上 下
65 / 128

選択した

しおりを挟む
 選択は無難に三つ目にした。

 ただ、問題は貴族用の高級な店、に行く表向きの用事がないということ。
僕のライフスタイルに散財する理由もなければ、趣味もない。健康的に生きて3食昼寝できれば最高、という人生にくたびれたかのような日々を送っている。なんも面白味のない学生である。彼女もいない。いや、彼氏はいるか……(強引だったけど)婚約者だけど、いつの間にかできちゃったよ。勢いって怖い。

 (外観フェチじゃ、理由にならないか)
 
 ここは無難に、散歩したい、じゃ……ありえないな、僕は歩く趣味がないので、授業が終わったら即時撤退、馬車にインする生活スタイルである。とてつもなく学生の時間を無駄にしている獣人だが、別に本物のリア獣じゃないし、いや、リアル獣人だけど、いわゆる陽キャじゃないのだから仕方ない。
 
 「……金だけはあるのになあ」
 
 羽振りの良いヴォル家のおかげで、僕には婚約者様予算が組まれている。
そのため、用立てなどいくらでも外商呼べるしわざわざ出向かなくても買い物など可能なのだが、普段からそういった振る舞いをしてこなかったせいで急に金遣い荒くなる、というのも野暮というものである。あのフリードなら、喜びそうだが……。

 「あ、そうか」

 すっかり忘れていたが、彼は婚約者である。
それでいて、僕はもらってばかりなのだ。年齢差に加え、彼の方がひと足先に社会人なので、そりゃあ、そうだろうとしかいいようがないが、まあ。

 「プレゼント、という方法があるか」

 思い立てば即決、無駄にある行動力を発揮し、僕は授業終わりに速攻で廊下を爆進、馬車へ軽やかに座った。普段よりやや早めに着席したため、御者が驚いて、「ど、どうしたんですかい、リヒト様」と大いに慌てている。
 少しタバコ臭いので、彼は一服していたのだろう。思ってたよりも、僕は彼の休憩時間を奪ってしまうほどに手早く来てしまったようだ。失敗。平然としているつもりだが、いつもの日々に多少の面白みを見つけてしまったため、足の速さがいつもの倍、進んでしまったようだ。
 うぉっほん、と年甲斐のない咳をして、僕はとある噂の貴族用高級店へと向かうようお願いする。

 「え、え、え、ご主人様に? 
  え、え、ええええっ、は、ははいっ、これは一大事!
  わたくしの命に代えましても、必ずたどり着いてみせますとも!」
 「え、え、別にそこまで一生懸命にしなくてもい」
 「ハイヤー!!」

 御者の使命感に駆られた手早い手綱が、とてつもなく素早い動きで持ってひゅんじゅん唸る。
馬も、尋常ではない世話人の動きに動揺走らせたが賢い、馬主一体となって普段より凄まじい軽やかな走りでもって、周囲に圧をかけながらひた走る。すわ、何事か、と往来を歩く人々は驚異の眼差しで持って、ヴォル家の家紋がついた馬車を凝視している……。

 僕はただひたすら、身を小さくして存在を消すことに注力した。



 大いに活躍してくれた馬と御者によって想定していたよりも早く到着したが、過去一派手な登場となってしまった。振り返ると、汗をかいている馬と御者がいる。キラキラと輝くつぶらな瞳の馬と目が合う。
 (悪くない、彼らが悪いわけじゃない)
 彼らにお礼をいい、労った。

 「ありがとうございます」
 
 なんのこれしき、な嬉しげな御者と、誇らしげな馬。馬に至っては湯気がでている。
 (……)
 僕は何も準備もせず、店舗へと足を向けた。
 (正直、何の店かすら知らない)
 高級店へ。いざ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...