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遭遇I
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じーっと観察していると、彼は、
「んんっ、リヒ……、この手、
小さくて可愛いけど……、
私には刺激が強い……」
(今更何を言っているんだ)
と思わなくもない過去のあれこれを思い出したが、まあ、仕方ないとばかりに手放せば、ぴゃ、と勢いよく馬車の中でもっとも遠いところへと素晴らしい反射速度で離れた公子様、まるで威嚇するかのように僕から対向する位置でもって、謎に唸りながらも、ごほん、と咳をする。
「すまない……その。
しばし、待ってくれないか」
「ナニを?」
「……」
なんでか俯いたままでいる公子を放っておいて、僕は車窓を楽しんだ。
劇場は、見事な立体建築で、出入り口からしてご立派だった。
歴代の英雄や獣人たちの逸話まじりな彫刻が彩られ、飾りも本物の剣が持たされている、との話は昔、タイザーから聞いたっけ。あいつ英雄の名前を持たされるだけあって、英雄コンプなところがある。
長々とした階段が少しばかり伸びていて、人々の山が馬車から見えた……が、完スルーして走り去る。
(まあ、僕たちは裏口から入るとのことだ)
着飾った獣人らが吸い込まれるかのように入り込んでいくメイン出入り口をよそに、小さいながらも、どこか意味深な護衛らが立ち尽くす乗車場へ到着する。
少しばかりいつもの調子が戻った公子様が先に降り立とうとしたが、僕の方が出入り口が近いため、僕が先にステップへ。外へ出るための小さな階段を我れ先に下ったあと振り返り、彼に手を伸ばす。
「さ、お手をどうぞ」
「……!」
いくら婚約者とはいえ、無料で、それこそ僕の家であるところのガーディアン家では到底、こういった文化的生活なんて送ったためしはないので、そのお礼として、僕は貴人への対応を試みた。
おずおず、といった態ではあったが、ゆっくりと、僕の手のひらに、彼は手を重ねた。
大きな手だった。
硬さもあり、僕の手を覆い尽くせるほどの。
(……こんな人が、僕を好いているとは)
世の中の不思議というものは、いろいろあるものだ、と。
斜めな見方ではあるが、僕は、唇の端をムニムニとしている彼を見て、虫の好き好き、なる諺を頭の中でリフレインするかのようになぞる。
暖かな彼の手をそっと僕は、腕に回すと、公子は、さらに、んんっ、と喉を引き絞るかのような悲鳴のような小さな声を我慢していたがやっぱりダメだったらしく、終始、傍目からしてもわかるほど、たちまちに僕のほうへべったりと頼るようにして歩みを進めた。
……さすがに、僕の方が背が低いし、腕も伸ばしきれないから、彼の腰に手をやって、ごくごく一般的なエスコート、なるものまでは不可だが、腕を貸すぐらいはできる。
(……たまにはね)
ただ、やっぱり、身長差がありすぎるから、あんまりやりたくはない。
(それに……)
「おや、これはこれは。
フリードリヒ様ではありませぬか」
予想通り、ふらふらとやってくる害虫のひとり。
(くるだろうとは思っていた)
細長い、だが、しっかりと筋肉はついている、見目はそこそこ整っている獣人。
「貴殿は……」
公子も、ん? 誰だっけ、みたいな声色を……。
「失礼、どこぞでご挨拶申し上げたか?」
などと、本当に知らない、と言い始めた。横目で見やれば、麗しい真顔のままだった。マジか。
「な、何をおっしゃる。
あなたと、熱い夜を過ごしたというのに……」
わあ。
と声に出さなかった僕、偉いな。
わなわなと今にも震え出しそうになりながらも、僕のことなど眼中にない態度。もしかしたら僕のことなど見えていないのかもしれない……。
「は? 熱い?」
それでも公子は不思議そうに頭を傾けたが、僕には答えはわかる。
「な、お忘れですか?
あ、あんなにもわたくしめのこの、股間の逸物を……そのお口に入れて、
頬張って搾り取ったではありませぬか!」
「……そう、だったか?」
「なあっ!」
記憶力には僕はさほど自信がないが、確か、このショックを受けて膝落ちしているこの男は、公子と熱い夜を過ごしていたデバガメしてたときの、あいつではなかろうか。
「あー……、ご立派な逸物をお持ちの」
僕は思わず呟いてしまった。
多少暗かったが、まあ、見えるものは見えていた。
「んんっ、リヒ……、この手、
小さくて可愛いけど……、
私には刺激が強い……」
(今更何を言っているんだ)
と思わなくもない過去のあれこれを思い出したが、まあ、仕方ないとばかりに手放せば、ぴゃ、と勢いよく馬車の中でもっとも遠いところへと素晴らしい反射速度で離れた公子様、まるで威嚇するかのように僕から対向する位置でもって、謎に唸りながらも、ごほん、と咳をする。
「すまない……その。
しばし、待ってくれないか」
「ナニを?」
「……」
なんでか俯いたままでいる公子を放っておいて、僕は車窓を楽しんだ。
劇場は、見事な立体建築で、出入り口からしてご立派だった。
歴代の英雄や獣人たちの逸話まじりな彫刻が彩られ、飾りも本物の剣が持たされている、との話は昔、タイザーから聞いたっけ。あいつ英雄の名前を持たされるだけあって、英雄コンプなところがある。
長々とした階段が少しばかり伸びていて、人々の山が馬車から見えた……が、完スルーして走り去る。
(まあ、僕たちは裏口から入るとのことだ)
着飾った獣人らが吸い込まれるかのように入り込んでいくメイン出入り口をよそに、小さいながらも、どこか意味深な護衛らが立ち尽くす乗車場へ到着する。
少しばかりいつもの調子が戻った公子様が先に降り立とうとしたが、僕の方が出入り口が近いため、僕が先にステップへ。外へ出るための小さな階段を我れ先に下ったあと振り返り、彼に手を伸ばす。
「さ、お手をどうぞ」
「……!」
いくら婚約者とはいえ、無料で、それこそ僕の家であるところのガーディアン家では到底、こういった文化的生活なんて送ったためしはないので、そのお礼として、僕は貴人への対応を試みた。
おずおず、といった態ではあったが、ゆっくりと、僕の手のひらに、彼は手を重ねた。
大きな手だった。
硬さもあり、僕の手を覆い尽くせるほどの。
(……こんな人が、僕を好いているとは)
世の中の不思議というものは、いろいろあるものだ、と。
斜めな見方ではあるが、僕は、唇の端をムニムニとしている彼を見て、虫の好き好き、なる諺を頭の中でリフレインするかのようになぞる。
暖かな彼の手をそっと僕は、腕に回すと、公子は、さらに、んんっ、と喉を引き絞るかのような悲鳴のような小さな声を我慢していたがやっぱりダメだったらしく、終始、傍目からしてもわかるほど、たちまちに僕のほうへべったりと頼るようにして歩みを進めた。
……さすがに、僕の方が背が低いし、腕も伸ばしきれないから、彼の腰に手をやって、ごくごく一般的なエスコート、なるものまでは不可だが、腕を貸すぐらいはできる。
(……たまにはね)
ただ、やっぱり、身長差がありすぎるから、あんまりやりたくはない。
(それに……)
「おや、これはこれは。
フリードリヒ様ではありませぬか」
予想通り、ふらふらとやってくる害虫のひとり。
(くるだろうとは思っていた)
細長い、だが、しっかりと筋肉はついている、見目はそこそこ整っている獣人。
「貴殿は……」
公子も、ん? 誰だっけ、みたいな声色を……。
「失礼、どこぞでご挨拶申し上げたか?」
などと、本当に知らない、と言い始めた。横目で見やれば、麗しい真顔のままだった。マジか。
「な、何をおっしゃる。
あなたと、熱い夜を過ごしたというのに……」
わあ。
と声に出さなかった僕、偉いな。
わなわなと今にも震え出しそうになりながらも、僕のことなど眼中にない態度。もしかしたら僕のことなど見えていないのかもしれない……。
「は? 熱い?」
それでも公子は不思議そうに頭を傾けたが、僕には答えはわかる。
「な、お忘れですか?
あ、あんなにもわたくしめのこの、股間の逸物を……そのお口に入れて、
頬張って搾り取ったではありませぬか!」
「……そう、だったか?」
「なあっ!」
記憶力には僕はさほど自信がないが、確か、このショックを受けて膝落ちしているこの男は、公子と熱い夜を過ごしていたデバガメしてたときの、あいつではなかろうか。
「あー……、ご立派な逸物をお持ちの」
僕は思わず呟いてしまった。
多少暗かったが、まあ、見えるものは見えていた。
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