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夜会へ①

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 兄貴に「珍しいな、夜会なんて。よっぽど良い女がいるに違いない!」
などと、ついてこようとするのを回し蹴りで阻止しつつ、僕は身だしなみを整えた。カフスもばっちり。
 今回はおせっかい気味な友タイザーとの出場なので、気心知れた彼がいるという事実に兄貴も少しばかり気を使ってはくれたものらしく、珍しく「おう、楽しんでこいよ」とエールを送ってきた。いつもそうして淑してくれたら良いのになあ。ふさふさのしっぽが少し、垂れてたけど。

 「おう、きたか」
 「おうよ」

 いつもより早めにやってきた馬車には、タイザーの家紋が刻まれている。

 「最近作ったんだ!」

 などと誇らしげにタイザーは言うが、創作意欲マシマシで勝手に作っていいものか……? などと、王陛下の顔を思い出す。家紋は確か、徹底管理してるは……。あぁ、そうか。ここは獣人の国だしな……。
 嬉しそうなタイザーの背景に見え隠れしている商売っけの強い家族たちの顔を思い出し、口に出すのはやめておいた。基本、レア人間たちのモノマネで済んでる国だし……。

 考えても仕方ないことはやめ、しばし、この友人としょうもない話の打ち合いをしつつ……、今回の夜会の話になった。

 某貴族家の夜会だが、結構大掛かりだ。
庶民すら伝手があれば入れるという、いわば登竜門的な。

 すなわち……獣人の一般的、が流入するということは、概ね、人間の国では憚るようなことが横行するもので、僕は基本的に行きたくはなかった。あと知り合いに会うのが面倒。貴族としてのご挨拶もあるし。ただ、少しだけ興味深い話があった。
 もちろん、公子様の、その淫乱な噂を確かめる、ということもある。
それと同時に、人間、がいるという話だ。

 「基本、レア人間は王家が保護する仕組みでは?」

 そうなんだけど、とタイザーは濁しながら、しかし、なんでか噂として広まっている、という。

 「……ま、いたら面白いな、ってだけ」
 「ふぅん」

 王家は人間の子孫でもあるので、他大陸からやってきたであろう人間へ親近感が湧くものらしい。
法律で縛ってもいるので、あまりご無体なことをすると、王族からの叱責がくる。
 叱責だけならまあ安いものかもしれない。結構、あそこ激しい家だし。
歴史的に。
 (と、まあそれはともかくとして)

 問題は解答を得なきゃ。

 長い階段を登り、両扉の前へと立つ。タイザーと入場する。
 ここらへん、結構、ざっくばらんなのだ。獣人は。気楽で助かる。

 (人間社会だと、タイザーと僕がカップル扱いされてしまいそうで……おえっ)

 「ん? なんだ、どうした?」
 「なんでもないよ」
 「うさんくせえ笑顔だな……」
 「腕でも組むか?」
 「ゲロ吐きそう」
 「ははは、僕もだ」

 入場すると、ワイワイガヤガヤと、大いに盛り上がりを見せていた。

 「おおお、かなり多い……」

 タイザーがぼそりと思わずいってしまうのも無理はない。
 今回の夜会、とてつもない規模だった。

 「お、王族が来てるんか?」
 「……いや、来てはいないはず」

 それは兄貴網で事前に調べた。
ここは慎重にしておきたいものだ、王族には挨拶に向かわねばならないからだ。ちぐはぐだが、人間の流儀があちこちにある一方で、しっかりと習っているところはある。特に王族関係はなまじ人間に一番近いところだから。

 (没落したくないし)

 さて、と見回す。
知り合いは何人か、いるみたいだ……。やれやれ。
ため息をつきながらも、僕は、まずは彼らのご機嫌伺いに貴族らしく向かわねば。

 「悪い、タイザー、僕、一応貴族の息子だから」

 
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