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終章・女神
またもや玄関出入り口、コンニチワ
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「ニバリス家の皆様、こんにちは。
こんな時間にまで、大事なお嬢様を連れ歩いてしまい、
申し訳ございません」
宣言通り、ヴィクリス様はにこやかに対応する。
「あ、あぁ、いえ、そんなことはないでもないですよはい」
「ええ、ええ! とってもお似合いだわ……!」
両親のあんまりな態度に別の方向へ視線を向ければ、
「姉はそこまで殊勝なもんでも……あいたっ」
「お兄、ダメよ! なんて口の聞き方をなさるのかしら、ほほほ」
背筋がいつもより二割増し伸びている両親と違って、二人の兄妹はいまだにはしゃぎたい年齢なのか、若者らしく小声で騒いでいる。ヴィクリス様の隣で佇んでいる私をニヤニヤと見つめながら。あとで話し合おう。
「……すみません、ヴィクリス様。
私の家族は騒がしくて」
「いいえ。そんなことはありません」
むしろ羨ましい、と彼は口ごもる。
(そういえば、)
脳裏を巡らせば、確かヴィクリス様には兄弟がいないはずである。
さすがに私も、この有名人がどういった方か、調べたのだ。王家とはいえ未成年である彼の情報はさほどなかったが(特に外見などについての詳細さはあまりない)、噂話なのか、あるいは功績が時々掲載されているのを見たり聞いたりした。天才だ、と称される。もはや旧アネモネス王国の希望の星である。
そんな綺羅星を現実でも纏って見える彼は、本当に王子様なのだ。
「俺は王家とはいえ、末端の、それも傍流ですから」
キラキラしながら言ってるが、とてもじゃないが信じられない。
「そんなことございませんよ! ヴィクリス様は実にご謙遜を」
「ええ、ええ! 身内贔屓ですが、娘は可愛らしいところがありまして」
むしろ主流ではないか?
と思わせるほど、堂々とした立ち振る舞い。
私の両親はたちどころに、王家という地位と親しげな態度にメロメロになった。
元々アネモネス国民は王家が大好きである。年齢が上になればなるほど、それは威力を発揮する。
「……ふふ、ありがとうございます。
しかしもう遅いので名残惜しいですが……、その思い出はまたの機会に。
ニバリス家の皆様と、仲良くなりたいですので、
今後とも、お付き合いをお願いいたします」
後光が射してるのでは?
と言わんばかりにいつもより二割笑みが深いヴィクリス様、しっかりと父に片手を伸ばして握手を望んだ。
王家から、貴族でもなんでもないただの一般人であるところの父に。
大層戸惑っていたが、母が縋るようにして父の腕を力強く奮い立たせ、しっかり! と見えない部分で父の尻を叩いた。そのやりとり、残念ながら私の立ち位置から見えていた。隣の王子様にはどうだろう。背が高いから……。身内の高揚感に、背筋が冷える。
「もちろん! もちろんですとも!」
「ええ、ええ! 娘は刺繍が得意で……!」
「いえ別にそこまででもないですよ」
名入れや変わったデザイン、昔からのフォーマルな草花の模様や家紋など、実務的なものばかり刺していたが、どうも見られていたらしい。たまに腕を振うのは万が一食いっぱぐれがあったらと困ったときのために、たまには手指を磨いていただけである。意外そうな声が上がる。
「……そうなんですね」
「え、えぇ、でも手ぐさみ、というやつで……」
母よ、余計なことを!
そう思ったが口にはしないで、にっこりと笑みを浮かべた。
私の聞いて欲しくないな、っていう視線は響かなかったようで、ヴィクリス様はおずおずと願い事をしてきた。
「今度、刺繍で手巾を……、
俺の紋章を縫ってくれませんか?」
「えっ!? え、ですが……」
(どちらかというと……修道女の中では下手な部類でしたが)
お金儲けのためである。
それでも多少は利益にはなった、と思いたい程度の出来である。
熱い視線が……かかる。
つい、私はその熱から目を逸らした。
こんな時間にまで、大事なお嬢様を連れ歩いてしまい、
申し訳ございません」
宣言通り、ヴィクリス様はにこやかに対応する。
「あ、あぁ、いえ、そんなことはないでもないですよはい」
「ええ、ええ! とってもお似合いだわ……!」
両親のあんまりな態度に別の方向へ視線を向ければ、
「姉はそこまで殊勝なもんでも……あいたっ」
「お兄、ダメよ! なんて口の聞き方をなさるのかしら、ほほほ」
背筋がいつもより二割増し伸びている両親と違って、二人の兄妹はいまだにはしゃぎたい年齢なのか、若者らしく小声で騒いでいる。ヴィクリス様の隣で佇んでいる私をニヤニヤと見つめながら。あとで話し合おう。
「……すみません、ヴィクリス様。
私の家族は騒がしくて」
「いいえ。そんなことはありません」
むしろ羨ましい、と彼は口ごもる。
(そういえば、)
脳裏を巡らせば、確かヴィクリス様には兄弟がいないはずである。
さすがに私も、この有名人がどういった方か、調べたのだ。王家とはいえ未成年である彼の情報はさほどなかったが(特に外見などについての詳細さはあまりない)、噂話なのか、あるいは功績が時々掲載されているのを見たり聞いたりした。天才だ、と称される。もはや旧アネモネス王国の希望の星である。
そんな綺羅星を現実でも纏って見える彼は、本当に王子様なのだ。
「俺は王家とはいえ、末端の、それも傍流ですから」
キラキラしながら言ってるが、とてもじゃないが信じられない。
「そんなことございませんよ! ヴィクリス様は実にご謙遜を」
「ええ、ええ! 身内贔屓ですが、娘は可愛らしいところがありまして」
むしろ主流ではないか?
と思わせるほど、堂々とした立ち振る舞い。
私の両親はたちどころに、王家という地位と親しげな態度にメロメロになった。
元々アネモネス国民は王家が大好きである。年齢が上になればなるほど、それは威力を発揮する。
「……ふふ、ありがとうございます。
しかしもう遅いので名残惜しいですが……、その思い出はまたの機会に。
ニバリス家の皆様と、仲良くなりたいですので、
今後とも、お付き合いをお願いいたします」
後光が射してるのでは?
と言わんばかりにいつもより二割笑みが深いヴィクリス様、しっかりと父に片手を伸ばして握手を望んだ。
王家から、貴族でもなんでもないただの一般人であるところの父に。
大層戸惑っていたが、母が縋るようにして父の腕を力強く奮い立たせ、しっかり! と見えない部分で父の尻を叩いた。そのやりとり、残念ながら私の立ち位置から見えていた。隣の王子様にはどうだろう。背が高いから……。身内の高揚感に、背筋が冷える。
「もちろん! もちろんですとも!」
「ええ、ええ! 娘は刺繍が得意で……!」
「いえ別にそこまででもないですよ」
名入れや変わったデザイン、昔からのフォーマルな草花の模様や家紋など、実務的なものばかり刺していたが、どうも見られていたらしい。たまに腕を振うのは万が一食いっぱぐれがあったらと困ったときのために、たまには手指を磨いていただけである。意外そうな声が上がる。
「……そうなんですね」
「え、えぇ、でも手ぐさみ、というやつで……」
母よ、余計なことを!
そう思ったが口にはしないで、にっこりと笑みを浮かべた。
私の聞いて欲しくないな、っていう視線は響かなかったようで、ヴィクリス様はおずおずと願い事をしてきた。
「今度、刺繍で手巾を……、
俺の紋章を縫ってくれませんか?」
「えっ!? え、ですが……」
(どちらかというと……修道女の中では下手な部類でしたが)
お金儲けのためである。
それでも多少は利益にはなった、と思いたい程度の出来である。
熱い視線が……かかる。
つい、私はその熱から目を逸らした。
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