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そう、それはまるで海割。技も決めたよ、多少のストレスは解消された。
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「おはようございます、ご婚約おめでとうございます!」
「ご婚約、おめでたいです!」
「おめでとうございます、リヒト様!」
まるで前世における海割りのように、貴族の塊が見事に分かれた。僕の前で。
「あ、ありがとう……」
僕はそれしか言えないでいる……。
(同級生に様付けで呼ばれるってどうなの)
基本的に友人以外と話すことはないので、いきなりこう、気軽に話しかけられてくる社交性の高い貴族子息たちの元気の良い挨拶や格式ばった社交辞令にどう答えればいいのか口が窮し、もごもごとしている間にさっさと足を動かせばいいか、と思い直し、らしくもない笑みを口元に湛え、大いに大股でやや駆け足気味に歩く。
馬車を乗り付ける入り口からしてこうなのだから、これから先進めば進むほどどうなることやら。
僕は生唾を飲み込み、覚悟した。
またも、人の波が、割れた。
(うっ……)
僕の消化器官が悲しげに悲鳴を上げる。
(やめてくれ、せっかくヴァン家で美味しい朝ご飯食べたばかりなのに……)
小心者には辛い。
授業、早く始まってくれ……頼む……。
席に着くと、どうにか遠巻きながら人が離れていった。
それでも、四方八方からの視線がこう、キシキシと……。
先生まで僕の婚約をまるで雲上人のように褒め称えてくれた。
「ど、どうもありがとうございます……」
もう、それしかいえない……。
(しかし、こんなにもフリードの影響が強いとは)
僕は白目を剥きそうになりながらも、なんとかレポート提出をし、なんでか文字を褒められてそれなりに授業を受け、またも人の波をすいすいと間を通って歩き、どうにか本日の学業を終えた。疲れた。
(貴族の友人はいるにはいるけど)
残念ながら、僕の学ぶ学科とは違うコースにいったのだ。
しかも今日、遭遇しなかったし……もしかしたら遠慮したのかもしれなかった。僕と同じで地味面だしな……。僕がもし友人の立場であれば、こんな派手に目立つやつと会話したくないし。噂の的になりたかない。類友だからよくわかるぞ、その気持ち。
どうにかヴァル邸へと這々の体で帰宅し疲れた体を癒した。
しばらくこんな調子で人の中を歩くようになったが、獣人とはいえ慣れるもので、話題の中心が別の方へと向かった途端、僕のことは、高貴な人と婚約した獣人、という扱いになった。
多少は前よりもマシになったといえよう。
そこでようやく、類友がおずおずと近づいてきた。
「遅まきながら、ご婚約おめでとうございます、リヒト坊ちゃん」
「ありがとう。
……なあ、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、屋外いかないか?」
「うっ、やっぱり?」
「ああ」
僕は大いに頷くと、負い目を感じているらしい友は渋々ついてきた。
誰もない校舎の物影であることを確認し、ついでに能力でもって、あたりの気配すら感じ取った僕は、思う存分、友人へバックドロップを決めたのだった。
「リヒト様、おかえりなさいませ。
……ん? どうされましたか、その泥は」
「ただいま、ああ、これ……、
ちょっとね、久しぶりに友人孝行したんだ」
「友人……?」
「ツノが生えてる大型の牛獣人でね、
良い衝撃を当てることができたよ。
友人も張り切っててなかなかのどすこいだよ」
「どすこい……?」
執事は不思議そうに首を傾げていたが、のちに帰ってきたフリードにも聞かれなんでか背後をとった話をしたあたりで興奮し、嫉妬していた。なんでだ。
「ご婚約、おめでたいです!」
「おめでとうございます、リヒト様!」
まるで前世における海割りのように、貴族の塊が見事に分かれた。僕の前で。
「あ、ありがとう……」
僕はそれしか言えないでいる……。
(同級生に様付けで呼ばれるってどうなの)
基本的に友人以外と話すことはないので、いきなりこう、気軽に話しかけられてくる社交性の高い貴族子息たちの元気の良い挨拶や格式ばった社交辞令にどう答えればいいのか口が窮し、もごもごとしている間にさっさと足を動かせばいいか、と思い直し、らしくもない笑みを口元に湛え、大いに大股でやや駆け足気味に歩く。
馬車を乗り付ける入り口からしてこうなのだから、これから先進めば進むほどどうなることやら。
僕は生唾を飲み込み、覚悟した。
またも、人の波が、割れた。
(うっ……)
僕の消化器官が悲しげに悲鳴を上げる。
(やめてくれ、せっかくヴァン家で美味しい朝ご飯食べたばかりなのに……)
小心者には辛い。
授業、早く始まってくれ……頼む……。
席に着くと、どうにか遠巻きながら人が離れていった。
それでも、四方八方からの視線がこう、キシキシと……。
先生まで僕の婚約をまるで雲上人のように褒め称えてくれた。
「ど、どうもありがとうございます……」
もう、それしかいえない……。
(しかし、こんなにもフリードの影響が強いとは)
僕は白目を剥きそうになりながらも、なんとかレポート提出をし、なんでか文字を褒められてそれなりに授業を受け、またも人の波をすいすいと間を通って歩き、どうにか本日の学業を終えた。疲れた。
(貴族の友人はいるにはいるけど)
残念ながら、僕の学ぶ学科とは違うコースにいったのだ。
しかも今日、遭遇しなかったし……もしかしたら遠慮したのかもしれなかった。僕と同じで地味面だしな……。僕がもし友人の立場であれば、こんな派手に目立つやつと会話したくないし。噂の的になりたかない。類友だからよくわかるぞ、その気持ち。
どうにかヴァル邸へと這々の体で帰宅し疲れた体を癒した。
しばらくこんな調子で人の中を歩くようになったが、獣人とはいえ慣れるもので、話題の中心が別の方へと向かった途端、僕のことは、高貴な人と婚約した獣人、という扱いになった。
多少は前よりもマシになったといえよう。
そこでようやく、類友がおずおずと近づいてきた。
「遅まきながら、ご婚約おめでとうございます、リヒト坊ちゃん」
「ありがとう。
……なあ、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、屋外いかないか?」
「うっ、やっぱり?」
「ああ」
僕は大いに頷くと、負い目を感じているらしい友は渋々ついてきた。
誰もない校舎の物影であることを確認し、ついでに能力でもって、あたりの気配すら感じ取った僕は、思う存分、友人へバックドロップを決めたのだった。
「リヒト様、おかえりなさいませ。
……ん? どうされましたか、その泥は」
「ただいま、ああ、これ……、
ちょっとね、久しぶりに友人孝行したんだ」
「友人……?」
「ツノが生えてる大型の牛獣人でね、
良い衝撃を当てることができたよ。
友人も張り切っててなかなかのどすこいだよ」
「どすこい……?」
執事は不思議そうに首を傾げていたが、のちに帰ってきたフリードにも聞かれなんでか背後をとった話をしたあたりで興奮し、嫉妬していた。なんでだ。
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