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 その答えは数日後、王宮からの使いの者によって明かされる。
玄関口。ヴァル家に仕える者たちとともに、僕と婚約者殿は構える。一応は国を代表する王様なので、敬意を示さねばならないからだ。朗々と読み上げられるそれ。ヴァル家当主であるフリードリヒの前で開封されたお手紙によれば、どうやら僕は婚約者として認められた様子だ。安堵の息が漏れる周囲と違い、

 「ふふ、当然ですね」

 ニコニコと微笑むフリードはご機嫌である。
僕の肩を抱きながら、

 「披露宴はどこにします?」

 などと言い始める。
気が早い……。

 「僕はまだ学生の身分ですので……」
 
 腰が引けているのを気づいているのかわざとなのか、がっちりと僕の肩を強く握りしめる握力はなかなかのものだ。

 「はぁ……そうなんですよね……。
  リヒは可愛いのが辛い……。
  嗚呼……どうしてリヒは年下なんです?」
 「そう言われても」

 エメラルドの瞳がいかにも悲しげに訴えてくる。
男とはいえ美人の代名詞を持ち合わせている彼が寂しげに顔を傾け、僕の頭に擦り付けてくる感じ、本当に苦しそうで、王家からきた使いの人も感化されてしまい、今にも泣きそうな表情に……僕もいろんな意味で辛い。

 「明日から僕は学校なんで」
 「うう……リヒぃ……行かなくてもいいのに」
 
 (それはダメでしょう)
 僕は無言で抵抗の意を示すと、婚約者どのはさらに悲壮感を増した顔で、うるうると……。
 さらに感化された王宮使いの人も、ダメ出ししてきた。

 「あのー、退学してもよろしいのでは? 
  ヴァル卿がここまで心を傷められるなんて。
  リヒト様はそこまで卒業にこだわるような身分でも……」
 「いやです」
 
 前世からの習いのせいか、僕は卒業したいのだ。
そりゃあ、獣人はあちこちで盛るから卒業前に退学するものも多い。だからといって僕まで同じように、となるのは断る。僕は女ではないからだ。
 (同性同士の婚姻は少なからずあるとはいえ……)
 学士の身分ぐらいは持っておきたい。
 (それに……)
 ちら、と良い匂いのする婚約者どののほうを見やれば、彼もまた目と目を合わせて嬉しげに好意を示してくれている。今は、そうだ。だからこそ僕はこの婚約を受け入れていられるのだが、もしこれが見捨てられでもしたら。
 (相手の好意の上に成り立つ婚姻。
  それも同性)
 少しぐらい、保険は持ちたいのは人として当然のこと。
 貯金だってそれなりになければ不安だ。
 (……僕はひとりだ。
   だから、これぐらい、慎重でちょうどいい)

 ……だよね。


 発布とある意味同義な婚約式は、学校が始まってしばらくして長期休みがあるので、それにあわせて行うことが決定された。まだ学生の身分である僕には気が重いが、仕方ない。
 (はぁ……憂鬱だ)
 貴族の学校ではそれなりに成績が優秀なので単位は落としたくはないのでレポートは頑張ったが、貴族たちの反応だけはどうにもならない。なまじ社交を気にしないで生きてきたので、どういった反応がくるか……。
 (いや、知らない……といいなあ)
 だったらよかったけれども。
 僕は貴族、の情報収集能力を完全に舐めていた。
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