どうしよう、俺の公子様がXXに。

王族とは2

　「まあ……」

　母は驚くようなそぶりをして見せたが、

　「けれど、そうでしょうね。
　　そういう話はたびたび出てはいました。
　　王家、の噂は」
　「うむ。まあ不敬ではあるから言わないだけだが」

　想像はしていたのだろう、両親は頷いている。そりゃそうか。
一応子爵の家ではあるので、それなりの噂は聞き及ぶ。
　脳筋な獣人とはいえ考えることぐらいはあるのだ。何も下半身ばかりが発達しているわけじゃない。
　（いやある意味発達してるのかな……？）
　子孫を残す、という本能と理性を選択しているのだから。

　「兎の一族はその本性の通り寿命が短いのが欠点ですが、
　　それを補いあまりある性欲があります。
　　子沢山、という性質があり、
　　後宮に必ず入宮されてしまうのも、
　　その恩恵を得るためといわれております」

　フリードの父は言いながら、猫髭を撫でる。

　「元は娼婦の代名詞のような種族でしたが……」
　「あなた」
　「おや、失礼」

　フリード母が眉を顰めながら肘を軽く夫に突きつけ、さすがに言いすぎたと、咳をして誤魔化す。

　「随分と出世したようで」

　ごふんごふん、と今度は僕の父が咳をして遮った。
一応は雇用主なので……大元の。

　おほほ、うふふ。

　とりあえず、場の空気を温めようとする奥方同士のサラウンドが室内をこだました。

　


　フリードリヒ父は、息子の大事な場面を壊しにきた兎の王を随分と嫌ってしまい、言葉遣いが随分と刺々しい。
　（さもありなん）
　それは、僕にも同意だ。
せっかくの顔合わせでもあるというのに、親戚代表の王様がとんでもない失態をしでかしてくれたのである。血筋の大元の不始末とはいえ、いくらなんでもとフリード猫顔父は怒っているのだろう。紳士が怒ると怖いものがある。
　（まったく……）
　ただ、話の流れで出てきた獣人の王様には不憫さはあるにはあった。
　
　「……陛下には困ったところはありますが。
　　きちんと職務には励まれていますから、
　　失敗にはそれなりに目を瞑りましょう。
　　それなりに」
　
　フリードもそれなりにプンプンしていたようだが、同情するに値する内情はあるらしい。
なんでも、龍人という強い種族から兎の獣人という、か弱い種族が主流となったことで、とてもじゃないが正気ではいられないのではないか、という話だ。
　（……そうなのかなあ？）
　僕は疑問に思った。
フリードの言う通り、仕事はちゃんとしている。
貴族の前では常に王様、という態度を示していた。

　「あぁ、あれは……」

　苦笑気味に、フリードはつまびらかにした。

　「強いものが獣人らを代表とする貴族となっていましたから。
　　特に肉食がほぼすべてであり、
　　その王となると、ウサギが苦手とする敵性種族に囲まれるようなものですからね……。
　　特に、我々のような猫科目はウサギを餌と認識していますし、古来より」

　だから態度だけはでかく表明しなければならなかった。
　（そう考えると……）
　何やら不憫ではある。
考えてみると、貴族たちは高位になればなるほど、そりゃあ、確かに強いものばかりだった。
　兎を捕食するのが容易な獣ばかりだ。

　「だから王は威勢よく威張ってないといけないのですよ。
　　それが彼らの本能ですから」