私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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終章・女神

運命にさえ会えたら

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 墓がキラキラしていたらしい。
私の墓が。

 そんなこと、あの掃除夫のおじさんは言ってたな……。
今日の出来事を寝る前に頭の中でぼんやりと思い返す。
 ニバリス家の自宅前に到着し、お礼を申し上げた、あたりまでは良かった。
私の兄妹がちょうど顔を出していて、鉢合わせをしてしまったのである。私が一人で出掛けていたのを心配していたらしい、そろって目を見合わせ、我が家の保護者である両親を呼ばれてしまった。
 外見がただの馬車であったのも、不運だったのか。
あるいは、紳士的な行動を心がける先輩の振る舞いのせいか。
 馬車から降り立つと、ニバリス家全員が待ち構えていた。
家族は私よりも、先導するために先に降り立ったヴィクリス先輩に視線が注がれている。
 
「貴殿は……」

なんとはなく、正体は知っているらしい父と母。動揺していた。
さもあらん。中流家庭とはいえ、ダフォーディル魔法立国の有名人ともいっていい彼を、知らない者はいないだろう。ただし私は知らなかった。年代によるのかもしれない。ただ若くても知っている人は知っているのだろう、なんせアネモネス王家は私の前世からして人気かつ旧王家にはなったものの王家として存続しているうえに、魔法という摩訶不思議な力を研究しているというのだから。

「お、おおお、王子様だ……」
「カッコ良い……」

にっこり、と間近で王族の微笑みを直撃したニバリス家の面々は、皆一様に固まった。

「ニバリス家の皆様。
 こんな遅くに、大切なお嬢様をお返しすることになってしまい、
 申し訳ございません」

別にそこまで遅くもないが、対外的な弁が続く。

「お嬢様とは偶然の出会いでしたが、
 まさしく愛の女神の奇跡であったのかもしれません。
 気候も朗らかで、とても有意義なお時間でした」

 なんだろう。
妙な言い回しなのは気のせいか。

「ニバリス嬢」

 ふいにかけてきた声は、存外に甘いような。
隣にいるので見上げると、青い目と視線が向き合う。

「また、貴方と出掛けたいのです」
「と言われましても……」

途中で送ってくれただけの間柄でしたが。

「色んな景色を、二人で見て回りたい。
 今度こそ、ともにやり直ししましょう」
「え」

すると、手のひらを軽く持ち上げられて。
ヴィクリス様の頭が見えたなあ、と思ったら。
ちゅ、と目の前で行われた貴人からの口づけが手の甲に当たったらしい。

(なんで?)

魔法よりも不可思議な現実に、私は目眩を起こしそうになった。
柔らかな感覚は、前世でもそうそうになかった体験だ。
ごめん。無かった。前世も、さらに前前世も。清かった。

 くすり、と嬉しそうにしている彼の顔は、今世でもやけに整っているのだから。
良い匂いを撒き散らしているのかと言わんばかりに、私の鼻腔に、どうしてかはわからないが、異様に今、この瞬間、気になった。

(おかしいな。
 私は、ついさっきまで、彼と同じ空間の馬車で、同じ空気を吸っていたのに)
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