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終章・女神
運命と愛の女神
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俺にとって運命とは、夢であり希望であり、願いだった。
アネモネス国の第三王子として生まれた俺は、当たり前のように運命を受け入れていた。
「母上! 運命に会えたらどうすれば良いのでしょうか」
「まあ、気の早いことねぇ」
クスクスと、おっとりと笑う王妃に、俺はぷくーっと反発を覚える。
「だって、お嫁さんですから!
僕の大好きなお空のしたで、美味しいお茶を一緒に飲みたいです!」
「うふふ、おませさんねえ」
……確かに、気が早いマセガキだったなぁ……。
成長しても変わらなかったけど女には良い顔をずっとし過ぎて、あれこれと文句を周囲に言われたし。
だって仕方ないだろう? 運命に逢いたかったんだから。
会いたかった……。
(きっと君は知らないだろう)
どれだけ裕福な立場に生まれようと、優れた兄がいたおかげで運命に出会える確率が格段に高かったというのに、期限を決められていたとはいえ運命と出会える自由も与えられていたというのに、俺は王家の運命に抗えなかった。出奔しようとも考えたが、土台、無理な話だ。学んだ経験が、俺の心のままの行動は国を不幸にすると告げている。それに、この国にはもしかしたら、まだ見ぬ運命が住んでいるのかもしれない。それなら、まだ許せた。でも。
(あるいは、運命はすでに誰かと……)
胸の奥を締め付けるそれは、まごうことなき嫉妬だ。
父王との約束が近くなってくるにつれ、俺の行動はとてもじゃないが運命には言えない振る舞いになっていく。
女の肌はいっときの苦しみを忘れさせる。酒は鬱々とした気分をほぐした。
こんな姿、とてもじゃないが運命には見せられないが、たとえ見られたとしても自信はあった。
容姿、声、立場、将来性。
どれもこれもが運命を幸せにする。
(縋り付いてでも、権力を使ってでも……)
どれだけ情けなくとも、もし運命に会えさせすれば。
そんな甘い考えが、すべてを覆したのは人生の終盤だと、幼馴染みの側仕えと共に帰郷した母国での出来事だった。
「女神に、関することを?」
「ええ、そうです」
それって、もしかして国教に変化があったことに関わることなんだろうか?
私は目の前で泰然としているヴィクリス様に、尋ねた。
「なぜ、わざわざ……?」
「そうですね。彼は、考えたのですよ。
運命と出会えなかった、
ただそれだけを悔やみ、苦しんだので……、
……ある意味では、一途といってもいいかもしれません」
(一途?……)
の割に、奔放な女性関係はあまりにもむごいような気はするが。
私の怪訝な顔つきに何やら思うことでもあるのだろう、少し、気まずそうに告げた。
「その……、
申し訳なく思うのですが、
第三王子は思いが強過ぎたのです。
自暴自棄にもなっていた。
あまりにも、運命に憧れていたので」
「あー……」
アネモネス国は昔から、国民もそうだが、運命という存在を羨むような、そういった節があった。
今は……それほど感じないが、しかし、ひと昔前まではそうだ。なぜ忘れていたのだろう。最近は国名やら政変やらで生活も目まぐるしく変化があったので、民もそこまで気が回らないのだろう。経済力も上がっていて、軍事力も上がっているし、隣国との仲もちょうどいい。そしてそれらは、第三王子の血筋のおかげとも言える。
ある意味では、この国は彼の犠牲のおかげで成り立っているのだ。
だから、国民も、隣国も、第三王子を無碍にはできない。
私は理解を示した。
「ですから、この国に帰郷し、
運命と改めて向き合うために調べていたのですか?」
「それもありますが、まあ……きっかけはまさしくお墓でしょうね」
たとえどんな人間だろうと、死ねば骨である。
言葉を交わすことも、運命だと受け入れはくれない。
アネモネス国の第三王子として生まれた俺は、当たり前のように運命を受け入れていた。
「母上! 運命に会えたらどうすれば良いのでしょうか」
「まあ、気の早いことねぇ」
クスクスと、おっとりと笑う王妃に、俺はぷくーっと反発を覚える。
「だって、お嫁さんですから!
僕の大好きなお空のしたで、美味しいお茶を一緒に飲みたいです!」
「うふふ、おませさんねえ」
……確かに、気が早いマセガキだったなぁ……。
成長しても変わらなかったけど女には良い顔をずっとし過ぎて、あれこれと文句を周囲に言われたし。
だって仕方ないだろう? 運命に逢いたかったんだから。
会いたかった……。
(きっと君は知らないだろう)
どれだけ裕福な立場に生まれようと、優れた兄がいたおかげで運命に出会える確率が格段に高かったというのに、期限を決められていたとはいえ運命と出会える自由も与えられていたというのに、俺は王家の運命に抗えなかった。出奔しようとも考えたが、土台、無理な話だ。学んだ経験が、俺の心のままの行動は国を不幸にすると告げている。それに、この国にはもしかしたら、まだ見ぬ運命が住んでいるのかもしれない。それなら、まだ許せた。でも。
(あるいは、運命はすでに誰かと……)
胸の奥を締め付けるそれは、まごうことなき嫉妬だ。
父王との約束が近くなってくるにつれ、俺の行動はとてもじゃないが運命には言えない振る舞いになっていく。
女の肌はいっときの苦しみを忘れさせる。酒は鬱々とした気分をほぐした。
こんな姿、とてもじゃないが運命には見せられないが、たとえ見られたとしても自信はあった。
容姿、声、立場、将来性。
どれもこれもが運命を幸せにする。
(縋り付いてでも、権力を使ってでも……)
どれだけ情けなくとも、もし運命に会えさせすれば。
そんな甘い考えが、すべてを覆したのは人生の終盤だと、幼馴染みの側仕えと共に帰郷した母国での出来事だった。
「女神に、関することを?」
「ええ、そうです」
それって、もしかして国教に変化があったことに関わることなんだろうか?
私は目の前で泰然としているヴィクリス様に、尋ねた。
「なぜ、わざわざ……?」
「そうですね。彼は、考えたのですよ。
運命と出会えなかった、
ただそれだけを悔やみ、苦しんだので……、
……ある意味では、一途といってもいいかもしれません」
(一途?……)
の割に、奔放な女性関係はあまりにもむごいような気はするが。
私の怪訝な顔つきに何やら思うことでもあるのだろう、少し、気まずそうに告げた。
「その……、
申し訳なく思うのですが、
第三王子は思いが強過ぎたのです。
自暴自棄にもなっていた。
あまりにも、運命に憧れていたので」
「あー……」
アネモネス国は昔から、国民もそうだが、運命という存在を羨むような、そういった節があった。
今は……それほど感じないが、しかし、ひと昔前まではそうだ。なぜ忘れていたのだろう。最近は国名やら政変やらで生活も目まぐるしく変化があったので、民もそこまで気が回らないのだろう。経済力も上がっていて、軍事力も上がっているし、隣国との仲もちょうどいい。そしてそれらは、第三王子の血筋のおかげとも言える。
ある意味では、この国は彼の犠牲のおかげで成り立っているのだ。
だから、国民も、隣国も、第三王子を無碍にはできない。
私は理解を示した。
「ですから、この国に帰郷し、
運命と改めて向き合うために調べていたのですか?」
「それもありますが、まあ……きっかけはまさしくお墓でしょうね」
たとえどんな人間だろうと、死ねば骨である。
言葉を交わすことも、運命だと受け入れはくれない。
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