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獣人な世界

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 獣人。ケモナーなら幸せ一発な世界だろう。よかろう、教えてしんぜよう。
いる。二足歩行の顔だけ獣耳のかっこいいウルフとか、うさぎ耳の王子様とか。いる。全然いる。
 もちろん耳だけの人もいる。人、といったらいいのかわからないけど。
他大陸にはいるらしいから、人間。ちょっと憧れるが、僕はいくことはきっと叶わない。なんたって金槌だし。泳げない。

 僕は獣人だ。
過去、人間だった記憶がある。
 
 別段珍しいことではない。ただ異世界の記憶だけど。
過去の記憶があるからって変には思われないけれども、異世界の記憶持ちはレアっぽい。聞いたことがない。だから僕はお口にチャック。言わない。だって厄介ごとになったら困るし。なんたってここ、獣人の世界だもん。
 
 僕は慎重な人間だった。
前世は健康にも気を配り、休日のたびに走り込みをしたり、食事のバランスにも注意を払っていた。
 仕事も公務員。
毎日きちんと帰れる……訳でもなかったが、それなりに満足する生き方をして死んだ。

 (まあ、孤独死したけど)
 (相手もいない)

 無防備にもなれなかった僕は常に、そう常に真摯に生き続けようとしたせいか、未婚のまま人生を終えた。
貯金はしてたのでギリギリまで一人暮らしをして、施設にいつ入ろうかと、人生の平均値を指折り予想しながら、安く仕入れた野菜の苗に蛇口ホースで水のシャワーをのんびりと当ててたとき。そこのあたりで記憶がブツリと消えている。物理的に。

 さて、問題はここからだ。
ご理解いただけるだろうか。

 獣人。
それは人間よりも体格も運動神経も違う。姿形が人類とは違うのだから、まあ理解を得られると思う。
五感がまず違うし。

 ある種、鉄壁な生き方をしてきた僕には、この本能ともいうべき獣人の、性質を甘く見ていた。

 と言っても過言ではない。
僕は過去の僕に、言いたい。

 「もう少し、理性というものを知るべきだ」
と。




 異世界。そこは獣人な世界。ツガイ、という婚姻制度がある割に、やはり本能には負けるのか、概ねどの獣人も血気盛んで男女問わずちぎっては投げ、ちぎっては投げの世界であった。




 獣臭いと人間たちによく言われるらしいが、ウルトラレアな完全なる人間にはそう滅多に会えない。
この世界の知識は教科書や親や噂からして学ぶ。
 あまりメディアというものが発達していない世界なのだ。
そのかわり、序列はあり。
 色欲なうさ耳王子、が夜会を賑わせているのを聞いて、ああ、またか、と思った。

 「なんて淫乱な世界なんだ……」

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