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落ち着、いた?
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(門兵は王城を守護するのが仕事なので、その中で働いている(多分)人のひとりでもあり、王様でもある彼をボコるのはいかがなものか……)
と思うも、母の心情を鑑みれば嬉しさと切なさがないまぜになる。
「母さん……」
「リヒト、こういうのは最初が肝心なのです。
良いですか、舐められてはいけません。
突破力があるのは最初の一撃、それも弱点を狙い澄まして再起不能にさせればよろしい」
(何やら痴漢対策のような……)
しゅっ、しゅっ、とボクシングポーズをとる母を宥めようとする父。
フリードリヒのご両親は執事を交えてコソコソと耳打ちをし合い、王太子がどうの、ヴァン家お抱えの、実家からの応援、などと謎の戦略を練り始めている。猫目がギラリと光っている。怖い。
「フ、フリード」
僕は一縷の望みをかけて、隣にいる婚約者どのに助けを求めた。
彼は僕の期待に応えたものか、ひとつ、頷き。
「父上、母上。
王城は上からの投擲、すなわち空からの攻撃が一番適していると思います」
「フリード!?」
期待外れの答えに、僕は大いに彼の名前を大声で呼んでしまった。
「大丈夫ですよ、リヒ」
にこ、といつもの笑顔にどこか慈愛を帯びた彼の顔には、わかっている、という誇らしげなものさえ滲んでいた。
「子供の頃にはよく、
王城には奥深いところまで遊びにでかけておりましたし、
……恥ずかしながら、王家主催の夜会にも出ずっぱりな時期もありましたから。
失敗はありえませんよ、確実に仕留めて見せます」
攻城戦をどうにか押し留めた頃には、好き勝手していた王様はお酒ですっかり出来上がっており、二人の男女もまた王の両隣を陣取ったままだらしなく眠っていた。一体何をしにきたんだ……。僕は真実、それだけが聞きたい。
(いびきまでかいてるし……)
気持ちよさそうに鼻ちょうちんまで……いや、なんだこの王様は。いやがらせか。
「……すまないな、リヒトくん」
「お義父様」
「……ありがとう、こんな息子の嫁に……改めて、礼を言う」
猫髭がぴくぴくと微動している。
白、っぽいがよく見ると透けた色の、シルバーっぽい色合いだった。
「王族、同じ一族とはいえ……。
本家本元の王の一家もまた、苦悩があった。
まあ……こんな振る舞いをするほど、落ちぶれてはいるが……チッ」
親戚相手に舌打ちしている……。
「本当に。王家とは厄介な家ですこと」
「ふぅ……まあ、一応はお祝いにきたんだろう。
この二人……はともかく」
義理母も、なんともいえぬ神妙な猫顔でもって、潰れるどうしようもない親戚の寝顔を見下ろしている。
……まあ、確かに。
僕だって、知っている。
「はい……王家、の本流の話が絡んでるんですよね」
「ああ、リヒトくんの言う通りだ」
と思うも、母の心情を鑑みれば嬉しさと切なさがないまぜになる。
「母さん……」
「リヒト、こういうのは最初が肝心なのです。
良いですか、舐められてはいけません。
突破力があるのは最初の一撃、それも弱点を狙い澄まして再起不能にさせればよろしい」
(何やら痴漢対策のような……)
しゅっ、しゅっ、とボクシングポーズをとる母を宥めようとする父。
フリードリヒのご両親は執事を交えてコソコソと耳打ちをし合い、王太子がどうの、ヴァン家お抱えの、実家からの応援、などと謎の戦略を練り始めている。猫目がギラリと光っている。怖い。
「フ、フリード」
僕は一縷の望みをかけて、隣にいる婚約者どのに助けを求めた。
彼は僕の期待に応えたものか、ひとつ、頷き。
「父上、母上。
王城は上からの投擲、すなわち空からの攻撃が一番適していると思います」
「フリード!?」
期待外れの答えに、僕は大いに彼の名前を大声で呼んでしまった。
「大丈夫ですよ、リヒ」
にこ、といつもの笑顔にどこか慈愛を帯びた彼の顔には、わかっている、という誇らしげなものさえ滲んでいた。
「子供の頃にはよく、
王城には奥深いところまで遊びにでかけておりましたし、
……恥ずかしながら、王家主催の夜会にも出ずっぱりな時期もありましたから。
失敗はありえませんよ、確実に仕留めて見せます」
攻城戦をどうにか押し留めた頃には、好き勝手していた王様はお酒ですっかり出来上がっており、二人の男女もまた王の両隣を陣取ったままだらしなく眠っていた。一体何をしにきたんだ……。僕は真実、それだけが聞きたい。
(いびきまでかいてるし……)
気持ちよさそうに鼻ちょうちんまで……いや、なんだこの王様は。いやがらせか。
「……すまないな、リヒトくん」
「お義父様」
「……ありがとう、こんな息子の嫁に……改めて、礼を言う」
猫髭がぴくぴくと微動している。
白、っぽいがよく見ると透けた色の、シルバーっぽい色合いだった。
「王族、同じ一族とはいえ……。
本家本元の王の一家もまた、苦悩があった。
まあ……こんな振る舞いをするほど、落ちぶれてはいるが……チッ」
親戚相手に舌打ちしている……。
「本当に。王家とは厄介な家ですこと」
「ふぅ……まあ、一応はお祝いにきたんだろう。
この二人……はともかく」
義理母も、なんともいえぬ神妙な猫顔でもって、潰れるどうしようもない親戚の寝顔を見下ろしている。
……まあ、確かに。
僕だって、知っている。
「はい……王家、の本流の話が絡んでるんですよね」
「ああ、リヒトくんの言う通りだ」
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