛していると、

 「まずは、その。
  自由の身にしていただき、ありがとうございます」
 「あ、いえいえ」

 ぺこり。
本当に善き人だなあ、この人。
 馬車に乗ってるときも、明らかに年下である僕に対し、感謝の言葉を何度も重ねていた。
なんとも義理堅い人である。
 
 「それで、その。
  申し訳ないのですが……俺、あの世界でしか働いたことがなくて」
 「あー」

 そういや、ストリートチルドレンしてた、っていってたもんね。
しかもほぼ人攫いの被害者ストーリーを経て、今、巡りに巡って奇妙な縁というか、僕の前にいる。

 「申し訳ないのですが、
  もし、仕事の口、あれば教えてほしいのです。
  その……、夜の世界の仕事しか知らないので……」

 (そういえば、そこのあたりの話、詰めてなかったな……)
 ルフス青年からすると、僕はいきなり現れて希望する身請けをしてくれた人だが、同時に、生活の保証も実はして欲しかった、のだろう。……そう思うと、なんだか申し訳ないのはこちらのほうな気がしてきた。
 (しかも身請け後、正体表したし)
 彼からしてみれば、今後の生活の保障をしてもらえる算段でいたのだろう。
それが、こんな未成年の学生である。貴族とはいえ、権力はなく、あるのはフリードリヒの嫁(候補)という立場でしかない。

 「そうですね……」

 正直、この世界に職業案内所があるって話は聞いたことがない。
あるのはただ、代々受け継がれた貴族みたいな職業や、獣人らしく同じ一族同士で仕事を共有してたり、あるいは学校……(かつて人間だった女性の考えによって)つくられた貴族学校は、よくよく思い返してみると、職業訓練に近いのかも知れなかった。卒業しなければ貴族になれない、というわけではないが、男は卒業して当たり前ではあるので、僕も仕方なく登下校だ。
 
 「自由さえ与えていただけたら、どんな仕事でも、
  俺、やり遂げて見せますから。
  チカラには自信があります」

 (確かに、僕の力に抵抗を素で行えるほどの、
  獣人としてのパワーはあったなぁ)

 「その。
  貴族、として、必要な接待とか、
  ……そういった話があれば、
  俺を便利に使ってもかまいませんので……」
 
 ぎょっとした。
しかし、そこまで考えていたのか。
 改めて彼を見つめると、ルフスさんは真顔である。
 悩ましい顔をしているが、本気なのだろう。
大人として、生活をひとり、するにあたり、真剣に考えている。
 (僕のような、中途半端なやつとは違う……)
 熱が違う。
 (……前世の僕も、ここまで生きることに対し、
  あがいたことは、なかったな……)

 「ですので、どうか……自由を与えるだけ与えて、
  見捨てるとか、そういったことは……!」
 「え、そんな人でなしなことはしませんよ!」

 立ち上がった彼は、テーブルを回り込んで僕の方へとにじりより、

 「どうか、どうかお願いします。
  俺、どうやって生きていけたらいいか……」

 僕の片手を、両手で掴んだ。
 (そうだなあ……)
 そりゃあ、そうだよね。
 将来の不安。わかる。わかるよ。
僕だって、未来はどうなるかはわからない。でも、食べていけるだろう、という当然だという気持ちでいた。なぜなら、僕は獣人なので。いざとなれば生き延びれるのだと確信している。
 引き換え、ルフスさんは……男性にしてはしゅっとしていて、すべすべの肌。指にはペンだこはなく、字の学習すらない。弟子入りするにはとうがたちすぎているし、男娼の仕事以外、したことがないのなら、雑用だって未知数だ。不安がるのも無理はない。
 (貯金、というものすら、ないだろうし)
 手持ちの荷物も軽く、ヴォル邸で腰掛けしつつ、僕の手伝いをしてもらったら良いかも知れない。
 ただ、その前に、門番がいるけど……。

 カッカッカッ、といつもなら穏やかな靴の音なのに、苛立たしくがなりたてる足音。
 なんでか大型猫の彼の靴にはヒールがあり、もし、これで軍服なぞ着てしまったら女王様だろうなあ、とこっそり思っていた彼が、僕とルフスさんのいる客間へと近づいている。

 間違いない。
 (これは、激おこだ)

 バンッ、と扉が開く。
どうやら彼自らぶしつけにも戸を開いたものらしい、オロオロとしている使用人と、ケロッとしている執事殿がいた。なんてこった、(執事どの……)恨めしい目で見つめていると、澄まし顔である。

 婚約者殿の、お出ましであった。
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