52 / 188
王族とは1
しおりを挟む
神妙な顔をしているのは、僕だけじゃない。
僕の両親もだ。父母はなんだかんだで空気を読むタイプなので、目配せしあい、おずおずと尋ねてきた。
「……その話、私たちが聞いていい話なのでしょうか?」
母は立場上の含みをもって懸念しているようだ。
フリードの父は、
「なぁに、かまわないことですマダム」
と軽く肩をすくめる。
寝腐っている王と二人組を一応は客間に通して扉の前にはしっかりと見張りを置くように、と慣れた口調で執事に命じている時、ウルフ顔の父が一瞬背筋がぴっと伸びたのは職業病なんだろうか。
「……では、場所を変えましょう。
ちょうど、ムラサキユカリの花が見頃なのです」
適当に運ばれている感のある三人組が撤収されている間、我々は移動することになった。
ーーーーヴォル邸、本邸。
僕たちは馬車で移動し(金があるというのはいいことだなあ、と思うし、通り過ぎていく使用人たちの数を思うと何も考えないようにしようとも思慮する僕は小心者だし面倒くさがりだ、差配の役はやりたくないと考えてしまう……ああ、いやだな下っ端貴族の気儘な息子のままでいたかった……)余計なことをうっすらと巡らせつつ、普段から整えられてある客間へと足を運ぶ。
窓には、紫色の丸い花がグラデーション鮮やかに色をにぎやかにみせていて、紫陽花かあ、と異世界ならではの花の名称変化に脳内が翻訳する作業を嫌がっていたことを思い出して苦みを感じた。
「……リヒ?」
なんでもない、と僕はフリードからの視線に応え、椅子に座る。
隣には婚約者どの。品の良い猫足が丸テーブルを支えており、家具としてもヴォル邸の足並みを揃えている。
「では、どこまで……そうですね。
まずはあの王の経緯から」
「……普段はしっかりとした態度でいらしてるから、
ずいぶんと驚かれたでしょう」
「む、うむ……」
ウルフな父の反応から、もしかして門兵の間では、王家のあの王の態度は知らなかったのだろうか?
至極ごもっともな疑問は、母の頷きからも、そういえば貴族として夜会にも出席していた僕としても、あの王のご淫行……といっていいだろうな、態度は驚きを禁じ得なかった。
(獣人の王として挨拶もしっかりしてたし)
認知症、というにはまだ若い。
王子はいるが、かなり多いのは……。
(ご乱心は何も王様だけじゃないし)
王のあの乱れた姿で思い出したのは、ウサギの王子のことである。
「王家の本流はウサギになったのは、先先代あたりだ。
……龍人ではあったのだ、かつては」
ところが、つがい制度の崩壊によって王家は危機に瀕した。
すなわち、子供ができなかったことにある。
(このことは僕がヴォル邸にきて、奥方教育として教わっているさわりだ)
龍人はあまりにもつがいにこだわった。
なまじ、人生が長く、何千年も生きる王であったからしてーーーー
「ようやくできたつがいが短命ではあったものの、
子が生まれれば長い人生を耐えることができたのだ。
しかし……子が生まれる前に亡くなってしまったら……、
つがいができる前に子をと後宮を作ったりもしたが、
つがいに嫌われたくないと一途になっていった王家は次第に、
数を減らしていった」
独身主義が跋扈したのは、人間の妃がつがいになったため、と考えられている。
(なるほど……人間の考えが、龍人の価値観を変えたのか)
たまに噛みちぎられた龍人もいるけど……。
「これではいかんと、つがいを複数持てるような制度を取り入れたり、
習慣を作った結果、主流が逆転し、
結果的にウサギが王家の主流となったのだ」
僕の両親もだ。父母はなんだかんだで空気を読むタイプなので、目配せしあい、おずおずと尋ねてきた。
「……その話、私たちが聞いていい話なのでしょうか?」
母は立場上の含みをもって懸念しているようだ。
フリードの父は、
「なぁに、かまわないことですマダム」
と軽く肩をすくめる。
寝腐っている王と二人組を一応は客間に通して扉の前にはしっかりと見張りを置くように、と慣れた口調で執事に命じている時、ウルフ顔の父が一瞬背筋がぴっと伸びたのは職業病なんだろうか。
「……では、場所を変えましょう。
ちょうど、ムラサキユカリの花が見頃なのです」
適当に運ばれている感のある三人組が撤収されている間、我々は移動することになった。
ーーーーヴォル邸、本邸。
僕たちは馬車で移動し(金があるというのはいいことだなあ、と思うし、通り過ぎていく使用人たちの数を思うと何も考えないようにしようとも思慮する僕は小心者だし面倒くさがりだ、差配の役はやりたくないと考えてしまう……ああ、いやだな下っ端貴族の気儘な息子のままでいたかった……)余計なことをうっすらと巡らせつつ、普段から整えられてある客間へと足を運ぶ。
窓には、紫色の丸い花がグラデーション鮮やかに色をにぎやかにみせていて、紫陽花かあ、と異世界ならではの花の名称変化に脳内が翻訳する作業を嫌がっていたことを思い出して苦みを感じた。
「……リヒ?」
なんでもない、と僕はフリードからの視線に応え、椅子に座る。
隣には婚約者どの。品の良い猫足が丸テーブルを支えており、家具としてもヴォル邸の足並みを揃えている。
「では、どこまで……そうですね。
まずはあの王の経緯から」
「……普段はしっかりとした態度でいらしてるから、
ずいぶんと驚かれたでしょう」
「む、うむ……」
ウルフな父の反応から、もしかして門兵の間では、王家のあの王の態度は知らなかったのだろうか?
至極ごもっともな疑問は、母の頷きからも、そういえば貴族として夜会にも出席していた僕としても、あの王のご淫行……といっていいだろうな、態度は驚きを禁じ得なかった。
(獣人の王として挨拶もしっかりしてたし)
認知症、というにはまだ若い。
王子はいるが、かなり多いのは……。
(ご乱心は何も王様だけじゃないし)
王のあの乱れた姿で思い出したのは、ウサギの王子のことである。
「王家の本流はウサギになったのは、先先代あたりだ。
……龍人ではあったのだ、かつては」
ところが、つがい制度の崩壊によって王家は危機に瀕した。
すなわち、子供ができなかったことにある。
(このことは僕がヴォル邸にきて、奥方教育として教わっているさわりだ)
龍人はあまりにもつがいにこだわった。
なまじ、人生が長く、何千年も生きる王であったからしてーーーー
「ようやくできたつがいが短命ではあったものの、
子が生まれれば長い人生を耐えることができたのだ。
しかし……子が生まれる前に亡くなってしまったら……、
つがいができる前に子をと後宮を作ったりもしたが、
つがいに嫌われたくないと一途になっていった王家は次第に、
数を減らしていった」
独身主義が跋扈したのは、人間の妃がつがいになったため、と考えられている。
(なるほど……人間の考えが、龍人の価値観を変えたのか)
たまに噛みちぎられた龍人もいるけど……。
「これではいかんと、つがいを複数持てるような制度を取り入れたり、
習慣を作った結果、主流が逆転し、
結果的にウサギが王家の主流となったのだ」
21
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。

王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる