私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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終章・女神

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音がしたので目線を向けるとヴィクリス様の本がぽろ、と転げ落ちていたため、私は屈んで手を伸ばした。
鈍器になりそうなぐらいに硬い。古めかしいが、装丁がなかなか凝った作りの本だった。
くるりと回した際、表題が視界に飛び込んできた。やはり、これは私を待ち続けた際の、運命。
(運命とは)
いつもついて回る。
私の人生において、常に私を先回りして待ち構えているような、そんな気がしてならない。

「……失礼、ありがとうございますニバリスさん」
「いえ……」

ぎこちない対応をお互いギクシャクとしてしまったが、ヴィクリス様は口元に笑みの形を作り、さらり、と骨張った手でその表紙を撫でた。

「……俺にとって、運命とは切り離せないものです。
 けれど……」

伏せられた王子様の目は間違いなく青い。
ただ、私の初恋の人に比べたら、少しばかり色味が違う。

「考えるしかありませんでした。
 そうしなければ、運命と引き離されてしまう。
 行動も必要でした。
 でないと、置いて行かれてしまう。
 地位も金も権力も、それなりに重要でした。
 何も、調べることもできませんでしたから。
 時間もきちんと優先順位を決めねばなりません。
 ……見た目も、惚れてもらうためにはそこそこ欲しかった。
 運命がたとえ男だろうと女だろうと、
 かまわないほどに愛してもらえるなら、お手軽だ」

低い声が、淡々と紡がれる。
馬車内部に籠るそれは鎮魂歌のように物静かだ。
ニバリスさん、と声がかかる。

「どれもこれも、俺の運命には結びつかないようだ。
 ピンとこない。
 運命に俺は嫌われているらしい」

悲しげに青い目を向けてきた。

「ヴィクリス様……」

儚く、王子様は私に囁いた。

「そうです。
 俺は運命に恋焦がれています。
 ……けれども、こうとも思うのですよ。
 運命を諦められないなら、運命を変えてしまえ、と」
「え!……変える?」

どういうことだろう。
肩を揺らし、いずれ稀代の魔法使いとも称される片鱗が、ヴィクリス様の青い瞳の中で揺らめいた。

「それはきっと、ニバリスさんにもお気に召すものです。
 成績優秀ですよね? 魔法科目」
「え、ええまあ」

楽しみにしている技巧科目だ。
前日に練習するほどに力を入れている。
ただし、私以外もこの未知なる力を面白がっている人も多数いて、間違いなく魔術師などの新たなる職種につくのではないか、と幾人かの顔を思い浮かべた。一般人でも、貴族階級になれるかもしれない。そんな夢のある可能性があるらしい、と巷では噂されている。もちろん新聞にも記事として掲載されており、あくまでも憶測でしかないが、国民一眼となっているこのワクワクとしたお祭り騒ぎの原因が、目の前のお人であることは……間違いなく。

「俺は運命を必ず愛するだろう。
 こんなにも機会を与えてくれた……、
 たとえどんな場所で、どんな立場であったとしても、
 俺は諦めるつもりはないのですよ。
 運命の君、ニバリスさん」
「……っ」
 
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