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さすが高級店、格が違った

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 「どうぞ、ご主人様」

 整った顔の男性が、専用の制服をぴしっと身に付けて立っていたのに気づいたのは、扉を開きながら僕を招いてくれたときである。ドアマンだ。

 「ど、どうも……」

 夜会か、裕福な家ぐらいにしか(貴族含む・ヴォル家には専任はいない)存在しない伝説のドア職人にペコりと頭を下げ、(そういえば使用人として働いている友人曰く、ドアマンは来客の顔を覚えていないといけないから大変だと聞いていた)とてもじゃないが僕ではできない仕事だと感心しながらも、誘われて扉の中へと足を踏み入れた。
 
 (わ)

 声には出さないが、なるほど。
確かにここは、貴族向けの店舗だった。

 広々としたロビーから上は吹き抜けになっており、コーヒーの匂いがした。
 (そうそう、コヒーだった)
 絶妙に名称が異なるものの、黒い飲み物が一般的に流通している。僕は苦味がダメなお子ちゃま舌なので、この匂いを楽しめる年齢ではないと自負しているが(前世含め)……ああ、すごい。

 「喫茶店だ」

 それどころか、階層になっている。
吹き抜けのロビーから見上げると、段々となっているのがわかり、それぞれの階を仰ぎ見ることができた。
 1階は、喫茶店。
 2階は、服屋っぽい。
 3階は……そうだ、あれは土産ものだな。
 (4階にも人の気配があるけれども) 
 シークレットなのかもしれない。
よくこういう貴族向け、上客の富裕層向けに用意する場所、ってのはどこのお店にも存在するから……すなわち、ここは総合店舗、俗に高級デパートなんだろう。
 (だから、人によって買い物の仕方が違うのか)
 予約が必要ならどうしよう、と少しだけ心細い思いでいたが、なんてことはない。
 TPOさえ弁えていれば入れるようだったから。
 ちら、と後方を見やれば、つい先ほど潜った扉のところで、また新たな客がドアマンによって招かれている。
服装からして富裕層。そして、それ以外を見た目でシャットアウトしている。僕の格好は貴族学校の制服なので、合格、とみなされたといっていいだろう。なまじ爆走の馬車の、それも家紋つきでやってきたから威圧されてしまい、いれてもらったと勘違いするところだった。
 (偽装しようかと思ったけど、買い物を理由にするんだから、
  隠す必要もないし)
 しかし、ずいぶんと人が多い……前世おける高級総合デパート、駅前! といった立地の良い首都圏のよりは全然こじんまりとしているが、それでもそれなりの人の出入りはあった。
 
 「これはこれは、シルル家のお嬢様。
  ようこそおいでくださいました」

 様子を伺っていると、人の合間から見え隠れしているお姫様ルックな人が。
 彼女はドアマンに名前を呼ばれただけじゃなく、おそらく支配人? っぽい、ダンディなおじさまが汗だくで走りより、彼女を上層階へと誘導していった。なるほど、やはりあの部屋かな? と思いつつ、せっかくだから茶でも……と喫茶店へと入室した。案の定、周囲は貴族客でいっぱいで、まるでお上りさんのような僕を見る目は厳しかったが(基本、若者がひとりでくるようなところではなかったようだが)それでも店員は親切に振る舞い、なんとマナーのできたところだと僕は感動した。
 (そういえば下町以外で、こうしたお店に気軽にきたの初めてかも)
 そもそもウインドウショッピングだって、今生では生まれて初めてかもしれなかった。呼べばくる、そういったご贔屓のお店をもつヴォル家だし、僕の生家・ガーディアン家は金はさほどあるはずもないので、既製品を買いにひとっぱしりで決まったものを買いに行くだけ。あるいはお下がり。ほぼお下がり。それしかない。
 出てきた丸いマフィンのような甘いお菓子と、高級ロル茶をしばいている最中、上層階でそれなりに人数がうごめいているのをかぞえながら、さて、婚約者殿にはどういったものを買って、それを口実に……算段する。
 
 うん。
 どう考えても……。
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