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モブおじさんは、地味だけど巧妙で光明なる獣人(ルフス視点
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「ここで働いていたという男娼が、いたらしいのだが。
ローラン・グアランという貴族に引き取られた、という……」
ピルクのことを知りたがる彼に、取引を持ちかけることにした。
あらかじめ感情移入しやすいように俺は自分の幸薄い人生を語り、同情を招き、ピルクの情報と共に俺を手にいれることの損得勘定をも呼び覚ます。
(どんな手段を使ってでも)
俺を受け入れてさえくれれば、この夜に浸された体をいくらでも使ってもいいし、誰にだって回してもいい。商売人の取引として、上客に差し出してもらっても構わない。俺は仕事をきちんとするし、自由という名の場所を提供さえしてくれれば、それで。
もういい加減、飽き飽きとしていたのだ、この牢屋のような場所に。
死にたくはないが、いい加減、死にゆく子を見続けるのは辛いのだ。俺も歳だ、体を酷使してきたから寿命も短いだろうし、子も持てないだろう。
(見知らぬ遠いところで、子供がいるかもしれないが……)
男娼の子供を望むものなど万が一いたとしても、父親が男娼だったなんて話、漏れ出るはずもない。買われた父の子種で生まれただなんて、母親の胸のうちにしまっておくのが一番である。
(そう、愛人、という立場が大変具合がよろしい)
世間体の悪い身なれども、日陰の身ぐらいにはなれるだろう。
色仕掛けという商売道具の使い道を実践し、俺は一か八かの人生を転がして……自由を得た。
いつもは渋い男娼の主も、机の上にどんと置かれたお金の量に、目の色を変えている。
(……音からして、売れっ子ですら身請けできるのでは?)
と思えるほどの額である。目の前で数え始めたケチな主は、相手の気持ちが冷めやらぬうちに、とばかりにさっさと売買契約書の書き込みをしはじめる。
(あの紙に書かれると、身請け、身請けだ、身請けされる)
文字は読めないが、長年、形式や紙の様子をつぶさに観察していた俺はごくりと生唾飲み込み事態を見守る。男娼の館の主は、あの紙を後ろの物書きの置き場にずっと蓄えている。知っている。人の数だけ、用意されているということも。簡略化された書類だが、契約書であることはわかっている。
俺には使えない、ただそれだけ。
(俺は学がないから……)
そこにどんな文字を書けば良いかわからないし、処理の方法だって存じ上げない。
お役所に持って行くのか、それとも娼館のもっとお偉いさんのところへ持って行くのか。
俺は知っている、この娼館自体がお貴族様の経営で黒字であることも。
(そして、役に立たない男娼を売り払うのも、
最後まで搾り取るためであるということも)
誰にも知られず、干からびて死ぬのは嫌だった。
せめて、誰にも……誰のものでもない身を味わいたかった。
「取引です、旦那様。
旦那様はピルクを知ることができる。
俺は、自由な世界を見てみたい……」
自由の空、の空気を吸う。
高い空は、晴れ渡っていた。
ローラン・グアランという貴族に引き取られた、という……」
ピルクのことを知りたがる彼に、取引を持ちかけることにした。
あらかじめ感情移入しやすいように俺は自分の幸薄い人生を語り、同情を招き、ピルクの情報と共に俺を手にいれることの損得勘定をも呼び覚ます。
(どんな手段を使ってでも)
俺を受け入れてさえくれれば、この夜に浸された体をいくらでも使ってもいいし、誰にだって回してもいい。商売人の取引として、上客に差し出してもらっても構わない。俺は仕事をきちんとするし、自由という名の場所を提供さえしてくれれば、それで。
もういい加減、飽き飽きとしていたのだ、この牢屋のような場所に。
死にたくはないが、いい加減、死にゆく子を見続けるのは辛いのだ。俺も歳だ、体を酷使してきたから寿命も短いだろうし、子も持てないだろう。
(見知らぬ遠いところで、子供がいるかもしれないが……)
男娼の子供を望むものなど万が一いたとしても、父親が男娼だったなんて話、漏れ出るはずもない。買われた父の子種で生まれただなんて、母親の胸のうちにしまっておくのが一番である。
(そう、愛人、という立場が大変具合がよろしい)
世間体の悪い身なれども、日陰の身ぐらいにはなれるだろう。
色仕掛けという商売道具の使い道を実践し、俺は一か八かの人生を転がして……自由を得た。
いつもは渋い男娼の主も、机の上にどんと置かれたお金の量に、目の色を変えている。
(……音からして、売れっ子ですら身請けできるのでは?)
と思えるほどの額である。目の前で数え始めたケチな主は、相手の気持ちが冷めやらぬうちに、とばかりにさっさと売買契約書の書き込みをしはじめる。
(あの紙に書かれると、身請け、身請けだ、身請けされる)
文字は読めないが、長年、形式や紙の様子をつぶさに観察していた俺はごくりと生唾飲み込み事態を見守る。男娼の館の主は、あの紙を後ろの物書きの置き場にずっと蓄えている。知っている。人の数だけ、用意されているということも。簡略化された書類だが、契約書であることはわかっている。
俺には使えない、ただそれだけ。
(俺は学がないから……)
そこにどんな文字を書けば良いかわからないし、処理の方法だって存じ上げない。
お役所に持って行くのか、それとも娼館のもっとお偉いさんのところへ持って行くのか。
俺は知っている、この娼館自体がお貴族様の経営で黒字であることも。
(そして、役に立たない男娼を売り払うのも、
最後まで搾り取るためであるということも)
誰にも知られず、干からびて死ぬのは嫌だった。
せめて、誰にも……誰のものでもない身を味わいたかった。
「取引です、旦那様。
旦那様はピルクを知ることができる。
俺は、自由な世界を見てみたい……」
自由の空、の空気を吸う。
高い空は、晴れ渡っていた。
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