私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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終章・女神

夕日の立ち昇る空より曇天

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 私にとって、あの人は初恋だ。認めよう。
何よりも結ばれるべきだという世情や、運命と愛の女神だって推奨する運命の王子様だった。
 それなのに。
修道女になった私は、みじめに新聞を切り抜いて集めたり、記事に第二子誕生の内容を読んではため息をついていたのだ。本当に、苦しくてたまらなかった。
 俗世を捨てたくせに、捨てきれない。
 中途半端だった。
何年も、何十年も、そうして年を経て、ひっそりと死んだ。

 ただ、私はそんな生き方も……嫌いじゃなかった。

(第三王子だけは許さないけど)
本当に運命を愛しているなら、運命の相手を求めているなら手段があったはずだ。いくら王家が未成年の王族を秘匿していたとしても、わざわざ女好きにならなくても方法はあったはずである。一体なんのための王家か。
 
「……バカも嫌いです」

自分自身もバカだと思う時があった。修道女の時代の話だ。
けど、どうしようもなかった。
自己憐憫に浸るしかなかったし、現実は厳しい。私がしゃしゃり出てきたところで、もしかしたらひっそりと始末されててもおかしくはないぐらい、隣国との仲は現代に続いている。ある意味、分岐点だった。この国と、未来と。
弱気になるのも無理はない、なんたって小娘でしかない。
家族もいた。宿屋だけど、手堅く生計をたてている。姉だっている。可愛い甥っ子が生まれたばかり。
私のこの運命という恋心のせいで、何もかもを失うわけにもいかなかった……。

選択肢はあった。
野菜の皮むきをしていたときや、火がなかなかつかなくて寒さに指を擦り合わせたり、細い糸が針になかなか通せなくて小さめな息をついたとき。
私は、その選択肢に思いを馳せたのである。

”嫌い”

そう言い切った瞬間の、窓際にいるヴィクリス様のお顔といったら。
なんて言ったらいいのでしょう、とても気の毒で、眉尻が下がっていた。

「ふふ……」

思わず苦笑がこぼれてしまう。
解せない表情のヴィクリス様に、私は慰めを投げた。

「もちろん、その言葉は私にもかかる意味合いの言葉です」
「そう、ですね……。
 第三王子は……女性を取っ替え引っ替えでしたから」
「ああ、……それもありますが」

唾を飲み込んだ。

「さっさと忘れてしまえばよかったのに、
 とも思うのですよ、ヴィクリス様」

失恋は誰にだって経験のあるもののひとつだ。
不運にも、私にはたったひとつ、いや。
ふたつ、あったけど。

「どう、して」

ヴィクリス様は先輩らしからぬ戸惑いをみせている。

「俺は……忘れられません。
 忘れられませんよ、ニバリス嬢……」
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