どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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モブおじさんは、地味だけど抜けてる男の子(ルフス視点※男娼時代の話もあり)

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 あと、どれぐらいの生きていられるのか。

 「ふう」

 昨日も何人かと性交をした。
こんな背ばかり伸びた男を望む客はそれなりにはいて、この年齢になると後ろよりも前を所望されることが多い。相手は男ばかりではなく、女性も多々。

 「歳はとりたくないねぇ」

 性検査は月に2回ほどするが、運が良いのか一度もかかったことがない。
俺よりも一回り小さい子ばかりがよくかかっている。おそらくだが、体格的な面と免疫、それと夜での仕事が年若いこには辛いのだろう。俺だって幼い頃、水揚げのときは痛くて悲しくて、汚れたことが何より辛くて。心までも澱んでしまった。
 (でも、でもここにさえいれば、食べていける)
 服だって、商売道具だからこそ綺麗な服を毎日与えられている。
お金はすべて取り上げられているが、たまの楽しみで手ぐさみに何かを買うことは推奨されている。心ばかりの予算だが、それを楽しみに仕事に励む子らもまた多いというもの。この館の主は、本当に人の心の隙間に入り込むことがうまい。だからこそ、金稼ぎができるんだろう。人を売って、食べていく。
 
 ぽかり、ぽかりと浮かぶ白い雲。

 狭い空から見上げる風景も、昔から変化はない。
子供のころ道端で不貞腐れていたところを拾われ、その大人に良いところがあると連れて行かれ……まあ、このざまだ。確かに良いところではあっただろう。あのまま路傍にいたら、死んでいただろうから。
 (けど……)
 こんな人生、いったいなにが良いのだろう、とも思う。
時間が刻々と過ぎて行くのを楽しくない、と過ごしながら……年齢を重ねるたびに聞こえる、下げ渡し、の声。
 (……先輩方が売られていった先は、
  こんなトコロほど、良いところではない……)
 寝話にどこぞの髭面の親父がいっていた話では、前にココで買っていた男娼が小汚いまま転がされて、安い値段で身売りをさせられていた、と……。
 もっとひどい話だと、山奥にあるという鉱山で日が出ている間は発掘作業に、そして夜には鉱山夫に良いように使われている、と、どこぞのお役人が俺に掘られながら話してたっけ。立場上、掘られる側にはなれないからこういうところで発散しているんだ、と笑っていたが……。
 
 「はあ……」

 とはいえ、俺がここから離れられる機会なぞ……。

 「あるはずもない、か……」

 学もなければ、働く意欲もない。正直、こうしてダラダラしながら身売りをするぐらいにしか能のない年齢になってしまった。今更、どこで働けるというのだろう。俺のこの体は、しんなりとしていて、肌艶も良いと評判だが、お日様のしたで汗水垂れ流して働いていない賜物だ。夜、働いている男の体なのだ、鬻ぐ身には朝日はまぶしかろう。

 「……」

 静まり帰っている室内に、少し、近づいてきた小さな足音。
振り返ると、
 
 「おや」

 そこには、入りたての小さな子がいた。
モジモジとしている。見知らぬ世界に急に連れられてきた子だ、まだ夜の世界に慣れていないのだろう。

 「……おいで」

 呼ぶと、子はきた。
傍においてあったお菓子を与えると、嬉しそうに頬張る。

 「よしよし」

 頭を撫でてやる。
 柔らかな髪のまあるい頭の形の新人。
 (……この子も、どれぐらい持つだろうか)

 もう、数えきれない子を、年下の子を送り出してきた。
獣人だから、それなりに放っておけば大概は治るが、しかし、性病や心を壊した子だけはどうにもならなかった。

 
 そんな一生を閉じ込められ、寿命が尽きる前に死ぬだろうと消極的に考えてきた日々に、一条の光が差し込んだのは、その日。唐突なことだった。


 普段よりも寝付けなくて、といっても日の光が部屋に差し込んできたので目が冴えた、ともいうけれども、天井ばかり眺めていたら、誰かの匂いがしたのだ。
 (誰……?)
 掃除の人、だろうか?
 ずいぶんと年のとった、元男娼が掃除夫として再雇用され、ここに入り浸りしているが、しかし、彼ではないようだ。たまの世間話と、シモの世話を少しだけしてやればあのおじいさんはそれなりに良いことをしてくれる。
 ただ、加齢臭が違う……。
あの年代の、あの沁みるような臭気ではない。
 押し込み強盗をするにはいかつい護衛がしっかりと門番をしているし、不審者……と呼べるものは……。
 (客か?)
 
 ぱっと輝いた光は、たちまちにおさまった。
部屋の扉が閉じられたのだ。

 布団から半分体を起こし、該当の箇所を思い切って見やれば、そこには恰幅の良い、それでいて、すっとした……ここ最近、暇さえあれば見上げていた青空の色を切り取った瞳を持つ、胡散臭い男がいた。
 顔のシミやたるみ、体のだらしない腹回りは年齢的に太っちょだが、しかし身だしなみは成金そのものだ。
けれど、違和感のある男でもあった。
 (……なんと、良い匂いのする男か)
 妙に、気になるのである。
それでいて、油断のできない……どこか、夜の気配を纏うものの、獣人でもあった。
 たまに、そういった客もいた。
そういった客はもう二度とこないが、しかし、この男は……。
 (手放すな、と)
 俺の直感が、ささやいた。
 唯一の、機会だ、と。
 この人生、ただひとつの。
 
 光だ、と。
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