私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

文字の大きさ
上 下
33 / 59
終章・女神

真・墓守の王子様

しおりを挟む
 元々、墓守の王子様、という逸話も新聞や流説を面白おかしく利用して第三王子の立場を守っていたに過ぎない。
王配教育すら無難にこなせる優秀さ、見た目の良さ、武芸すら身につけて剣を履いていたのである、完璧に近い王子様だったし、醜聞すら覆い尽くせるであろう噂は元々の人気も相待って生まれ故郷に帰って住み着いても失墜せず、むしろ彼が修道院にいるからこそ達成したモノが大きい。女王国との軍事同盟や、子供が隣国の王になったことも母国の安定に寄与したが……。

「しかし、最後の最期は我が儘を言った」

と、掃除夫は語る。

「墓守王子は、死後はなんでか修道女のそのお墓の隣にと、
 ご自分で用意していなさったらしいが、
 まあ、隣国からしてみれば、何故、王の父親が、
 まったく見知らぬ縁のない修道女の隣で眠るのかと猛烈に反発したそうだ。
 アネモネス王家も、さすがに庇いきれなかったらしい、
 いくら墓守王子の最後の願いでもそれは叶わなかった。
 ……なんとはなく、王子本人も分かってはいたらしいがな。
 それで、せめて遺髪だけでもと、側仕えにこっそりと命令した」
「こっそり……」
「ああ。まあ、バレたけどなぁ。
 はは、けどま、許されはしたそうだ。
 子孫がこうして生きていることがその証よ」

わっはっは、と豪快に笑っているが笑えない。
修道女のお墓にはそれほどまで求められる要素は何一つとしてないはずである。
こうして見下ろしてみても、ただの草臥れた墓だ。

「……なぜ、そこまでしてこの墓に執着していたのか。
 先祖も分からなかったらしいが、しかし、残っている話には……、
 キラキラと光って見えていたらしいな、その墓は」
「え」
「修道女の墓だよ。
 名前すらわからない墓だが」

掃除夫は代々この墓回りを管理していたので、引き継いだ話は荒唐無稽とは言えない。
子供心ながらに、どうして墓守王子という名前を頂戴するに至ったのか。

「……死後も墓守するほど気に入ったんだろうなあ」

 墓守王子は毎日のように墓参りするので、その姿を見た一般庶民は敬虔な女神信仰者だと、王子を心底見直した。かつては振る舞いが女好きそのものであったというのに、王配として株を上げ、母国に一時帰国していたはずの元王子が心穏やかに生活をしているのをアネモネス王国民たちは好意的にみていたものらしい。
修道女の墓に入れられた髪は墓荒らしに収奪されることもなく、静かに修道女と共に暗い場所にいる。
 
 さあ、と吹き抜ける風は爽やかだった。
しかし、私の前にあるこのかつての私の墓の下には、知らず知らずのうちに運命の遺髪と眠る骨がある。

 ぐるぐると巡る因果のごとく、私の墓に絡まる草蔓が妙に視界に入って仕方ない。
白く可憐な花は、小さく揺れている。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀
恋愛
「私が目を閉じたら、別れていいよ。死んだら、別れてください」 「……無理なダイエットで貧血起こしただけで天国とか寝ぼけるやつが簡単に死ぬか、あほ」 ------------------- 散々嘘を吐いた。けれど、それでも彼は別れない。 「俺は、まだ桃花が好きだよ」 どうしたら別れてくれるのだろうか。 分からなくて焦った私は嘘を吐く。 「私、――なの」 彼の目は閉じなかったので、両手で隠してお別れのキスをした。 ―――― お見合い相手だった寡黙で知的な彼と、婚約中。 自分の我儘に振り回した挙句、交通事故に合う。 それは予期せず、防げなかった。 けれど彼が辛そうに自分を扱うのが悲しくて、別れを告げる。 まだ好きだという彼に大ウソを吐いて。 「嘘だったなら、別れ話も無効だ」 彼がそういのだが、――ちょっと待て。 寡黙で知的な彼は何処? 「それは、お前に惚れてもらうための嘘」 あれも嘘、これも嘘、嘘ついて、空回る恋。 それでも。 もう一度触れた手は、優しい。 「もう一度言うけど、俺は桃花が好きだよ」 ーーーーーー 性悪男×嘘つき女の、空回る恋 ーーーーーー 元銀行員ニューヨーク支社勤務 現在 神山商事不動産 本社 新事業部部長(副社長就任予定 神山進歩 29歳 × 神山商事不動産 地方事務所 事務員 都築 桃花 27歳 ーーーーーー

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...