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謀略なのか天然なのか

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 「……多少の暴力は許されるよね」

 物事を物理で解決するのは簡単だ。特に僕のようなものにとっては。
 後始末は面倒だが、なに、自分がやったとバレないようにすればいい。
 そろ、そろと後退りする彼らの動きを止めてタコ殴りしておけばいい。いつものことだし、心の友とは殴り愛だ。

 「ちょーっとだけ、変形するかもしれないけど。
  殴りづらそうなやつは、頭の毛をむしる。
  記憶も飛んで、一石二鳥だ」

 幸いにして演劇はまだ続いている。
多少の物音などまぎれるはずだ。




 からから、と車輪の音が回る音がした。
振動の様子から、舗装された道の上を走っていることを知る。

 「……リヒ?」
 
 目が覚めると、しっかりと掴んだ布の感覚、フリードリヒはどうやら何かに包まれていることを知る。
うっすらとした視界にはモヤがかっているけれども、そのまんまるな瞳にうつる、なんともいたいけな様子の自分はなんたることか。ぼやっとした意識も相まって、まっすぐに見上げたらみえた彼の顔がいつも通りで、なんともおかしいぐらい、嬉しく。

 「……リヒト……」
 「……もう少しで、邸宅につく。
  ……寝てていいです、公子様」
 
 なんでか彼は常だが、意識的に自分の名前を呼んではくれない。
 そこになんでか気掛かりとなり、苛立ちと共に不満を漏らした。

 「フリード、と」
 「……リードじゃないんだ……」
 
 リヒじゃ被るしな、とモゴモゴと口の中に呟いているらしいリヒトは、

 「わかりました、フリード」
 
 飲み込むようにして、呼んだ。




 「……はあ」

 小さなため息は、僕の喉の奥から。
なんとも、妙な塩梅になったと僕は心底思う。
 あれから、粗相をした奴らに制裁をし、駆けつけてきた警備らに引き渡した。見た目からして僕がやったとはバレないはずである。毛根無罪。
警備らの犯人は誰だという物言いに呑気だと思ったが、まあ……、この。追加された毛布で簀巻きにされた公子様にも問題がある。

 「髪の毛むしりてえ……」

 フリードリヒの頭皮に生える髪は、サラサラで。
触ると確かに猫毛で柔らかい。
 (さすがは猫科目)
 獲物を得るためならば、どんなに辛酸を舐めようが、じっと堪えるタイプだ。

 「あーあ……」

 僕の膝の上でスヤスヤと眠っているこの男、癖のある僕の婚約者。
ひどい男だ。僕も大概だが、この男もそうだ。
 さら、と指間に通り抜けていく彼の髪を楽しみながら、僕は、周囲に配置されている聖職者らの数が未だ減ってなくて警戒を怠っていないことにも、げんなりとした気持ちになる。
 
 
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