上 下
58 / 98

最近の噂話って嘘なのか真なのか

しおりを挟む
 以前、フリードが薬にしてやられたことを僕は思う存分根に持っていたので、行方不明、というキーワードに僕の拳がぶんぶんと唸りそうになった。鎮まれ、僕の左腕。
 薬の出元先をボコボコ希望は僕の気持ちも合間って高まるが、まずはこのロル茶を飲み干して、と。
 (王子殿下、が話題になるのはこの国の常だけれども)
 ウサギの王子様。
 彼は僕が別に気にしなくても、勝手に話題に出てくる超有名人だ。
 今まで派手に動いていたというのに、最近はあんまり調子が良くない、という噂。
 (……よくわからないが、単に夜会に出なかっただけのような)
 そんな気がする。
 というか、あの王様の息子だしな……。
 (あんまり関わりたくない)
 ベロベロ王の衝撃さはいまだに記憶している。
 なんとなしに感じてはいることだが、王家はどうにも……厄介な気がするんだよね……。
 (なので、王子様関連は、パス)
 それより気になるのは、獣人が行方不明、についてだ。

 獣人にはもともと戸籍がなかったので(野生の本能で生きてきたようなところあるし、そもそもの話、文字の文化すらなかった)つい数世代前ぐらいしかそういった個人を特定するような文章はあり得なかったため、獣人ひとりいなくなった、としたら一族が総出で探す、ということになる。
 
 (獣人は、コミュニティ強だからなあ)
 別枠もいるにはいるが、大概はなんらかのファミリーに所属している。
 だからこそ、行方不明、という噂のわりに、騒ぐ一族がいない、というのはおかしい。

 「グアラン家、か……」

 そういえば、どこかでその名前、見た覚えがあるなあ……。



 「……おや、リヒト様。
  おかえりなさいませ」
 「ただいま」

 ロマンスグレーな執事はいつも僕を迎えてくれる。
いったいどこに耳と目があるのかわからないが、使用人としての仕事があるにも関わらず、こうしてわざわざヴァル家玄関口までやってきてくれる彼の凄さ。主人であるフリードリヒのみならず、未来の嫁(婿)にも最初っからこうしてにこやかな態度をとってくれるので僕としてはありがたい存在だが、ヴァル家の裏方筆頭としての実力が垣間見えて、たまに怖い。

 「……あの前にみた手紙、持ってきて欲しいんだけれども……」

 おずおずとだが、僕は彼にお願いした。
すると、たちまちに、
 
 「ようございますとも」

 すぐに破顔し、憩いの居間に用意された。
 (さすがは凄腕の執事……)
 貴族名鑑もある。恐るべし。
 ふぅ、とまずは椅子に座り、人心地がついてから……銀のお盆にわざわざ手配してくれた手紙の束を上から順に見ていく。うん。あった。

 「グアラン家の、三男ですか」

 ちょうど執事が茶菓子を持ってきてくれたので、僕はその手紙をひらひらと見せてやり(別に隠す必要もないし)、彼の話を改めて聞くことにした。

 「ふむ……そうですね。
  確かに最近、噂は聞かない獣人ですね……。
  あんなに出ずっぱりなお人、そうそういないというのに」
 
 誰もがしるほどに遊び歩いていた獣人だったが、とんと姿をみせない。
それは逆に怪しい、といえる。

 「行方不明、かな……?」
 「さて、どうでしょう。
  とうとう愛想尽かされて追放されたかも……いえ、
  そうはならないでしょう。
  あのグアラン家ですから」
 「……その。
  聞きづらいことを、お尋ねするんだけれども……」
 「ええ、かまいません。
  どうぞ」
 「……えーと……」

 (フリード本人に聞かないで、別の人に聞くのは野暮かもしれないが)
 でも、一応はね。
 
 気を取り直し……。

 「ん、ごほんっ」

 僕の婚約者フリードリヒと、グアラン家三男坊の関係性について、尋ねた。その詳細について。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病み男子

迷空哀路
BL
〈病み男子〉 無気力系主人公『光太郎』と、4つのタイプの病み男子達の日常 病み男子No.1 社会を恨み、自分も恨む。唯一心の支えは主人公だが、簡単に素直にもなれない。誰よりも寂しがり。 病み男子No.2 可愛いものとキラキラしたものしか目に入らない。溺れたら一直線で、死ぬまで溺れ続ける。邪魔するものは許せない。 病み男子No.3 細かい部分まで全て知っていたい。把握することが何よりの幸せ。失敗すると立ち直るまでの時間が長い。周りには気づかれないようにしてきたが、実は不器用な一面もある。 病み男子No.4 神の導きによって主人公へ辿り着いた。神と同等以上の存在である主を世界で一番尊いものとしている。 蔑まれて当然の存在だと自覚しているので、酷い言葉をかけられると安心する。主人公はサディストではないので頭を悩ませることもあるが、そのことには全く気づいていない。

深刻にならないのが取り柄なオレが異世界をちょっとだけ救う物語

左側
BL
自宅で風呂に入ってたのに、気付いたら異世界にいた。 異世界には様々な種族が住んでる。 異世界には男しかいないようだ。 異世界ではなかなか子供が出来ないらしい。 うまくヤレば、イイ思いをした上に異世界をちょっとだけ救えるかも知れない。  ※  ※  ※  ※  ※  ※ 妊娠・出産率の低い異世界で、攻め主人公が種付けするだけの話です。 種族はたくさんありますが、性別は男しかありません。 主人公は貞操観念が乏しいです。 攻めですが尻を弄られることへの抵抗感も乏しいです。 苦手な人はご注意ください。

元暗殺者の少年は竜人のギルドマスターに囲われる

ノルねこ
BL
暗殺者の少年は、魔王討伐メンバーで、今は冒険者ギルド・ライムギルドのギルドマスターをしている竜人レオンハルトの暗殺に失敗し、彼に所属していた暗殺者ギルドを壊滅させられる。 行き場を失った名無しの少年、暗殺者ナンバーKはレオンハルトに捕らえられ、「ケイ」という名で冒険者兼ギルド職員として働き始める。 辺境のライムギルドの受付には色々な冒険者が来る。そんな冒険者たちとの触れ合いと、冒険者生活、自分のことをつがいだと言って口説いてくるレオンハルトとのまったりスローライフを不定期連載でお送りします。 レオンハルト(魔王討伐メンバー、元SSS級冒険者、ギルマス、竜人)×ケイ(元暗殺者の少年、ギルド受付と冒険者兼業) 軽いふれあいはありますが、本格的なえっちは後半です。別カプにはあります。作者はレオンハルトに「執筆スピード上げてケイを早く成人させろ!」と怒られた! 作中のおまけと補遺を後書きで登場人物がしてくれます。本文より長くなる場合も…。 ※BLはファンタジー。竜や竜人の生態は全て作者の創作です。チキュウやニホンなど、似たような名前が出てきますが、実際の地球や日本とは名前が似ているだけの別物です。 別サイトでも掲載中。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

推しに監禁され、襲われました

天災
BL
 押しをストーカーしただけなのに…

子育て騎士の奮闘記~どんぶらこっこと流れてきた卵を拾ってみた結果~

古森きり
BL
孤児院育ちのフェリツェは見習いから昇格して無事に騎士となり一年。 ある魔物討伐の遠征中に川を流れる竜の卵らしきものを拾った。 もしも竜が孵り、手懐けることができたら竜騎士として一気に昇進できる。 そうなれば――と妄想を膨らませ、持ち帰った卵から生まれてきたのは子竜。しかも、人の姿を取る。 さすがに一人で育てるのは厳しいと、幼馴染の同僚騎士エリウスに救助要請をすることに。 アルファポリス、BLoveに先行掲載。 なろう、カクヨム、 Nolaノベルもそのうち掲載する。

処理中です...