上 下
8 / 124

獣人交流会

しおりを挟む
 「おお、久しぶりだね、タイザー」
 「へへっ」

 鼻を擦りながらも、照れるやい、などという昔の定番を裏切らない動きをするは、僕の昔からの友人。
平凡な顔かつ英雄の名前をつけられたせいで、どこのタイザーくんだと子供の頃はよく茶化されて半泣きになっていた友だが、今は立派に家業を継いで元気に暮らしている。

 「リヒトが貴族用の学校に通い始めてからなかなか会えなかったけど、
  元気そうな顔を見れてよかったよ」

 いつものセリフを素直に言ってくれるのだから、僕としても嬉しい。
タイザーは一般民なので、近所のおじさんと僕の父が仲良くなければ、そうそうに出会う機会もなかったであろう。なんなら召使にビビって興奮していたし。物心ついたころにいた存在が召使だったときの衝撃は僕もだ。

 他にも、幾人か。
それほどの規模ではないが、交流会には昔馴染みばかりが集まっている。
 貴族もいるけど、地味めんばかりである。
言われなければ、袖口のカフスに家紋がのぞいているのを気付けないほどに風景に模すことができる、生え抜きの一般的な友人の集まりだ。貴族といっても、召使数人、といった程度の稼ぎしかない家ばかりであるのだから。

 三人集まれば文殊の知恵、どころ以上集まった人数ではあるが、それなりに噂話に花が咲く。
 男ばかりでむさ苦しいが近況報告をしあう。

 「リヒトは初めての朝帰りしたんだって?」
 「ブフッ」
 「うお、汚ねぃ!」

 タイザーのあまりの爆弾発言に、周囲は大いに盛り上がってしまった。
 向こう側にいる友人Bにすまん、といい、口元を拭っている僕は、ああ、やっぱり噂になってしまったか、とタイザーを睨むと、明後日の方向に向きながらぴゅーと、口笛を吹く真似をした。

 (くそ、わざとだな?)
 (ふふん、ざまぁ)

 タイザーの心の目は物語っている。
お前、童貞卒業したんだろ? と。

 「おいおい、とうとうやっちまったのか」
 「その童貞、誰にくれてやったんだ?」
 「あんなに一途に誰かに云々言ってたのに」

 獣人らは基本、性欲に目覚めたら制欲せずに、同じく発情するモノ同士、即、やりあうので童貞という存在は貴重なる存在である。なまじ僕のように身綺麗公言するようなやつなら、非常に目立つ。
 清き童貞宣言を終始行う異物である僕がとうとう卒業したということは、友人たちにとっても酒の肴でもあるし、父たちにとっても、そうである。腹立たしいことに、我が家がソース元なんだろう。

 「おめでとう!」

 かんぱーい、と。
まるで祝い事のように祝われ、僕はタイザーの微笑ましい表情に、苛立ちを募らせた。

 「そうかそうか、とうとう獣人の立派な仲間入りだな!」

 あーだから嫌だったのに。
知られるの……と思うも、仕方ないとため息をつく。
 タイザーは心配していたのだろう、獣人らしくない僕に。

 「ああ、そうだよ悪いかよ!」

 一応は文句を言うが、

 「いやあ、悪くない、悪くないよ!」
 「元気そのものじゃないか!」
 「健康だ!」

 まるで当たり前かのように、口々にいう彼らひとりひとりに、ヘッドロックかけたい。

 そこからの話の流れは、いつもより。
濃紺な、性の話になる。僕が初心者デビューしたせいもあるのだろう、普段よりも饒舌にこもった話に。
ちっとも建設的ではないが、獣人の男貴族の集まりですら、こういった話に枚挙にいとまなく、浮気で流血沙汰はよくあることなのだ。まるで当たり前の風潮なので、貴族同士の集まりですら嫌だったが、こいつらも僕がその仲間入りを果たしたことで、とうとう普段より二割増量キャンペーンでエロ話になっていった。

イカ臭いばかりなのは何も路地裏ばかりではなく、プンプンと匂わせたまま自宅に帰ってしまった僕にも責任がある。獣人は鼻が良いというのに……僕もまた、動揺していたのだろう。

 「なあタイザー、リヒト。
 知ってるか?」

 ニヤ。
普段も今も地味めんな友人の一人が、貴族である身分だからこそ出入りしている貴族社交界にて。
 とんでもない噂をききつけたことを、披露する。
貴族の連中では、衝撃的、かつ、僕と事情が少しばかりにてるから、思い出されたのだろう……。

「……美しきエメラルドの貴人がな、
 あちこちの夜会でね。
 夜な夜な一夜限りの逢瀬を求め、足を広げるんだと。
 しなやかな足をな、こう。両足を少しだけ」

 それはそれは、色艶やかに、咲き誇るんだと……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

欲にまみれた楽しい冒険者生活

小狸日
BL
大量の魔獣によって国が襲われていた。 最後の手段として行った召喚の儀式。 儀式に巻き込まれ、別世界に迷い込んだ拓。 剣と魔法の世界で、魔法が使える様になった拓は冒険者となり、 鍛えられた体、体、身体の逞しい漢達の中で欲望まみれて生きていく。 マッチョ、ガチムチな男の絡みが多く出て来る予定です。 苦手な方はご注意ください。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...