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そうか、レアものだ(雷)

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 そう、種族的に考えて。
公子様は猫科目なので、彼ではなかった、この雷は。
 
 「わ」

 僕は目撃してしまった。
バロ卿のこの雷は、まさしく種族的なものだった。獣人らしく、彼は本能に忠実で、かつ、敵対する相手を攻撃したくて、口を大いに開けて、そこから吹き出す雷は、まさしく竜の口。禍々しいブレスだ。
 
 (龍人!)

 そうか、だから彼はこんなにも大柄でパワーがあるのか!
と、感動している合間に、喉の奥から引き絞られるかのような火の粉と雷の激しさに、僕は直撃しそうになっていた。さすがにこれだけ近いとダメージは計り知れない。ゼロ距離である。きっと服はまるこげだし、なんなら頭の毛すら燃え上がりそうですらある。明日からハゲ頭か……修道院行く前に剃り上がっちゃうな。毛がなくて良かったね、とならなずに幸いなのは、電光石火の動きをしてみせた公子様のおかげであった。
駆け抜けてきたのはわかったけれど、一体何をするのかと待ち構えていたら、彼は、龍人の、とある箇所を。
 その長い足でもって、きっちりと蹴り上げたのである。
 昨日、散々に遊んでいたというか、遊ばれていたというべきか。
 振り切った公子様の足蹴の先は、的確に、昨日、負傷した龍人の股間を直撃していた。

 「あ」

 容易にその先の展開が理解できたため、バロ卿がよろめいた拍子に慌ててバックステップで彼らから離れて壁際に寄り、僕はしっかりと耳を塞いだ。
 コンマ秒単位。わりとすぐ攻撃されたらしい、つんざく悲鳴は、ガーディアン家のすべて、むしろこの地区一帯にずいぶんと響いたらしく、ご近所でもしばらくの間噂になった。
 龍人は、声すらも大きいな……逸物以外も。
というか、昨日のダメージ残ってるのに、公子様の護衛、っぽいことをしているということも気になるし、てか、大丈夫なんだろうか、あの息子さん……。
 不完全燃焼なのか、少しだけ口から煙が出たまま倒れ込むバロ卿。
 少し、哀愁が漂っている……。
漢らしい叫びがガーディアン家のなか中を反響しまわってしまったため、周囲の、それこそ公子の護衛ですら、頭を振って意識を取り戻そうとしている。誰も彼もがダメージを負った。

 「……」
 
 なんともいえない沈黙がその場を支配したが、鶴の一声はやはり、このお方だった。

 「バロ卿を、外へ運べ」
 「……は!」

 なんとも心地の良い低音が、しっかりと命令系統のトップであることを示している。
威厳すらある。命令することの慣れた口調が、彼の立場を思い知らされるが、さて。
 ちら、と僕は兄を見た。
 兄もまた、ちら、と僕を見下ろす。
 
 うん。
 僕らは血の半分しか繋がっていないけれど、互いに思っていることは一緒だ。
 
 (こええ……!)

 躊躇のない攻撃は、同じ男だというのに、一切、容赦なかった。
スピードと質量の乗った攻撃は、彼のしゅっとした体格からは想像できないぐらい、重いものだったからだ。
 ぴく、ぴくと微動だにしない龍人が大の字で家の外へと運ばれていこうとしている……のに、公子様はまったくもって、それに反応を示さなかった。悪びれた様子すらない。
 むしろ、彼が見つめているのは……。

 「う……」

 やはり。
たじろぐも、彼はしっかりと僕のほうへ少し近寄り、ぼそっと、

 「今日の格好、かっこいいな……」

 なんて、言うではないか。真顔で。

 「……」
 「……」

 仰ぎ見る公子様は、実に、真剣だった。

 
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