38 / 59
終章・女神
運命にさえ会えたら
しおりを挟む
墓がキラキラしていたらしい。
私の墓が。
そんなこと、あの掃除夫のおじさんは言ってたな……。
今日の出来事を寝る前に頭の中でぼんやりと思い返す。
ニバリス家の自宅前に到着し、お礼を申し上げた、あたりまでは良かった。
私の兄妹がちょうど顔を出していて、鉢合わせをしてしまったのである。私が一人で出掛けていたのを心配していたらしい、そろって目を見合わせ、我が家の保護者である両親を呼ばれてしまった。
外見がただの馬車であったのも、不運だったのか。
あるいは、紳士的な行動を心がける先輩の振る舞いのせいか。
馬車から降り立つと、ニバリス家全員が待ち構えていた。
家族は私よりも、先導するために先に降り立ったヴィクリス先輩に視線が注がれている。
「貴殿は……」
なんとはなく、正体は知っているらしい父と母。動揺していた。
さもあらん。中流家庭とはいえ、ダフォーディル魔法立国の有名人ともいっていい彼を、知らない者はいないだろう。ただし私は知らなかった。年代によるのかもしれない。ただ若くても知っている人は知っているのだろう、なんせアネモネス王家は私の前世からして人気かつ旧王家にはなったものの王家として存続しているうえに、魔法という摩訶不思議な力を研究しているというのだから。
「お、おおお、王子様だ……」
「カッコ良い……」
にっこり、と間近で王族の微笑みを直撃したニバリス家の面々は、皆一様に固まった。
「ニバリス家の皆様。
こんな遅くに、大切なお嬢様をお返しすることになってしまい、
申し訳ございません」
別にそこまで遅くもないが、対外的な弁が続く。
「お嬢様とは偶然の出会いでしたが、
まさしく愛の女神の奇跡であったのかもしれません。
気候も朗らかで、とても有意義なお時間でした」
なんだろう。
妙な言い回しなのは気のせいか。
「ニバリス嬢」
ふいにかけてきた声は、存外に甘いような。
隣にいるので見上げると、青い目と視線が向き合う。
「また、貴方と出掛けたいのです」
「と言われましても……」
途中で送ってくれただけの間柄でしたが。
「色んな景色を、二人で見て回りたい。
今度こそ、ともにやり直ししましょう」
「え」
すると、手のひらを軽く持ち上げられて。
ヴィクリス様の頭が見えたなあ、と思ったら。
ちゅ、と目の前で行われた貴人からの口づけが手の甲に当たったらしい。
(なんで?)
魔法よりも不可思議な現実に、私は目眩を起こしそうになった。
柔らかな感覚は、前世でもそうそうになかった体験だ。
ごめん。無かった。前世も、さらに前前世も。清かった。
くすり、と嬉しそうにしている彼の顔は、今世でもやけに整っているのだから。
良い匂いを撒き散らしているのかと言わんばかりに、私の鼻腔に、どうしてかはわからないが、異様に今、この瞬間、気になった。
(おかしいな。
私は、ついさっきまで、彼と同じ空間の馬車で、同じ空気を吸っていたのに)
私の墓が。
そんなこと、あの掃除夫のおじさんは言ってたな……。
今日の出来事を寝る前に頭の中でぼんやりと思い返す。
ニバリス家の自宅前に到着し、お礼を申し上げた、あたりまでは良かった。
私の兄妹がちょうど顔を出していて、鉢合わせをしてしまったのである。私が一人で出掛けていたのを心配していたらしい、そろって目を見合わせ、我が家の保護者である両親を呼ばれてしまった。
外見がただの馬車であったのも、不運だったのか。
あるいは、紳士的な行動を心がける先輩の振る舞いのせいか。
馬車から降り立つと、ニバリス家全員が待ち構えていた。
家族は私よりも、先導するために先に降り立ったヴィクリス先輩に視線が注がれている。
「貴殿は……」
なんとはなく、正体は知っているらしい父と母。動揺していた。
さもあらん。中流家庭とはいえ、ダフォーディル魔法立国の有名人ともいっていい彼を、知らない者はいないだろう。ただし私は知らなかった。年代によるのかもしれない。ただ若くても知っている人は知っているのだろう、なんせアネモネス王家は私の前世からして人気かつ旧王家にはなったものの王家として存続しているうえに、魔法という摩訶不思議な力を研究しているというのだから。
「お、おおお、王子様だ……」
「カッコ良い……」
にっこり、と間近で王族の微笑みを直撃したニバリス家の面々は、皆一様に固まった。
「ニバリス家の皆様。
こんな遅くに、大切なお嬢様をお返しすることになってしまい、
申し訳ございません」
別にそこまで遅くもないが、対外的な弁が続く。
「お嬢様とは偶然の出会いでしたが、
まさしく愛の女神の奇跡であったのかもしれません。
気候も朗らかで、とても有意義なお時間でした」
なんだろう。
妙な言い回しなのは気のせいか。
「ニバリス嬢」
ふいにかけてきた声は、存外に甘いような。
隣にいるので見上げると、青い目と視線が向き合う。
「また、貴方と出掛けたいのです」
「と言われましても……」
途中で送ってくれただけの間柄でしたが。
「色んな景色を、二人で見て回りたい。
今度こそ、ともにやり直ししましょう」
「え」
すると、手のひらを軽く持ち上げられて。
ヴィクリス様の頭が見えたなあ、と思ったら。
ちゅ、と目の前で行われた貴人からの口づけが手の甲に当たったらしい。
(なんで?)
魔法よりも不可思議な現実に、私は目眩を起こしそうになった。
柔らかな感覚は、前世でもそうそうになかった体験だ。
ごめん。無かった。前世も、さらに前前世も。清かった。
くすり、と嬉しそうにしている彼の顔は、今世でもやけに整っているのだから。
良い匂いを撒き散らしているのかと言わんばかりに、私の鼻腔に、どうしてかはわからないが、異様に今、この瞬間、気になった。
(おかしいな。
私は、ついさっきまで、彼と同じ空間の馬車で、同じ空気を吸っていたのに)
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。

彼の秘密はどうでもいい
真朱
恋愛
アンジェは、グレンフォードの過去を知っている。アンジェにとっては取るに足らないどうでもいいようなことなのだが、今や学園トップクラスのモテ男へと成長したグレンフォードにとっては、何としても隠し通したい黒歴史らしい。黒歴史もろともアンジェを始末したいほどに。…よろしい。受けてたちましょう。
◆なんちゃって異世界です。史実には一切基づいておりませんので、ご理解のほどお願いいたします。
◆あらすじはこんなカンジですが、お気楽コメディです。
◆ざまあのお話ではありません。ご理解の上での閲覧をお願いします。スカッとしなくてもクレームはご容赦ください。
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。
石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。
ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。
騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。
ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。
力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。
騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる