私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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終章・女神

待ち合わせ

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 迎えに行く、と言われたが、入場券の時刻がちょうどダフォーディル学院の授業終了後から直接向かったほうがよさそうな塩梅だったため、待ち合わせをしてから行くことが決定した。
 私はできうる限り目立たない場所を指定し、ヴィクリス様も頷いてくださった。ありがたい。これ以上有名人に近づくと怖いことになるかもしれない。特に肉食女子が。 
 
 その日は、朝からソワソワとして落ち着かなかった。

「わーお姉ちゃんが緊張してるー」
「うわーだっせ」

 基本的に騒がしい兄と妹を物理的に静かにさせて。
その足で、ただちに学院へと向かう。
 
 (落ち着け、落ち着け)

 前世における、山小屋ドキドキッ体験よりも大丈夫じゃないか? なあ、私よ。
冬山登山はやめるべきだったなあ……。いくら輸出で大儲けするための調査とはいえ。

 さて、そんなことよりも待ち合わせは早めに向かったほうが良い。特にお偉いさん相手には。
 そういった生活の知恵のようなものは前世からの教えとして、この魂に刻んでいたはずなのに、ダフォーディル学院の制服のまま待ち合わせ場所にたどり着けば、居た。ヴィクリス様だ。あの爽やな着こなし、隙のない見た目……遠目からもチラホラと気にしているらしい人々の視線を一身に集めている姿は間違いなくやんごとなき王子様です。ありがとうございました。
 ……そう言って、帰宅できたらどんなに気が楽か。30分早めに辿り着くことができて良かったと思うべきか。

「ニバリスさん」
「……すみません、私、遅れてしまいましたか」

一応、体裁を整えて謝罪すると。
彼はにこやかに流す。

「いいえ。俺が早すぎたんです。
 嬉しすぎて、1時間以上も早めにきてしまいました」

(ではいつからここに……?)
と、彼の手にある本に目がいく。
ヴィクリス様は、ああ、と私の興味の先を教えてくれた。
どうやら暇つぶしに読書をしていたらしい。その度胸、さすがの担力である。彼の一挙一足をこれでもかとばかりに、こんなにも周囲の関心を集めているのに。学院の僻地を指定したはずなのに、これぞカリスマというべきか。

「運命についての本です。
 30年前のものですね」
「へえ、年代物ですね」
「ええ。古い年代のものですが、
 これでもまだ読みやすいほうでして……」

彼曰く、あの修道院敷地内に併設してあるヴィクリス様と出会った時の建物に詰まってた本だとかで、あの中でも近代言語に近い叙述をしてあり、非常に読みやすいのだとか。
 重厚感もあって、立派な装丁の本を片手で持つのがサマになるのは王子様だけかもしれない。

「さらに古い資料や書物もありますが、
 虫が這っていたり、
 ところどころ誤字やら変な思想が入ってたり、
 とにかく当時のこととはいえ、
 なかなか読みづらくて……」

必要に駆られて勉強のひとつとして読書はすることはあれども、ヴィクリス様のように日常的に読むようなことはしてこなかった。それは前世においても同じ。

「……すごいですね」
「え?」
「私は全然、読む気も起きなくて」

なんとも情けない話だが、私の苦手な部分だった。読書のような、一箇所でじっとしているような行為は。

「そうでしょうか?」
「はい」

そうやって、ひとつのことに熱中することも才能だろう。
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