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獣人交流会
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「おお、久しぶりだね、タイザー」
「へへっ」
鼻を擦りながらも、照れるやい、などという昔の定番を裏切らない動きをするは、僕の昔からの友人。
平凡な顔かつ英雄の名前をつけられたせいで、どこのタイザーくんだと子供の頃はよく茶化されて半泣きになっていた友だが、今は立派に家業を継いで元気に暮らしている。
「リヒトが貴族用の学校に通い始めてからなかなか会えなかったけど、
元気そうな顔を見れてよかったよ」
いつものセリフを素直に言ってくれるのだから、僕としても嬉しい。
タイザーは一般民なので、近所のおじさんと僕の父が仲良くなければ、そうそうに出会う機会もなかったであろう。なんなら召使にビビって興奮していたし。物心ついたころにいた存在が召使だったときの衝撃は僕もだ。
他にも、幾人か。
それほどの規模ではないが、交流会には昔馴染みばかりが集まっている。
貴族もいるけど、地味めんばかりである。
言われなければ、袖口のカフスに家紋がのぞいているのを気付けないほどに風景に模すことができる、生え抜きの一般的な友人の集まりだ。貴族といっても、召使数人、といった程度の稼ぎしかない家ばかりであるのだから。
三人集まれば文殊の知恵、どころ以上集まった人数ではあるが、それなりに噂話に花が咲く。
男ばかりでむさ苦しいが近況報告をしあう。
「リヒトは初めての朝帰りしたんだって?」
「ブフッ」
「うお、汚ねぃ!」
タイザーのあまりの爆弾発言に、周囲は大いに盛り上がってしまった。
向こう側にいる友人Bにすまん、といい、口元を拭っている僕は、ああ、やっぱり噂になってしまったか、とタイザーを睨むと、明後日の方向に向きながらぴゅーと、口笛を吹く真似をした。
(くそ、わざとだな?)
(ふふん、ざまぁ)
タイザーの心の目は物語っている。
お前、童貞卒業したんだろ? と。
「おいおい、とうとうやっちまったのか」
「その童貞、誰にくれてやったんだ?」
「あんなに一途に誰かに云々言ってたのに」
獣人らは基本、性欲に目覚めたら制欲せずに、同じく発情するモノ同士、即、やりあうので童貞という存在は貴重なる存在である。なまじ僕のように身綺麗公言するようなやつなら、非常に目立つ。
清き童貞宣言を終始行う異物である僕がとうとう卒業したということは、友人たちにとっても酒の肴でもあるし、父たちにとっても、そうである。腹立たしいことに、我が家がソース元なんだろう。
「おめでとう!」
かんぱーい、と。
まるで祝い事のように祝われ、僕はタイザーの微笑ましい表情に、苛立ちを募らせた。
「そうかそうか、とうとう獣人の立派な仲間入りだな!」
あーだから嫌だったのに。
知られるの……と思うも、仕方ないとため息をつく。
タイザーは心配していたのだろう、獣人らしくない僕に。
「ああ、そうだよ悪いかよ!」
一応は文句を言うが、
「いやあ、悪くない、悪くないよ!」
「元気そのものじゃないか!」
「健康だ!」
まるで当たり前かのように、口々にいう彼らひとりひとりに、ヘッドロックかけたい。
そこからの話の流れは、いつもより。
濃紺な、性の話になる。僕が初心者デビューしたせいもあるのだろう、普段よりも饒舌にこもった話に。
ちっとも建設的ではないが、獣人の男貴族の集まりですら、こういった話に枚挙にいとまなく、浮気で流血沙汰はよくあることなのだ。まるで当たり前の風潮なので、貴族同士の集まりですら嫌だったが、こいつらも僕がその仲間入りを果たしたことで、とうとう普段より二割増量キャンペーンでエロ話になっていった。
イカ臭いばかりなのは何も路地裏ばかりではなく、プンプンと匂わせたまま自宅に帰ってしまった僕にも責任がある。獣人は鼻が良いというのに……僕もまた、動揺していたのだろう。
「なあタイザー、リヒト。
知ってるか?」
ニヤ。
普段も今も地味めんな友人の一人が、貴族である身分だからこそ出入りしている貴族社交界にて。
とんでもない噂をききつけたことを、披露する。
貴族の連中では、衝撃的、かつ、僕と事情が少しばかりにてるから、思い出されたのだろう……。
「……美しきエメラルドの貴人がな、
あちこちの夜会でね。
夜な夜な一夜限りの逢瀬を求め、足を広げるんだと。
しなやかな足をな、こう。両足を少しだけ」
それはそれは、色艶やかに、咲き誇るんだと……。
「へへっ」
鼻を擦りながらも、照れるやい、などという昔の定番を裏切らない動きをするは、僕の昔からの友人。
平凡な顔かつ英雄の名前をつけられたせいで、どこのタイザーくんだと子供の頃はよく茶化されて半泣きになっていた友だが、今は立派に家業を継いで元気に暮らしている。
「リヒトが貴族用の学校に通い始めてからなかなか会えなかったけど、
元気そうな顔を見れてよかったよ」
いつものセリフを素直に言ってくれるのだから、僕としても嬉しい。
タイザーは一般民なので、近所のおじさんと僕の父が仲良くなければ、そうそうに出会う機会もなかったであろう。なんなら召使にビビって興奮していたし。物心ついたころにいた存在が召使だったときの衝撃は僕もだ。
他にも、幾人か。
それほどの規模ではないが、交流会には昔馴染みばかりが集まっている。
貴族もいるけど、地味めんばかりである。
言われなければ、袖口のカフスに家紋がのぞいているのを気付けないほどに風景に模すことができる、生え抜きの一般的な友人の集まりだ。貴族といっても、召使数人、といった程度の稼ぎしかない家ばかりであるのだから。
三人集まれば文殊の知恵、どころ以上集まった人数ではあるが、それなりに噂話に花が咲く。
男ばかりでむさ苦しいが近況報告をしあう。
「リヒトは初めての朝帰りしたんだって?」
「ブフッ」
「うお、汚ねぃ!」
タイザーのあまりの爆弾発言に、周囲は大いに盛り上がってしまった。
向こう側にいる友人Bにすまん、といい、口元を拭っている僕は、ああ、やっぱり噂になってしまったか、とタイザーを睨むと、明後日の方向に向きながらぴゅーと、口笛を吹く真似をした。
(くそ、わざとだな?)
(ふふん、ざまぁ)
タイザーの心の目は物語っている。
お前、童貞卒業したんだろ? と。
「おいおい、とうとうやっちまったのか」
「その童貞、誰にくれてやったんだ?」
「あんなに一途に誰かに云々言ってたのに」
獣人らは基本、性欲に目覚めたら制欲せずに、同じく発情するモノ同士、即、やりあうので童貞という存在は貴重なる存在である。なまじ僕のように身綺麗公言するようなやつなら、非常に目立つ。
清き童貞宣言を終始行う異物である僕がとうとう卒業したということは、友人たちにとっても酒の肴でもあるし、父たちにとっても、そうである。腹立たしいことに、我が家がソース元なんだろう。
「おめでとう!」
かんぱーい、と。
まるで祝い事のように祝われ、僕はタイザーの微笑ましい表情に、苛立ちを募らせた。
「そうかそうか、とうとう獣人の立派な仲間入りだな!」
あーだから嫌だったのに。
知られるの……と思うも、仕方ないとため息をつく。
タイザーは心配していたのだろう、獣人らしくない僕に。
「ああ、そうだよ悪いかよ!」
一応は文句を言うが、
「いやあ、悪くない、悪くないよ!」
「元気そのものじゃないか!」
「健康だ!」
まるで当たり前かのように、口々にいう彼らひとりひとりに、ヘッドロックかけたい。
そこからの話の流れは、いつもより。
濃紺な、性の話になる。僕が初心者デビューしたせいもあるのだろう、普段よりも饒舌にこもった話に。
ちっとも建設的ではないが、獣人の男貴族の集まりですら、こういった話に枚挙にいとまなく、浮気で流血沙汰はよくあることなのだ。まるで当たり前の風潮なので、貴族同士の集まりですら嫌だったが、こいつらも僕がその仲間入りを果たしたことで、とうとう普段より二割増量キャンペーンでエロ話になっていった。
イカ臭いばかりなのは何も路地裏ばかりではなく、プンプンと匂わせたまま自宅に帰ってしまった僕にも責任がある。獣人は鼻が良いというのに……僕もまた、動揺していたのだろう。
「なあタイザー、リヒト。
知ってるか?」
ニヤ。
普段も今も地味めんな友人の一人が、貴族である身分だからこそ出入りしている貴族社交界にて。
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