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終章・女神
真・墓守の王子様
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元々、墓守の王子様、という逸話も新聞や流説を面白おかしく利用して第三王子の立場を守っていたに過ぎない。
王配教育すら無難にこなせる優秀さ、見た目の良さ、武芸すら身につけて剣を履いていたのである、完璧に近い王子様だったし、醜聞すら覆い尽くせるであろう噂は元々の人気も相待って生まれ故郷に帰って住み着いても失墜せず、むしろ彼が修道院にいるからこそ達成したモノが大きい。女王国との軍事同盟や、子供が隣国の王になったことも母国の安定に寄与したが……。
「しかし、最後の最期は我が儘を言った」
と、掃除夫は語る。
「墓守王子は、死後はなんでか修道女のそのお墓の隣にと、
ご自分で用意していなさったらしいが、
まあ、隣国からしてみれば、何故、王の父親が、
まったく見知らぬ縁のない修道女の隣で眠るのかと猛烈に反発したそうだ。
アネモネス王家も、さすがに庇いきれなかったらしい、
いくら墓守王子の最後の願いでもそれは叶わなかった。
……なんとはなく、王子本人も分かってはいたらしいがな。
それで、せめて遺髪だけでもと、側仕えにこっそりと命令した」
「こっそり……」
「ああ。まあ、バレたけどなぁ。
はは、けどま、許されはしたそうだ。
子孫がこうして生きていることがその証よ」
わっはっは、と豪快に笑っているが笑えない。
修道女のお墓にはそれほどまで求められる要素は何一つとしてないはずである。
こうして見下ろしてみても、ただの草臥れた墓だ。
「……なぜ、そこまでしてこの墓に執着していたのか。
先祖も分からなかったらしいが、しかし、残っている話には……、
キラキラと光って見えていたらしいな、その墓は」
「え」
「修道女の墓だよ。
名前すらわからない墓だが」
掃除夫は代々この墓回りを管理していたので、引き継いだ話は荒唐無稽とは言えない。
子供心ながらに、どうして墓守王子という名前を頂戴するに至ったのか。
「……死後も墓守するほど気に入ったんだろうなあ」
墓守王子は毎日のように墓参りするので、その姿を見た一般庶民は敬虔な女神信仰者だと、王子を心底見直した。かつては振る舞いが女好きそのものであったというのに、王配として株を上げ、母国に一時帰国していたはずの元王子が心穏やかに生活をしているのをアネモネス王国民たちは好意的にみていたものらしい。
修道女の墓に入れられた髪は墓荒らしに収奪されることもなく、静かに修道女と共に暗い場所にいる。
さあ、と吹き抜ける風は爽やかだった。
しかし、私の前にあるこのかつての私の墓の下には、知らず知らずのうちに運命の遺髪と眠る骨がある。
ぐるぐると巡る因果のごとく、私の墓に絡まる草蔓が妙に視界に入って仕方ない。
白く可憐な花は、小さく揺れている。
王配教育すら無難にこなせる優秀さ、見た目の良さ、武芸すら身につけて剣を履いていたのである、完璧に近い王子様だったし、醜聞すら覆い尽くせるであろう噂は元々の人気も相待って生まれ故郷に帰って住み着いても失墜せず、むしろ彼が修道院にいるからこそ達成したモノが大きい。女王国との軍事同盟や、子供が隣国の王になったことも母国の安定に寄与したが……。
「しかし、最後の最期は我が儘を言った」
と、掃除夫は語る。
「墓守王子は、死後はなんでか修道女のそのお墓の隣にと、
ご自分で用意していなさったらしいが、
まあ、隣国からしてみれば、何故、王の父親が、
まったく見知らぬ縁のない修道女の隣で眠るのかと猛烈に反発したそうだ。
アネモネス王家も、さすがに庇いきれなかったらしい、
いくら墓守王子の最後の願いでもそれは叶わなかった。
……なんとはなく、王子本人も分かってはいたらしいがな。
それで、せめて遺髪だけでもと、側仕えにこっそりと命令した」
「こっそり……」
「ああ。まあ、バレたけどなぁ。
はは、けどま、許されはしたそうだ。
子孫がこうして生きていることがその証よ」
わっはっは、と豪快に笑っているが笑えない。
修道女のお墓にはそれほどまで求められる要素は何一つとしてないはずである。
こうして見下ろしてみても、ただの草臥れた墓だ。
「……なぜ、そこまでしてこの墓に執着していたのか。
先祖も分からなかったらしいが、しかし、残っている話には……、
キラキラと光って見えていたらしいな、その墓は」
「え」
「修道女の墓だよ。
名前すらわからない墓だが」
掃除夫は代々この墓回りを管理していたので、引き継いだ話は荒唐無稽とは言えない。
子供心ながらに、どうして墓守王子という名前を頂戴するに至ったのか。
「……死後も墓守するほど気に入ったんだろうなあ」
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修道女の墓に入れられた髪は墓荒らしに収奪されることもなく、静かに修道女と共に暗い場所にいる。
さあ、と吹き抜ける風は爽やかだった。
しかし、私の前にあるこのかつての私の墓の下には、知らず知らずのうちに運命の遺髪と眠る骨がある。
ぐるぐると巡る因果のごとく、私の墓に絡まる草蔓が妙に視界に入って仕方ない。
白く可憐な花は、小さく揺れている。
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