どうしよう、俺の公子様がXXに。

獣人らしく、獣になった朝

　意を決した僕は、速やかに……、でも、でもと言い訳をしながらも……。
　意識のない彼の、なんとも美味そうな赤い唇に……、ちゅ、と顔を寄せて触れるだけの口付けをし。
　（少し……イカ臭かっ……）
　
　「ごめん……」

　どこぞの役に立たない亭主のようなセリフを吐き、振り切るように、窓から身を乗り出した。



　人はそれ、やり捨て、という。




　（いや、そうじゃない。そうじゃないんだ）
などと、申しており……。
　
　はい。すみません。
僕は、朝帰りをし、その日散々に家族になじられながらも、あの時のことをすー、はー、と良い匂いだったことも思い起こしながら、毎日を過ごしております。とてつもなく、ひどいやつだと自分でも思う。ゲス。最悪。いくらでも僕は、自分のことを悪様に言う。もはや朝のルーティーンだというように、朝起きたらおはようからおやすみまで、僕は自分に対し悪口を呟く。これまた兄貴にはとんでもないことだ、弟はとうとう気が狂った、きっとあの朝帰りでなったんだから相手が悪かったのだ、勃ちも悪かったに違いな、グほぉ、とやや激しめなスクリューチョップをこなしてしまったが、いかんせん。
　
　僕は、慎重かつ臆病者だったから。
　だから、相手に、立ち向かえなかった。

　あの事件のとき立ち向かえたのは、きっと前世における理性が働いたんだろう。
襲ってはならない、と。
　前世では確実にお縄になる事案だが、この獣人の世界では、やや本気で実力主義なところがあり。
胸元を吸いつこうとしていたやつに、僕は向っ腹が立ったのだ。
　獣人らしい闘争心を発揮できた僕は、美しい人に、きっと、好かれたんだろう。じゃないとどうにも、ぼんやりとした容姿の僕を求める理由がわからない。その貴重な内面も、このザマだが。

　（臆病風に吹かれすぎた、かな）

　けど、相手が相手だ。
貴族関係となると、話しが違う。この子爵家族ですら、王侯相手に立ち向かえるかといえばそんなことはない、風前の灯、屁のかっぱ。間違いなく、死。あるのみである。
　僕のふるまいもまあ、なかなかにフラグがたっているが……。

　今日は数少ない友人との交流会がある。

　基本的にはあまり表にはでない生活をしている僕だが、気晴らしにでかけなきゃ。
そう思った。

　ただ、やっぱり僕って、自分にフラグを立てすぎる節があると思われる。

　「よう！久方ぶりだな、リヒト！」