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グアラン家の本性
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貴族名鑑には、数世代前の獣人らの名前と種族名が記載されている。
ところどころ飛び飛びだったり、不明な点もあるにはあるが、歴史的に仕方のない部分ではあるとして……。
「鳩」
「鳩でございますれば」
グアラン家は貴族では珍しい鳥類であった。獣人、では別段珍妙ではない、むしろ普遍的に存在するものなのだが、強さと優雅さを求める貴族の、鳩。それも土鳩(ドバト)。普通に鳩である。絵柄もきちんと描かれている。丸い額縁のような枠のど真ん中にドバト。そこいらの公園にいる鳩の顔つきだ。丸いフォルムでだいたいちょろついている。
「へぇ……。
そういえば、鳥の獣人って前に見覚えあるなあ、それも……」
空を飛行する鳥類、を見た覚えがある。
「夜中に」
「鳥目なのに、それは珍しいですね」
「うん」
野鳥は空を飛ぶものだが、月明かりのない星空の中を飛ぶ鳥類なんぞ、獣人以外にいない。
したがって、獣化するほど何か嬉しいことがあったのか変身したくて飛んでいたのか。リヒトは鳥じゃないので不明だが、羽ばたきたかったのだろう。見て見ぬふりをした。
(多分……あれ、鳩だったなあ)
リヒトもリヒトで、気まぐれに空へ物理的に飛びあがることはあるが、疲れるので移動手段は馬車で優雅に足を休めることに終始している。そもそも歩くことすら面倒だが、それをいうと息をするのも面倒だろう? と言われてしまい、友ともども組み手のような喧嘩に陥ってしまう。そのようなストレス発散の経緯を経ての邂逅……だったような、まさかの夜中の鳥(鳩っぽい)とは。リヒトは訝しんだ。
(まあ、どうでもいいか)
獣人なんてあちこちで盛っている。
その帰りぎわのことだったのかもしれなかった。
(鳩に好かれる獣人って、どんな獣人なのか)
前世のおかげで、鳥類をみると、どうにもスーパーに並ぶむき身の鶏肉を思い出してしまい、なんとも言えない気持ちになってしまうリヒトである。夕方になると安くなるんだ……前世における嗜みである。
(しかし……て、なると)
フリードは大型の肉食獣の猫だから……ええと。
(いや、でも)
食料、だもんな……。
鳥の、それもフリードリヒからしてみたら小型の鳥でしかない鳩氏に……?
「げふっごふん」
「リヒト様?
どうされましたか、果物が喉に詰まりましたか」
「え、あうん……ごめん、ちょっとね。
大丈夫、ん」
だめだ、考えるな。感じろ……。
(いや、駄目だろう……)
惨殺されそうな鳩さん……かわいそう……。
(多分、捕食者の目をしてたのかも……フリード)
なんの、とは言わないでおこう。本能で………やめろ、自分。僕は生きるんだ、駄目だ、考えるな。
本性でたら大変な関係性である。猫って獲物の首根っこ咥えて仕留め……。
「げふん、しかし、その。
よく生き残れましたね、その、王家に叛逆なんてして。
鳩氏……ごふ」
「ええ。そうですとも。
王家の温情ですございますとも。
長年の苦労をしてきたグアラン家への労りもございますれば、まあ、
積年の恨みもあったのやもしれません、反旗を翻したのは。
……根本的に、横暴な面はありますので。
貴族ですから」
「ああ……まあ、尊大な貴族の中に……鳩だもんね……」
そう思えば、何やらその鳩氏がなんだか可哀想になってきた。
グアラン家総出で頑張ってコツコツと生きてきたんだろう。情報収集、は戦時において大事とはいえ、現実は力を振るうものが強い。強すぎる。
「本当に、一度しか会わなかったんだね、フリード」
「はい。なんでも、違った、らしいとのことで……。
リヒト様?」
僕は、天を仰いだ。
(……何も聞かなかったことにしよう)
ところどころ飛び飛びだったり、不明な点もあるにはあるが、歴史的に仕方のない部分ではあるとして……。
「鳩」
「鳩でございますれば」
グアラン家は貴族では珍しい鳥類であった。獣人、では別段珍妙ではない、むしろ普遍的に存在するものなのだが、強さと優雅さを求める貴族の、鳩。それも土鳩(ドバト)。普通に鳩である。絵柄もきちんと描かれている。丸い額縁のような枠のど真ん中にドバト。そこいらの公園にいる鳩の顔つきだ。丸いフォルムでだいたいちょろついている。
「へぇ……。
そういえば、鳥の獣人って前に見覚えあるなあ、それも……」
空を飛行する鳥類、を見た覚えがある。
「夜中に」
「鳥目なのに、それは珍しいですね」
「うん」
野鳥は空を飛ぶものだが、月明かりのない星空の中を飛ぶ鳥類なんぞ、獣人以外にいない。
したがって、獣化するほど何か嬉しいことがあったのか変身したくて飛んでいたのか。リヒトは鳥じゃないので不明だが、羽ばたきたかったのだろう。見て見ぬふりをした。
(多分……あれ、鳩だったなあ)
リヒトもリヒトで、気まぐれに空へ物理的に飛びあがることはあるが、疲れるので移動手段は馬車で優雅に足を休めることに終始している。そもそも歩くことすら面倒だが、それをいうと息をするのも面倒だろう? と言われてしまい、友ともども組み手のような喧嘩に陥ってしまう。そのようなストレス発散の経緯を経ての邂逅……だったような、まさかの夜中の鳥(鳩っぽい)とは。リヒトは訝しんだ。
(まあ、どうでもいいか)
獣人なんてあちこちで盛っている。
その帰りぎわのことだったのかもしれなかった。
(鳩に好かれる獣人って、どんな獣人なのか)
前世のおかげで、鳥類をみると、どうにもスーパーに並ぶむき身の鶏肉を思い出してしまい、なんとも言えない気持ちになってしまうリヒトである。夕方になると安くなるんだ……前世における嗜みである。
(しかし……て、なると)
フリードは大型の肉食獣の猫だから……ええと。
(いや、でも)
食料、だもんな……。
鳥の、それもフリードリヒからしてみたら小型の鳥でしかない鳩氏に……?
「げふっごふん」
「リヒト様?
どうされましたか、果物が喉に詰まりましたか」
「え、あうん……ごめん、ちょっとね。
大丈夫、ん」
だめだ、考えるな。感じろ……。
(いや、駄目だろう……)
惨殺されそうな鳩さん……かわいそう……。
(多分、捕食者の目をしてたのかも……フリード)
なんの、とは言わないでおこう。本能で………やめろ、自分。僕は生きるんだ、駄目だ、考えるな。
本性でたら大変な関係性である。猫って獲物の首根っこ咥えて仕留め……。
「げふん、しかし、その。
よく生き残れましたね、その、王家に叛逆なんてして。
鳩氏……ごふ」
「ええ。そうですとも。
王家の温情ですございますとも。
長年の苦労をしてきたグアラン家への労りもございますれば、まあ、
積年の恨みもあったのやもしれません、反旗を翻したのは。
……根本的に、横暴な面はありますので。
貴族ですから」
「ああ……まあ、尊大な貴族の中に……鳩だもんね……」
そう思えば、何やらその鳩氏がなんだか可哀想になってきた。
グアラン家総出で頑張ってコツコツと生きてきたんだろう。情報収集、は戦時において大事とはいえ、現実は力を振るうものが強い。強すぎる。
「本当に、一度しか会わなかったんだね、フリード」
「はい。なんでも、違った、らしいとのことで……。
リヒト様?」
僕は、天を仰いだ。
(……何も聞かなかったことにしよう)
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